第232話 中性子爆弾の影響
オオモリの流したネットの情報が瞬く間に広がり、集まった人らに急いでゾンビ因子除去を施した。
水戸市には多くの生存者がおり、聞けば大半が茨木県内や千葉県から逃げて来た人達だった。東京が核兵器で攻撃されたため、放射線などの影響を恐れて逃げたとの事。
だが俺は何人かに一人の体が、体内から壊されている事に気が付く。元々何かの病気にかかっていたと思っていたが、俺はその事をユリナに聞いてみる。
「ユリナ。全員ではないが、一部に細胞が損傷している人間がいる」
「えっ?」
「外傷がないが、DNAが損傷しているんだ」
「そう…多分だけど、被曝しているのかもしれない」
「ヒバクとはなんだ?」
「放射線によって細胞が破壊されることよ。内部から壊れていくの」
「東京の核弾頭が影響しているのか?」
「たぶんそうでしょうね」
「ファーマー社は余計な事をしてくれたわけだな」
「もしかして…助からない?」
「いや。治した」
「治した?」
「と言うよりもいつもの施術をしただけだが、DNAからゾンビ因子が除去されるときに修復された」
「そうなの! 凄いじゃない」
「治癒のレベルが上がったんだ」
「でもまた被曝しちゃうんじゃない?」
「いや。もう大丈夫だ。万が一DNA破損すれば更に強くなって修復される」
「ちょっとまって、これから被曝した人はどうなるの?」
「そのヒバクとやらをしてみないと何とも言えないが、恐らくは問題なく治せるだろう」
「すごい…」
ユリナはそう言うが、前世の魔王ダンジョンの六十五階層はもっとひどかった。そこにいるだけで人間が瘴気に犯され、体内から全て変わってバケモノになってしまう。その時はレインの聖魔法とエリスの治癒魔法で切り抜けたが、内部から変わっていく速度はヒバクの非ではなかった。
治癒した人達は俺の元へやって来て言った。
「全身が脱力してたんだ。すっかり元気になったよ! ありがとう!」
「物を食べてもずっと吐いてたんだけど食べられるようになったわ」
「口内炎が酷かったんだけど、すっかり治っちゃった」
「半身が痺れてたんだけど戻ったみたいだ」
一応、ユリナが施術後の人を一人一人看ていくが、どこにも異常が無くなっている。症状の酷かった人らに聞いたところによると、千葉や茨木でも東京に近い人達だった。
ユリナが言った。
「風向きとかで被害の地域が拡大したのね。そこの水や食べ物を食べて被曝しちゃったのかもしれない。降り注ぐ放射線も影響していると思う、雨とかに混ざって落ちてくるから」
どうやら核兵器は爆心地だけが被害を被るわけではないようで、広範囲の人間に影響を及ぼしているらしい。
それを聞いたミナミが言う。
「中性子爆弾が使用された可能性が高いわ」
「チュウセイシ爆弾?」
「放射線を多く発生させる為、放射線強化弾頭なんて呼ばれているの。生物の殺傷を目的に作れらた爆弾ね」
「ファーマー社はチュウセイシ爆弾を使って、日本人を根絶やしにするつもりか?」
「かもしれないけど。もしかしたらゾンビにも影響するのかしらね? いずれにせよ何らかの目的はあるはずだわ、中性子爆弾が使われた国なんてどこにもないのよ」
「そんなものを、人間がいるかもしれないところに落とすのか?」
「そうね。戦争になればその可能性はあったけど、核爆弾自体が第二次世界大戦以降は使われた事がないわ」
「それなのに、東京に落としたという事か」
「そうね」
更にファーマー社がやっている事を許す事が出来なかった。多くの人間に被害を与えるような爆弾を東京に投下し、奴らはそれを福島の第一原発跡地にも撃って来た。そんなものがあちこちに投下されたら、人間が住めなくなってしまう。
そして俺達が避難民に聞いた。
「水戸市より南側に生き残っている人はいるかい?」
すると皆が顔を曇らせて首を振る。そして人々が話し出す。
「動かせない人がたくさんいたわ。だから置いてくるしかなかった」
「私の娘は途中で血を吐いて死んだわ。途中の民家に放置して来た」
「次々に息を引き取ってしまった。この先の地域は人が住めなくなっている」
どれも悲惨なものだった。俺達はその話を受けて皆で集まり話をする。
ヤマザキが言った。
「恐らくこの水戸あたりがギリギリのラインなんだろう」
俺が言った。
「可能であればもっと北に行った方が良いだろうな」
そしてマナが言う。
「みんなに伝えた方が良いんじゃない」
「そうだな」
俺達は生存者を集めて話をすることにした。ここから北のいわき市にもセーフティーゾーンはあり、東京から離れた方が安全ではないかと伝える。またいわき市のリーダーであるパパの事も伝え、俺達の事を話せば受け入れてくれるだろうと教える。
すると生存者を代表して一人の男が聞いて来る。
「あなた達はどこに?」
それにヤマザキが答えた。
「我々は、海外と繋がるネットワークケーブルを探して南に向かっています」
「えっ! では東京に行こうというのですか?」
「東京を通るか迂回するかは決めかねてます。もちろん東京は放射線の嵐でしょうから」
「そうだと思います! とても危険だ! やめた方が良い!」
「分かっていますが、日本の為に出来る事をしなければならない」
そうヤマザキが言った時だった。生存者の後の方から手が上がる。
「あの!」
それは若い女性で、顔が薄汚れているも整った顔立ちをした人だった。
「あ、どうぞ」
「あなた方は外洋ケーブルの終端を探しているんですか?」
「そうです」
「でしたら私の父が電話局で働いていました」
「お父さんは?」
「死にました…。ですが、父はから終端ケーブルの話を何度も聞いた事があります」
「本当ですか?」
「はい。私は行った事は無いのですが、場所はおおよそ分かります」
そう言って彼女は地図を指さして場所を教えてくれた。俺達はここに来て新しい情報を入手する。それを見た俺達は目を合わせて頷いた。俺が言う。
「かなり近いな」
「そうね」
「行ってみよう」
生存者が指さした場所は近く、俺達は早速そこに向かう事にしたのだった。




