第240話 放射能の町
東京の町は酷いありさまだった。建物は崩壊し木々は焼け焦げてなくなっている。地面には木々の影やゾンビの影が焼き付いており、ガラスや瓦礫が散乱して俺達の装甲バスは何度も足止めを喰らった。
皆が外に出て、放射線測定器を使うが針は振り切っていた。するとユリナが俺を見て感心したように言う。
「ヒカルはこの状況でも、全く影響がないのね」
「体が勝手に修復してくれているようだ。恐らく回復魔法と蘇生を覚えた恩恵だな。だがチリチリとしたものはある」
いま俺達がいるのは練馬区。つくば山から見た限りでは、東京都心の西側で光を確認した。俺達はこのあたりから、捜索を始めようと思っている。
そしてタケルが言う。
「しっかし、これクソあっついぞ」
そして俺が言った。
「俺のそばから離れなければ、放射線の影響を回復魔法で修復できる。安心してフードを外すといい」
俺はゾーンヒールやゾンビ因子除去を何百回としているうちに、連発して範囲回復魔法が使えるようになったのだ。戦闘などで動き回らなければ彼らを修復し続けられる。
ヤマザキが聞いて来た。
「本当に大丈夫なのか?」
「問題ない。放射線は血液や細胞にも影響するようだが、俺はもっと小さい分子レベルで修復する」
皆が恐る恐る防護服のフードを脱いだ。ベール越しではなく、直に風景を見て眉間にしわを寄せる。それだけ被害が広がっており、すでに人が住めるような環境にはない。ゾンビだけがウロウロと歩いているが、それは俺が全て処分していた。
「ヒカルがいなかったら、調査なんて絶対無理だったわね」
「それはそうだが、あまり離れなように。少し状況を把握しないといけない」
皆が頷いた。そしてミオが言う。
「怪しかったのはこのあたりだと思ったけど、もっと都心よりかしら?」
「まずは周辺をまわってみるしかないな」
そうして周辺地域を探ってみるが、何処をどう探ればいいのかもわからない。やみくもにあちこちを彷徨い、結局は何も見つける事が出来なかった。するとタケルが言った。
「昼間じゃダメなんじゃねえか?」
「なるほどな…」
「もしかしたら、夜に動くようにしてるのかも知れねえ」
「かもしれない」
するとユリナが俺に言った。
「ごめんね話を挟んじゃって。ときおり皆の体のあちこちがちらちら光っては消えているんだけど、もしかしてこれはヒカルがやっているの?」
どうやらユリナはスキルにより、みんなの体の状態が見渡せているようだ。俺がやっている事を見抜いている。
「ああ。放射線の影響を取り除いている」
「常に? ヒカルにあまり負担はかけられないわ」
ユリナが、そう言うと皆が気を使ってフードをかぶり始める。そこで俺が提案をした。
「一度離脱しよう。動くなら夜だ」
皆が了承して、俺達の装甲バスは東京を離れるのだった。それから放射線の影響のない所まで戻り、作戦を練る事にした。皆は、防護服を脱いで汗を拭き始める。持って来たペットボトルの水を飲み、パタパタとあおいでいた。
ツバサが言う。
「これ昼間はきついわね。夜ならまだなんとかなりそうだけど」
そこで俺が皆に言った。
「今日、都心に行ってみて分かったんだが、放射線でいきなり死んだり体調を崩す事は無さそうだ。皆が自由に動き回っても、俺が後で回復させれば全て無効化できる。念のため防護服を持って行けばいいと思うが、かえって足かせになるんじゃないか?」
するとユリナが手を上げて聞いて来た。
「一度被曝しても大丈夫と言う事?」
「そうだ。死んだ細胞も遺伝子も全て蘇生する」
「嘘…そんな事が出来るの?」
「俺の基礎のレベルが千を超えているからな、何か新しいスキルを覚えて何度も使用すれば、普通の人とは比べ物にならないほど早く上がるんだ。だから放射線被ばくは、それほど深刻な問題じゃない。数分もあればもと通りだよ」
「ははは…。もう神の力だわ」
「ユリナ、神の力はもっと凄いぞ。まあ…今なら、ドウジマも救えたんだがな」
ドウジマは成田空港で死んだ仲間だ。ゾンビにやられ、当時の俺では彼の回復をする事は出来なかった。だが全ての要因を知った今、レベルの上がった治癒魔法と蘇生を駆使すれば彼は死ななかった。
「ヒカルのせいじゃねえぞ。あんま考えんなよ」
「タケル…」
「昔のたらればなんて意味がねえからな」
「わかった」
そして俺達は夜が来るのを待って、再び東京に向けて出発する。夜になると涼しさが増し、動きやすくなっていた。それでも皆は緊張気味だが、慣れてしまえば彼らも大丈夫だと分かるはずだ。
練馬に戻りまた周辺を探り出す。だがしばらくはゾンビの気配くらいしか感じ取る事は出来ず、新たな情報を得る事が出来ない。
するとツバサが言った。
「山崎さん。エンジンを止めて」
ヤマザキがバスのエンジンを止める。もちろん俺にも聞こえている。
「多分。これはバイクの音よ」
「だな」
原子爆弾に焼かれた東京の町に、バイクのエンジン音が聞こえて来たのだった。俺達のバスはライトを消して道端に停まる。しばらく待っているとバイクの音が途絶えた。
「エンジンを止めたわ」
そして俺が言った。
「方向は掴んだ。行くぞ」
俺の指示の元、バイクのエンジン音が消えた方向に向かって装甲バスは走り出す。誰かがこの東京で何かをしている。しかしこの状態の東京にいる人間など普通ではないだろう。何かの手掛かりがつかめるかもしれない。
そして俺達の装甲バスは、音が途絶えた場所の周辺に到着するのだった。




