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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第208話 仲間達との別れ

 ファーマー社から奪ってきた研究データの内容は、想像以上の非道ぶりだった。知的ゾンビの開発を潔く諦めており、その代わりに知恵のある人間を瞬時にゾンビに変える事で用途を補おうとしている。さらに恐ろしいのは、実験は人間に留まらず動物にまで及んでいたのだ。


 試験結果を撮影した動画には研究した日時が記されており、投与してからゾンビに変化するまでの記録が収められている。最初の頃は初期のゾンビ因子に改良を加えた物のようで、すぐには変わらなかった。だが日数が進むにつれて、次第にその変化の速度が速くなっていく。最新の日時の動画では約三十秒でゾンビに変わっていた。


 更に想像を超えたのは、動物に対しての投与実験をしていた事だ。だが動物がゾンビに変わる事は無く、ファーマー社が考えたのは人間と動物の器官を繋げたのだ。生きた人間の体を動物に縫合したうえでゾンビ因子を投与すると、最初は人間の部分だけがゾンビに変わっていたのだが、ゾンビ因子に改良を加えて行くうちに動物の器官も動くようになっていったのだ。


 それらの動画を見た俺が言った。


「キマイラのようなゾンビはこうして作られていったのだな…」


 キマイラゾンビに直面したタケルも言う。


「凄まじい力だったぜ。俺は強くなったと思っていたが、まったく歯が立たなかった」


「そうだな。あれは人間では太刀打ちできないだろう。そして今までと違うのは、噛まずともひっかかれただけでタケルに新型ゾンビ因子が付着した事だ」


 ヤマザキは動画を食い入るように見ながら呟く。


「これが世に放たれたら、人間は逃げようがない」


 それに対して俺が言った。


「タケルは一度感染して除去しているから、既に耐性がついた。だが他の皆はこれに接触してはならない。特に俺がいない場所では要注意だ」


 皆がコクリと頷いた。それから俺達は今後の動きについて話し合う。


 オオモリが手を上げて話す。


「せっかくゾンビを止められるようになったので、これを広範囲に拡大するには電話の局舎を稼働させないといけないです」


「大森君の言うとおりね。電源を供給して局舎を稼働させていけば、入手した6G技術で広範囲のゾンビを止める事は可能だわ」


 それにヤマザキが答える。


「電力と電話の局舎か…かなりハードルは高いな」


「いや、山崎さんよ。ここまでも随分ハードルは高かったぜ、だけど俺達はそれを乗り越えて来た。やれねえことはねえよ」


「まあ、それはそうかもしれんがな」


 今はこのAI研究所内のゾンビだけを操る事ができている。その電波を広範囲に広げる事で、地域ごとのゾンビを止める事が出来るらしい。


 そしてユリナが言う。


「あとデータにあったんだけど、ゾンビ化を止めておく薬品も開発したようだわ」


 俺達はその動画を見つつ検証した。


「そのようだ。あの変化した研究員達はいつでもゾンビになる体にされていて、その薬で止められていたらしいな。だがどうやって、その抑止効果を消してゾンビ化させたのだろう?」


 俺が言うとオオモリが答えた。


「それこそ6Gですよ。恐らく解除に電波を使っているはずです」


「薬品の解除にも使えんのかよ…。ファーマー社の野郎、変な知恵だけはあるようだな。まったく胸糞わりいぜ、なんでいい方向にその力を使わねえんだ!」


「まったくだ」


 タケルの言うとおり。この技術があれば人間を生かす方向に利用できるはずだ。それなのに、人間を戦う道具にする為の実験ばかりしている。前世でもこんな酷い事をする奴はいなかったし、いったい何のためにこんな事をするのか謎だ。


 そして俺は皆に言った。


「いずれにせよだ。恐らくこの地の調査にファーマー社本部が動くだろう、この研究所も危険にさらされる。拠点を動かした方が良い」


 するとそれを聞いた、オオモリが残念そうに言う。


「あの、と言う事は…彼らを置いて行くと?」


 外で一定の速度で歩きまわっているゾンビ達は、もとはオオモリの会社の人間だった。オオモリはそのゾンビ達を置いて行くのかと聞いている。


「すまんなオオモリ。ゾンビを元に戻す力は俺には無いんだ」


「ですよね…。それに、このままここに居たら未来が閉ざされますしね」


「残念だが、彼らは置いて行くしかない」


「わかりました」


 そして俺達は話し合い、この研究所にあるオオモリの研究データーと共にサーバーを移設する事を決めた。


「じゃあ、機器を全て運びましょう」


 マナの声を聞いて皆が動き出す。オオモリの指示に従いながら、必要なパソコンや機器を運び出して行った。


「これが最後です」


 オオモリが見ている先にはサーバーと、6Gの電波を飛ばす機器が置いてある。既に皆は外の装甲バスで待機しており、俺とオオモリが二人でその部屋にいた。


「はあ…サーバーを止めなくちゃ」


「仕方がない」


「仲間達がゾンビに戻ってしまう」


「いや、既にゾンビなんだよ」


「まあ、そうですね」


 オオモリにはオオモリの思いがある。俺は彼の心の準備が出来るまで待った。


「あの!」


「なんだ?」


「どうしても斬らないとダメですかね?」


「そうしないとサーバーを運び出せないぞ」


「やっぱそうですよね」


「もう仲間じゃないんだ。諦めてくれ」


「わかってます。あの、じゃあ皆にお別れを言ってからでも良いですか?」


「わかった」


 そしてオオモリはパソコンをいじり出し部屋を出ると、なんとゾンビが一斉にこっちを向いていた。足を止め全てがこちらをジッと見つめている。


「みなさん! ごめんなさい! 皆を人間の戻す方法は見つかりませんでした! そしてとうとう今日で皆さんとお別れする事になりました! 皆を人間に戻していつかまた一緒に研究できる日を夢見ていましたが、残念ながらそれは無理でした! でも皆さんが僕に教えてくれた技術は、この日本を救うために役立ちそうです! 本当にありがとうございました!」


 オオモリは泣きながら叫んでいた。ゾンビ達は何の反応も無く、だたそれを聞き流しているだけ。するとオオモリが一人一人の前に行って、深々と頭を下げてお礼を言っていく。最後の一人に礼をして俺の所に来た。


「ぐすっ、あの。終わりました。お願いします」


「じゃあ、部屋に入っていろ」


「わかりました」


 オオモリが管理室に入ったので、俺は全てのゾンビを斬り落としていく。最後のゾンビを斬って管理室に入るとオオモリは泣いていた。


「すまんな。それじゃあ電源を落としてくれ」


「はい…」


 オオモリがサーバーの電源を切り、俺に言った。


「このサーバーラックを持って行くんですか? 物凄い重量がありますよ。百キロは超えてるかと」


「問題ない。各所に置いてあったスマホは入り口に集めておいた。オオモリはそれを持って来てくれ」


「はい」


 俺はサーバーラックを床から引き抜いて担ぎ、その部屋を出て行く。オオモリがバックにスマホを入れて、管理室を出ると斬られたゾンビを見て再び泣いていた。


「ごめんなさい! ごめんなさい!」


「行くぞ」


「ううう、はい」


 俺達が装甲バスに到着し、天井にサーバーラックを括り付けて何重にもビニールをかぶせた。オオモリと二人で車内に入ると、ミオとマナがやってきて泣いているオオモリの背をさする。


「大森君。これからだよ。大森君が仲間達と培った技術は日本を救うんだから」


「そう。君は本当に頑張った」


 するとオオモリが更に泣き出したので、マナがオオモリをグッと抱き寄せた。そして俺は運転席のヤマザキに言った。


「出してくれ」


「わかった」


 俺達のバスはAI研究所を後にするのだった。

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