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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第209話 未来について

 第一原子力発電所を消滅させてから、データとサーバーを持って俺達は内陸へと逃げた。俺達の襲撃で敵は壊滅的な被害を受けたと見え、追跡してくる様子も無い。山脈を越えて更に進んだ先に都市があり、俺達はその郊外に拠点を構える。


 俺達が拠点として見つけた場所には、黒く輝く板が敷き詰められていた。どうやらこの黒いパネルで太陽の光を集め、それを電気に変えているのだという。福島の海沿いで見た大きなタンカーなどで燃料を運ばずとも、このソーラーパネルとやらが電気を発生させているのだ。


 そこに俺とオオモリが立って眺めている。


 オオモリが言った。


「これだけの規模の太陽光発電所があるなんて、ラッキーでしたよ」


 それに俺が答える。


「日光でも同じものを見たが、それよりも規模は大きいようだ」


「おかげでサーバーを動かす事も出来ますし、プログラムも出来ます」


「人間の未来はお前にかかってる。頼むぞ」


「やるだけやってみますよ。でも嘘みたいです。僕の研究が人類を救うかもしれないなんて」


「お前は凄い奴だ」


「ヒカルさんに言われると嬉しいですね」


 冬の寒い風が俺達の頬を撫でるが、太陽の光があるのでそれほど寒さは感じない。


 二人が話し合っていると、そこにヤマザキがやって来た。


「寒くないのか?」


 それにオオモリが答える。


「不思議と寒さは感じませんね。絶望していたAI研究所で、仲間達のゾンビに囲まれて辛うじて生きていた頃から考えると、生きる力が漲ってきますよ! こうして電源を確保できましたし!」


「本当についていたよな。本来この地は雪が多いはずなんだが、今年は雪が少なくパネルのほとんどが無事だ。変電所もあるし現状、我々の理想とする場所だろう」


「はい!」


「飯の準備が出来たから呼びに来た」


「わかった、すぐ行く」


 それにも増して俺達が幸運だったのは、この地には野生化した牛があちこちに生息していた事だ。黒い毛の牛で、その肉はこの上なく美味いのだ。もとよりここは牛肉の生産地らしい。


 俺とオオモリがヤマザキに連れられ、俺達の新たな拠点である建物に入ると肉の焼ける香ばしい匂いがする。オオモリが元気よく言った。


「マジで幸せっす! 加工品を何とか確保して食ってたのに、いきなり米沢牛で焼き肉が食えるようになるなんて」


 するとマナが言った。


「私達も喜んでいるわよ。なんて言っても米沢牛だからね!」


「ヒカルお兄ちゃんも、大森のお兄ちゃんも早く座って!」


「ああ」


「ありがとう葵ちゃん」


 俺達が座ると皿が回され、そこにはタレが注がれていた。焼かれた肉をタレにつけて食べると、いっきに肉が溶けてなくなる。


「飲めるな」


「飲めるっすよね!」


 するとそこにタケルが来てコップを差し出してくる。


「ゲットした酒も飲もうぜ」


 俺とオオモリがコップを持つと、タケルが瓶から酒を注いでくる。この酒はウイスキーともまた違い、甘くて飲みやすい物だった。


 ヤマザキが嬉しそうに言った。


「日本酒も保存状態が良くてな、まさかこんな上等な大吟醸を飲めるなんて」


「本当に最高ですよ!」


 すると酒を飲まないミオとミナミが言う。


「水も美味しいわよ。澄心の泉と言う場所が近くにあって本当にここは理想的」


「綺麗な湧き水を飲めるなんて最高よね?」


「ペットボトルとは違うわ」


 地獄のような逃亡生活だったが、俺達は理想的な環境を手に入れる事に成功したのだ。ここにはゾンビもほとんどおらず、快適な生活を送る事が出来ている。そしてユンが言った。


「春になったら野菜を作れるし! 水があるし、タネもいっぱい確保したし!」


「そうね。自給自足が出来るわ」


 皆の安らいだ顔に俺も癒される。都市部から回収して来たガスボンベのおかげで、ガスヒーターとやらが使え暖かい場所で過ごす事が出来た。酒を飲んだ皆の頬が赤く染まり出す。


 そして俺がオオモリに聞く。


「それで、6Gはどうだ? 上手く稼働させられそうか?」


「愛菜さんと進めていますが、どうにか出来そうです。まだ少し時間がかかりますね」


「そうね。でも確実に出来そうよ」


「わかった」


 それからしばらく肉を焼いて酒を飲んだ。オオモリやヤマザキ、ユミもユリナも酒で気分が良さそうだった。それを見て俺はレイン達と共に飲んだ事を思い出す。立ち寄った宿場町で、酒場で世界を救った後の未来を話した。


 俺も気分が良くなってきた。


「生き残った人々を救えたその先、皆はどうしたい?」


 俺が言うと皆が一瞬静かになった。そしてミオが言う。


「ハッとしちゃった。そう言えばそんな事考えてなかったかも」


「本当ね。必死に逃げてきて、最近はそんな話もしてないわね」


「未来…か…」


 するとタケルが言った。


「俺はヒカルとサーキットを走るぜ。どっちが上か勝負だからな!」


「楽しみだ」


 すると今度はミナミが言う。


「私は全国の武将、ゆかりの地を巡りたいわ」


「好きなんだったな」


「うん。各地に日本刀もあるわよ」


「なるほど。それなら俺も行きたい」


「そうね」


 それを聞いていたミオが言う。


「ふーん。いいなあ」


「ミオは無いのか?」


「私は世界を見たい。今の世界がどうなっているのか分からないけど、いろんな場所に行きたい」


「おもしろい。それは俺も見てみたい」


「じゃ! 一緒に行こう!」


「もちろんだ」


 すると今度はツバサが言う。


「えっ! じゃあ私は世界の音楽の聖地巡礼がしたいわ! 一緒に行こうよ」


「良いねー、行こう!」


 今度はユミがニッコリ笑って言った。


「地中海クルーズがしたいわ」


「それも採用!」


 すると皆が言い出した。


「ずるいわ。私も連れて行って」


「ユリナさんの言う通りよ! 私も行きたい!」


「あーしも連れてってよ!」


 それを聞いていたアオイが大きな声で言った。


「私は動いている遊園地に行きたい!」


 俺はそれに答える。


「そう言えば約束したな。絶対実現させよう」


「うん!」


 俺は皆が未来について楽しそうに話しているのが嬉しかった。その前にやるべき事は山ほどあるが、俺は皆の未来の為にどこまでも走れる。美味そうに米沢牛を頬張りながら未来を話す仲間達を見て、俺はもう一口酒を飲むのだった。

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