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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第四章 逆襲編
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第220話 杜の都の生存者達

 オオモリが作った仕組みを使って人々を呼び寄せた結果、少しずつ仙台市に生存者が集まって来た。最初は恐る恐るだったらしいが、ゾンビが動かない事を確認するとようやく都市内に入って来る。郊外に逃げていた生存者達は、俺達が指定した仙台青葉城跡地の伊達政宗の像のもとに集った。


 動画で情報を見て来ただけあって、攻撃してくる事も無く速やかに俺達の話を受け入れてくれる。もともとこの付近は人口が多いものの、東京と違って少し外れれば民家の少ない地域もあり、かなりの人達が避難していたことが分かった。


 生存者は疲弊していて皆が一様に痩せていた。話を聞けば体の弱いものから死に、ゾンビに変わっていったらしい。それを聞いてユリナが言う。


「免疫や抵抗力のある人が生き延びてるようね。どうにか自然食を栽培したり入手して食べていたらしいわ。陽が落ちると寝て、日が昇ると起きるといった健康な生活をしていたのが功を奏したわね」


「良く生き延びていてくれた」


 そしてタケルが拡声器を持ち、集まった人らに呼び掛ける。


「俺達の呼びかけに集まってくれてありがとう! あの情報を見てもらった通りだ! あれは作りものや嘘の情報じゃない、本当に起きた出来事なんだ。俺達はこの東北各地で、かなりの生存者を保護して来た。まだ日本には生き残っている人達が大勢いる。俺達も元は一般市民だったが、皆が立ち上がって生きている人を救っているんだ。ここに集まった皆も、人間の世界を取り戻す為に協力してほしい!」


 タケルが言い終わると少し沈黙がおき、大勢の中から髭を生やした中年の男が聞いて来た。


「俺達の家族や知人は、本当に外国の一企業に殺されたっていうのか?」


「それは間違いない。皆が知らないうちにゾンビになるように仕向けられ、そしてこのパンデミックが起きたんだ。何故奴らがそんな事をしたのかは分からない、軍事目的だったのか実験だったのか。だが、こんなことは到底許されない事だ」


「あの動画の情報は本当なんだな?」


「作りものじゃない。俺達が研究所に行って直に見て来た」


「だとすれば、あんな軍事組織に勝てるのか? 自衛隊も消滅してしまったんだろう?」


「そうだな…どうやら自衛隊には先に薬品がばら撒かれたらしいからな。反撃の牙を抜いてから、日本人にゾンビ因子を撒いたらしい。だが俺達は生きている! 俺は出来ると思っている。だけど! それには皆の力が必要なんだ!」


「軍隊と戦うとか言われてもなあ」

「そうだわ」

「無理だろう」


 ざわざわと広がっていき、広場は騒然としてしまう。だがこの反応も何度も見て来た。


「とにかくだ! 情報で見てもらった通りに、ほとんどの人にゾンビ因子が入り込み蔓延している」


 タケルの言葉を聞いた、髪の長い中年の女が聞いて来る。


「皆が体調不良を訴えてる原因がそれって本当なの?」


 それにはユリナが答えた。


「ゾンビ因子を取り込んで排除できない人らは、死に向かっていると考えて貰って良いと思うわ」


「スマホに送られて来た情報では、原因不明のめまいや頭痛に悩まされたり、関節に激痛が走って歩けなくなったり、心臓が苦しくなったり、だるくて起き上がれなくなったりするって書いてあった」


「そう言う人が周りに居ませんでした?」


「大勢いたわ」

「俺の周りにもいた」

「私達の側にも、それで亡くなった人もいっぱい」


「それは全てゾンビ因子の可能性があるんです」


 またざわつきが広がっていく。ここに来れたという事は、その中でも健康状態が良い人達なのだろうが、皆にも心当たりがあるのだろう」


 そして髪を結った若い女が言う。


「その症状を治してくれるって書いてあったけど」


「そう。だからここに集まってもらったの、その方法を話すから皆は彼のもとに集まって」


 ユリナが俺を指さす。するとそこに集まった人達が俺の側に集まって来た。所狭しと集まり、密集したところで俺は魔力を貯めこんだ。


 ユリナが言う。


「とりあえず座ってください! 後ろの人が聞こえないといけない」


 すると中心から後ろに向かって生存者達が座っていく。この国の人達は本当に団体行動に慣れているようで感心する。俺を中心に円形に集まり、後ろの人の顔まで見渡せるようになった。


「では皆さん! 集中!」


 皆が俺に集中したので、その瞬間に俺はゾンビ因子除去の為に蘇生魔法を爆発させる。俺を中心にして四方に光が広がり、いっきに最後尾を突き抜けた。すると座っていた人達が風圧で中心から後ろに向けて倒れ込んだ。立ったままやると怪我をしてしまうので座らせたのだ。今までは剣に乗せて魔法を走らせるしか方法を知らなかったが、俺は素手で飛ばす事が出来るようになっていた。


「終わりです!」


 ユリナが言うと、倒れ込んだ人達が目をぱちくりさせながら起き上がった。そして周りの人らを見てざわつき始める。


「あんた真っ白だぞ? 粉でもかぶったみたいに」

「いや、あなただって」

「え。君も真っ白だ」

「うそ。ていうかあなたも」


 騒ぎを鎮めるために、タケルが拡声器で声を張り上げる。


「その白いのがゾンビ因子の死骸だよ。これで皆の体はゾンビ因子を受け付けない体になったんだ」


「こんな、簡単に?」

「ゾンビ因子が無くなった?」

「方法を教えるんじゃなかったの?」


 真っ白になった人達が俺達に疑問の声を投げかけて来る。そこでユリナが言った。


「驚くのも無理はないわ。でも皆さん! 体調はどうですか? 頭痛は? 腰痛は? 胸の重苦しさはどうですか?」


「ない」

「軽くなった…」

「あんなにだるかったのに」

「手のしびれが無くなった」


「それが結果です! もしここに来れなかった人がいたら、その人達も連れて来てください!」


 少し沈黙し一斉に大歓声が上がった。


 わああああああああ!


「凄いぞ!」

「奇跡だ!」

「本当に神様なんじゃないのか?」

「すぐに連れて来なくちゃ」


 真っ白な人達が喜んでいる。俺の蘇生魔法がレベルアップしたことで、これだけの人を一気に治す事が出来るようになったのだ。相変わらず体組織も変換してしまうため、彼らはこれから先にレベルアップと言う変化に戸惑う事になるだろう。


  そしてヤマザキが言った。


「これからこの都市を復活させる協力をしてください! もし市の職員の方や公務員がいらっしゃいましたらご協力を!」


 するとがっちりした男と痩せた男が手をあげた。


「私は警察官でした! ぜひ協力させてください!」

「私は県庁職員です。お役に立つことがあれば!」


 二人が声を上げると、次々に市民達に声が広がっていき群衆の意識が高まっていった。そしてその人らに向かってミナミが声を上げる。


「あの! すみませんが日本刀を探しています! ご存知の方はいらっしゃいませんか?」


 三人が手を上げた。その一人にミナミが聞く。


「どこに?」


「それなら美術館がありますよ。ここから車で一時間ちょっとの所ですけど」


「詳しく聞かせてください」


 三人がミナミの元へと集まる。次にマナが言った。


「えー、電力関係か電話関係の仕事に携わっていた人いませんか?」


 すると一人が手を上げて言った。


「うちの父が技師です」


「お父さんはどちらに?」


「歩けなくなったので、隠れ家にいます」


「次に連れて来てもらえますか? 他にも心当たりのある方がいらっしゃいましたらお願いします!」


 とにかく皆が自分が出来る事を必死にやっている。そんな中で俺はオオモリを探した。するとオオモリは、真っ白になった生存者一人一人に何かを聞いている。俺はオオモリの所に行って様子を見る。


「実際はどう思いました? 動画を見た時」


「嘘だと思いましたね。でも生存者がいると知って恐る恐るやってきました」


「実際に来た感想は?」


「本当だと分かりました。かなり体調が悪かったのですが、こんなものが体に入り込んでいたなんて」


「ありがとうございます!」


 話を切ったオオモリが撮影を止めてこちらを見る。


「ヒカルさん。凄い反響ですよ」


「何をしているんだ?」


「もちろん動画を撮ってます。実際に助かった人らの声を上げる事で、更に多くの人に訴求できるようにするんです。次の土地に行ったら、この動画をプラスして公開します。人のネットワークが広がるようするんです」


「お前は凄いな。よくそんなことを思いつく」


「ふふっ! やってみたかったんですよ!」


「これをか?」


「動画配信ってやつをです! ゾンビの世界になる前は、そう言う事をしてお金を稼ぐ人達がいっぱい居たんですよね。今はインターネットが無くなって見れなくなりましたが」


「変わった職業があるもんだな」


「そう思います」


 満足そうに笑うオオモリを見て、俺は肩に手を乗せて言う。


「お前のおかげだよ。八方塞りだったこの世界に光が刺したのは」


「へっ? 僕? それは違いますよ」


「違わん」


「違う違う! 全てヒカルさんが居たから事が進んだんです。もしあなたの力が無かったら、こんなことは絶対に不可能でした。ヒカルさんがいなかったらこの世界は終わってましたよ!」


 どうなんだろう? 俺は前の世界を滅ぼしかけてこの世界に飛ばされて来た。もしかしたら、前の世界の意思が、この滅びかけた世界を救えと言っているのかもしれない。

 

 そして俺は拡声器で話をしているタケルを見る。


 元はと言えば、俺がアイツの腕を斬ったのがきっかけだったかもしれん。


 そしてミオを見る。


 彼女が俺の事を理解しようとし始めたのが最初だったかもしれない。


 そして死んでいった彼らの仲間の想いが、皆を突き動かし俺を動かしたのだろう。目の前で起きている奇跡を見ながら、俺は再びオオモリを見て言う。


「皆がいなかったらこうはならなかったさ。俺だけなら、ただゾンビを倒すだけに明け暮れていたかもしれん。もしこの先、世界を救うような事があればそれはこの十三人でやった事だ」


「まあ、そうかもしれませんね」


 俺、タケル、ミオ、ヤマザキ、ミナミ、ユリナ、ツバサ、ユミ、マナ、ユン、リコ、アオイ。そしてオオモリの十三人。その誰がかけてもこうはならなかっただろう。


 真っ白な人々に説明をしたり、皆の体を拭いてあげたりする仲間を見てそう思う。


 そしてミナミが俺の所に来て言った。


「ヒカル! 日本刀が保管されている美術館に行かなくちゃ! なんと五十振も保管してあるそうよ」


「なに! そいつは凄いな。すぐに行こう」


「ええ」


 これで残り二本となっていた日本刀の補充が出来る。魔法剣も何度か使ったので耐久性が不安だったが、軍隊との戦いに備えて補充をする必要があった。そして俺はタケルに言った。


「タケル!」


「あ?」


「市民にバイク屋を聞いてくれ!」


「了解」


 そしてタケルは拡声器で聞いた。


「えーっとバイク屋を知ってる人!」


 すると三人くらいが手を上げた。


「集まって!」


 タケルの周りに市民が集まり、バイク屋についての情報を聞き出すのだった。

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