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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
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第234話 某国の大統領

 俺とタケルが物資を回収して、海底ケーブル陸揚げ局に到着した。既に辺りは薄明るくなってきており、じきに太陽が顔を出すだろう。二人はリュックサックに物資を大量に詰め込み、三メートルの金網の柵を乗り越える。仲間の中では何故かタケルが最もレベルが上がっており、恐らく前世なら簡単なダンジョンの数階を踏破する力があるだろう。


 俺達が入り口について玄関をノックすると、鍵があいてミオが出て来た。


「ずいぶん時間がかかったみたいね、みんな心配してるわよ」


 俺は苦笑いをして答えた。


「そ、そうか。物資の調達に手間取ったんだ。なあタケル」


「あ、ああ。あちこちに散らばってたからな」


「そうなんだ」


 実は違う。俺とタケルは夜明け近くまで、バイクでツーリングしていたのだ。爽快に風を切り、ゾンビや放置車両を掻い潜ってバイクを乗り回して来た。


 皆が一生懸命やっている時だけに、俺はそれを言う事が出来なかった。タケルが言う必要は無いと俺に口止めをしていたのもある。


 俺達が中に行くと、女達が心配そうに声をかけてくるので一応謝る。そして背負っていたリュックサックを下ろし中身を広げていく。するとみんなが喜んでくれた。


「缶詰とか結構あったのね」

「ほんとだ。ご飯が欲しくなりそうな」


「ああ、皆で食べよう」


 俺はオオモリの所に行ってペットボトルを渡してやる。するとオオモリがそれを見て喜んでくれた。


「コーラじゃないですか! 命の水だぁ!」


 プシュッと蓋を開けてオオモリがコーラを飲む。するとマナも言った。


「私も欲しいわ」


「まだあるぞ」


 マナにも渡してやった。二人は目の下にクマを作っており、どうやら夜通しパソコンとにらめっこしていたらしい。それを見ると途端に申し訳なくなってくる。


「そろそろ休むと良い。この施設は四方を高い金網で囲まれているから、ゾンビも入ってくる事は無いし、この建物もかなり堅牢な作りになっている。安心して眠れるぞ」


 俺が言うとヤマザキが言う。


「まあ、交代しながら休んでたさ」


「しかし、マナもヤマザキも思考が低下している。思考加速の使い過ぎで倒れるぞ」


 ドサ。


 と俺が言っているそばから、オオモリが倒れてしまった。


「大森君!」


 ぐごー、がごー! 


 オオモリはいびきをかき始めた。マナもパソコンを見るのをやめて、ため息をついて床に座った。


「ネットは、どうだった?」


「多分まだ電力が蓄積されてないみたい、いったん電気を落として寝た方が良いのは正解かも」


「では皆、休むと良い」


 部屋の電気を消すと、壁の上にある小窓から光がさしていた。部屋の中は薄暗いので寝るにはうってつけだろう。少しするとあちこちから寝息が聞こえて来た。


「タケル。お前も寝ろ」


「なんか眠くねえんだよな。アドレナリンがどっぱどぱでよ」


 するとユミが聞いて来た。


「なあに? なんでアドレナリンが出てんのよ?」


「あ、いや。まあ回収から帰って来たばっかだからな!」


「ふーん」


 そんなやり取りをしながらも、少し落ち着いて来ると皆が眠り始めた。護衛の必要もないが、俺は一人起きてパソコンの画面を見つめる。そこには『応答時間が長すぎます』と表示されており、何も映っていなかった。


「繋がらないのか?」


 俺は見よう見まねでマウスを使い、更新の所をクリックしてみる。すると読み込むような画面になるが、しばらく待ってみても結局『応答時間が長すぎます』という表示が出るようだった。


 そして俺は手元の缶詰を開けて、フォークで中身を口に入れた。これはシーチキンと言う食い物で、マグロという魚の缶詰らしい。油の中に魚の身を茹でたものが入っており、塩も効いているのでこれだけでも美味い。


 プシュッ


 俺もコーラのペットボトルの蓋を開けて飲む。


 カチ!


 俺はまた更新の所をクリックした。他に出来る事は無いが、何か変化があるかもしれない。しかし、しばらくすると『応答時間が長すぎます』という表示がでた。それが出たらまた更新を押す。皆が寝ている間はすることが無いので、俺はそれを繰り返していた。


 だがもう何度目か分からないほど繰り返していた時だった。


 パッ! と画面が変わり何かが映し出される。


 おお! なんだ? どうする?


 俺は周りをきょろきょろするが、まだみんなは寝ているようだった。俺がそれを見たところで何も分からないので、仕方なくマナを起こす事にした。


 俺は静かな声で言う。


「マナ、マナ。起きてくれ」


 かなり疲れているようでなかなか起きない。


「マナ」


「う、…うん。あ、ヒカルゥ…どうしたの?」


「変な画面が出た。見て欲しい」


「えっ!」


 マナがスッと飛び起きて、パソコンの画面を見る。俺はマナに聞いた。


「なんだこれは?」


「大手の検索サイトよ」


 そしてマナがそっとパソコンを離れオオモリを起こした。オオモリもなかなか起きなかったが、マナが耳元でささやくとガバッと起きる。


「どうしました?」


 俺達の声を聞いて数人が起きだしてくる。マナがオオモリに言った。


「グー〇ルの画面よ」


「マジだ…」


「検索したら反応するかしら?」


「やってみましょう」


 オオモリはパソコンの前に座り、文字をうち込んだ。また読み込みが始まり、しばらくその動きを止めた。俺達がパソコンを凝視していると、パソコンの画面に青い帯が現れ、スーツを着た老人の写真が映し出される。


「おお! ネットが生きてる!」


 俺がオオモリに聞く。


「これはなんだ?」


「この人は大統領です。演説の様子っぽいですけど」


「ダイトウリョウ」


「国のトップです」

 

 オオモリがそのページを下に下げると、皆が一斉に動揺した。


「えっ? まって…」


 皆がシンとする。その理由は俺にも分かった。英語で書かれた場所には日付がうたれており、その日付はなんと五日前の日付だったのである。


「ちょ、クリックしてみて!」


「わかりました」

 

 そしてオオモリがその文字をクリックするが、画面が白く変わりまた先に進まなくなった。


「電力の問題だわ。恐らくネットは生きてる!」


「愛菜さんの言う通りですね。中継地点までの電力が行ってないんだと思います」


 しばらくすると『応答時間が長すぎます』という表示になってしまった。そこからどう触っても動かなくなる。


「でもアメリカのホワイトハウスは生きているって事よね」


「そうじゃないっすか?」


「と言う事は世界は全て死んではいないのかもしれないわね」


 そこでオオモリが言う。


「周辺の火力発電所が生きてないですかね? もしかすると燃料が残ってるかもしれない」


 そしてミオが地図を広げて指を指した。


「ここに火力発電所があるわ。目と鼻の先よ」


 三キロ先に火力発電所があった。そこに燃料が残っていれば、十分な電力量を確保できるという。


「仙台発電所を動かしているのを見たわ」


 リコが言った。


 俺達は全員で火力発電所に向かう。ゾンビを全て片付けて火力発電所の中を進み、見よう見まねでいろんなところを探っていく。


「先に太陽光発電所を稼働させておいて良かったわ。燃料があるのが確認できた」


 それからしばらく皆で手分けして、火力発電所を稼働させることに成功するのだった。恐らく燃料はそれほど長くはもたない量で、俺達は急いで海底ケーブル陸揚げ局に戻る事にする。


「戻りましょう」


 急いで戻り、下層の機器をいろいろ触っていくうちに、マナが電圧を上げる仕組みを見つける。それを操作し事務所に戻って、皆がパソコンの前に集まり釘付けになる。オオモリがパソコンを操作して再びクリックした。


「映った!」


「翻訳して!」


「はい」


 すると画面の英語文字が日本語に変換された。皆がそれを見て目を見開く。


「なにこれ…」


「本当に終末世界なのかしら?」


 なんとそのページには、大統領の演説の内容が記されていたのだった。

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