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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
222/614

第221話 楽しい刀狩り

 俺とミナミはバイクで三十分ほど北に走り、地図を見ながら目当ての美術館を目指していた。


 仙台市を出た俺達が今いるのは古川市と言う場所で、仙台市の前に解放した場所だ。俺達がバイクで走っていると、俺を見つけた生存者達が手を振ってくれる。そして俺達は地図を頼りに、そこから西に向かって走り始めた。6Gの電波圏外に出て電波の飛ばない地域に来てしまうと、やはりゾンビは動いている。生存者が生き延びるためには、電波で囲まれた安全地帯に移動してもらうしかない。


 バイクの後ろでミナミが俺に言う。


「セーフティエリア以外はやっぱりゾンビが動くのね」


「今の状況ではこれが限界らしい」


「全域に電波が広げられればいいのに」


「それだと電力が足らんらしい。あくまでも基地局を動かすだけの最低限しか確保できないらしいからな。それでもいっぱいいっぱいらしいんだ」


「あとは生存者達が自ら動いて、救出して行くしかないということね」


「そういうことだ。とにかくゾンビの多い都市部を押さえ、あとは生き残った人間達で、どうにかしてもらうしかないという事だな」


 オオモリとマナが局舎を再稼働させているが、太陽光発電や発電機による電力では局所的にしか安全地帯を作り出せない。全域を稼働させるには大型の火力発電所がないと、電源の供給は難しいらしい。


「こっち」


 ミナミに言われ更に田舎道を進んだ。ゾンビがウロウロしているが、俺達はかまわずそこを進んでいく。夜の東京を二人で走った時には怯えまくっていたが、もうゾンビを恐れるミナミは居ない。


 俺がバイクを走らせていると、ミナミがトントンと肩を叩いた。俺はバイクを停めて振り返る。


「このあたりか?」


「そうみたい。そこに駅があるからすぐね」 


 俺達がゆっくりとバイクを走らせていくと、ようやく目的の場所が見つかった。俺達がバイクを降りたつと、ウロウロしていたゾンビ達がこちらに向かって来る。するとミナミが言った。


「片付けましょう」


「ああ」


 まずは俺の飛空円斬で視界に入るゾンビを斬った。そして俺がミナミに言う。


「そろそろ日本刀にガタが来ている。あと何振りかしたら限界だ」


「なら。細かいゾンビは私に任せて」


「ああ」


 俺達がバイクを降りて目当ての建物に歩いて行くと、入り口のガラスが割れていた。俺が気配探知で建物内部を探る。


「ゾンビが四体ほど内部をうろついているな」


「えっ? 保管されている日本刀は大丈夫かしら?」


「行こう」


 中に入ってみると、血の跡や荒らされたような跡が見える。すぐにカウンターの後ろから一体のゾンビが襲い掛かって来た。ミナミはそれを鮮やかに斬り落とし更に先に進んでいく。ドアが見えたので俺が開くと内部に二体のゾンビがうろついていた。


「任せて」


 瞬間でミナミはゾンビを斬り落とした。そして周りを見渡す。


「日本刀だわ! ほとんど荒らされてない!」


「本当だ」


「良かった! どうやらゾンビは日本刀には見向きもしなかったみたい」


 そう言ってミナミが、一番近くに展示されている日本刀の所に向かう。


「ミナミ、そっちには…」


 最後の一体のゾンビを感知していたので、俺がミナミに注意しようとしたが余計なお世話だった。ミナミはゾンビを見ずに日本刀で斬り捨ててしまう。


 確実にレベルアップしている。既にゾンビを斬るのは空気を吸うより簡単なようだ。そしてガラスの中にある日本刀を見たミナミが目を光らせて言う。


「綺麗…」


「素晴らしいものだな」


「ここを管理していただいた人に感謝だわ」


「おかげで人類の為に役立てる事が出来るからな」


「ええ」


 そう言ってミナミは手を合わせて目をつぶり、祈りを捧げるような素振りをする。俺も一緒に手を合わせて祈りをささげた。彼らはちょくちょくこの仕草をするが、死者に対しての感謝の念を忘れない姿勢は立派だった。


 次の瞬間、シンと静まり返った館内にミナミの声が響く。


「じゃ! 全部もらいましょ!」


「ふふっ。そうだな」


 それはそれ、これはこれと言う奴だ。切り替えが早い。


「でもバイクでは全部は持っていけないかもよ」


「問題ない」


 そう言って俺はワイヤーを見せた。


「どうするの?」


「まずは全て取り出して袋に入れるか布に包もう」


「わかった」


 それから二人で館内の剣を集め出す。すると面白い剣も見つかった。日本刀ではないその剣をかざしてミナミに見せる。


「ほら? これ! 日本刀じゃないよな?」


「日本刀以外もあるみたいね。どうしたい?」


「使える。持って行こう」


「わかった」


 そして俺達は一本一本を専用の袋に入れ、布にくるみ刀をまとめていく。約三十本ずつの束にして、俺がその二つを持ち上げた。バイクの所に行って、その二つを両側にかかるようにしてぶら下げる。


「サイドカーみたいになってる…」


「これで行こう」


「わかったわ」


 俺が前にまたがるが、ミナミが言う。


「これまたがれないわよ」


「…すまん。その上に乗ってくれ」


「わかったわ」


 ミナミが剣に足を乗せるようにして座る。そしてミナミがぽつりと言った。


「車で良かったみたい…。ヒカルは、どうしてもバイクが良かったの?」


「すまん。車の運転はダメなんだ」


「知ってる。だったら私が運転したわ」


「…すまん。どうしてもバイクに乗りたかった」


「あ、実用的な問題じゃなくて?」


「そうだ。久しく乗っていなかったからどうしても…」


「ふふっ」


「あと。日本刀を取りに行くって聞いたら、バイクで行きたくなってな」


 ミナミがげらげら笑いだす。そんなにおかしなことは言っていないと思うんだが。


「なんだ?」


「なんていうか、タケルみたいな事をいうんだなと思って」


「そうか?」


「ヒカル。気を悪くしないでね?」


「なんだ?」


「なんていうか、可愛いわ。ヒカルに可愛いなんて言うのは失礼かなって思ってたんだけど、実はずっと思ってた」


「か、可愛い? 俺がか? なんだそれは?」


「だって、可愛いんだもん」


 複雑な心境だが、ミナミは悪い意味で言っている訳じゃなさそうだ。そして来た時より、ミナミが俺に回す腕の力が強まった気がする。なぜか俺の気分は高揚し、バイクのスピードを落としつつ春に色づいた田舎の道を走っていくのだった。

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