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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
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第238話 夜の東京、謎の光

 皆が寝静まった夜、俺は窓のそばに座り下界を見下ろしている。流石に夜となれば先まで見通す事は難しいが、夜がふけていくにつれて少しずつ霞が晴れ星空が出て来た。山で見る星空は更に美しく、シャンデリアのように瞬く星が前世を思い出させてくれる。


 あのころの冒険の途中で、レインとエルヴィンとエリスと共に夜通し話をした事を思い浮かべた。世界を滅ぼすと言われた魔王を討伐する事だけが、俺達の生きる目的と原動力だった。だがそれは、王宮にいた神子の神託によるもので、今となってはその神託が一体どこから来たものなのか疑問に思う。なぜならば、あれは魔王ではなく星の命そのものだったからだ。言って見れば、俺達は世界の神に戦いを挑んでいたのだ。


 何故に神子が神殺しを命じたのか。今ならばあれが間違いであった事が分かる。


 前世で世界の民を救うために魔王ダンジョンを攻略していた俺が、今は国を救うために世界と戦う事になった。しかしその原動力となるものは、あの頃のような誰かに指示されたものではない。俺が実際にこの目で見て戦う事を決めている。この世界は魔王が滅ぼそうとしているのではなく、人間が人間を滅ぼそうとしているのだ。


 神では無く人間に戦いを挑んでいる。


 …ならばやりようはある。


 俺はそう思う。神に挑むという事は、無謀を通り越して不可能に挑むようなものだ。だが相手が人間や国家となれば、神殺しよりはるかに現実的だった。相手は人間であり、前世の剣聖や魔導士のような力を持っているわけではない。武装だけが強力なただの人間なら、対峙してしまえば俺は武器を全て無効化できる。


 俺は振り向いて寝ている仲間達を見た。


 だが彼らはそうはいかない。いかに体に変化が起こりレベルアップをして、この世界の人間の常識とはかけ離れた力を手にしても、核弾頭に勝てはしないだろう。今の俺なら、核弾頭の二、三発は持ちこたえられるだろうが、ここに居る仲間は一瞬にして蒸発してしまう。また、ミナミが言うには、核ミサイルは世界に一万二千五百発もあるらしい。流石に俺でもあれを一万発も喰らったら死ぬ。


 あれを無効化できるならばやりようはあるんだがな。そんな事を考えていると、俺が起きているのに気が付いたマナがやって来る。


「ヒカル、起きていたの?」


「睡眠はそれほど必要がない」


「何を考えていたの?」


「これからの戦いの事だ」


「そう…」


 そして沈黙が流れた。ゾンビだけが敵だと思っていた彼らが、ファーマ―社という敵と出会い、その上に世界が敵だと知ったのだ。未来の事を考えれば暗くなってしまうのは当然だ。


 俺はマナに聞く。


「核弾頭を無効化する方法は無いだろうか?」


「この前みたいに、ヒカルの剣で違う時空に飛ばせばいいんじゃない?」


「いや。この世界には一万二千五百発の核弾頭があるんだ。戦いになれば日本のあちこちに何発も撃たれるんじゃないのか?」


「確かに…」


 俺達が話をしているとミナミがやってきて座る。そしてミナミが俺にいった。


「発射させなければ無効よね」


「あれは一体どこから発射されている?」


「核ミサイル発射基地か、原子力潜水艦から発射されてるわ」


「それはどこにある?」


「地球上のいたるところ、原子力潜水艦は港か海の中よ」


「そうか。場所を特定する事は出来るか?」


 すると二人が首を振った。


 なるほど核ミサイルの発射場所は見つけるのが難しいらしい。いくらダンジョンを攻略しようとしても、場所が分からなければ攻略しようがないのと同じだ。やはり今は、静かに日本に潜伏し生存者を助け続けるしかないだろう。


 だがミナミが言う。


「すぐに核弾頭を使用する事は無いわ。条約を結んでいるし、隣国を無視して撃ったとしたら戦争になる」


 突然、マナが何かに気が付いて指を指した。


「ねえ! あれ!」


 大きな声を出したので皆が起きだして来た。が指をさされた方を見ると、暗い平野の一点がポツリと光っていたのだ。


「光ってる」


「誰かがいるって事じゃない?」


 皆が集まってきて暗闇に浮かんだ光を見た。タケルが窓に食い入るように張り付いて言う。


「あそこは東京だろ?」


「そうね」


「燃やされた町に人がいるのかよ?」


「わからないわ」


 俺達がそれを見ていると、どうやらその光は動いているようだ。


「動いてるな」


 するとヤマザキが言う。


「ヘリか車か何かが移動しているんじゃないか?」


 それは俺達が見ている中で唐突に消えてしまった。するとリコが言う。


「消えた位置は?」


「明るくならないと分からんな」


「朝まで待っていよう。覚えておけばおおよその位置は特定できるかもしれない」


 そうして俺達は全員で、東京の暗い街を見下ろし続けた。だがその後、光が輝く事は無かった。次第に空が明るくなり、朝日が地平線から浮かび上がって来る。


「見て」


 ミオが地図を持って来てペンで囲む。


「恐らく西側の何処かよね」


 俺が言った。


「いずれにせよ。一般市民でないことは確かだ。東京に何かあるのは間違いない」


 皆が頷くが、沈黙と共に暗い表情を浮かべた。


 するとアオイがみんなに言う。


「ねえ! 一階のお土産屋さんを見て行こうよ」


「よし!」


 俺達は皆で一階に下り土産屋を見た。皆で見ている時アオイが言う。


「皆で同じキーホルダーつけようよ! これ!」


 それを見たユンが言う。


「がまがえる! 可愛いっしょ! つけよー!」


 そして俺達は皆で、カエルが彫られた硬貨のような同じキーホルダーを身に着けた。するとアオイが言う。


「これで皆はずっと一緒! 死ぬ時までずっとこれをつけておこうよ。もし何かがあって分かれたとしても、必ずみんなのもとに帰るっていう印!」


「かえるだけにな! 良いこと言うねえ葵ちゃん! 皆、死ぬまで一緒だ!」


「「「「「「「「「「オー!」」」」」」」」」」


 皆は恐怖を振り払うかの如く鼓舞する。これから死ぬかもしれないという恐怖を。だが俺は皆を死なせない、必ず活路は開けると信じてバイクにまたがるのだった。

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