第207話 核弾頭の爆発を無効化する剣技
皆が必死の形相で空を仰ぎ見ている。核弾頭が発射された事は分かったが、どっちから来るのかがまだ分からなかった。そして空中で斬ってしまうと、そこで大爆発を起こしここにも影響が出るかもしれない。
俺は一言もしゃべらずに、魔力を貯めこみその時を待っていた。そんな時、屋上の縁から外を見ていたタケル達が言う。
「試験体が野に放たれたぞ!」
「結構な数だわ。兵士達と試験体が戦い始めた!」
「いっぱい居る!」
それを聞いても俺は黙って剣を構え、ただ静かに天空に意識を集中させている。とにかくそれらにかまっている隙は無い。そんな俺にツバサとマナが叫んだ。
「試験体がこっちにも向かって来たわ」
「上って来る!」
だがそれでも俺はただ静かに魔力を膨張させ、天空に向けて意識を集中させている。只一人オオモリが俺に叫んだ。
「そろそろです!」
なるほど、どうやら天空を突き破って凄いスピードで何かが落ちて来るようだ。方角は分かった、後はここに着弾するタイミングを図るのみ。
そして…闇夜に突如太陽の如き光が現れるのと同時に、俺は日本刀を真っすぐその方向に振った。更に俺は練り込んだ魔力と気力を一気に爆発させる。
「次元断裂」
空気が揺らぎ大地が静まり海が大きく割れた次の瞬間、広大な斬撃が包んだすべての空間がスッと消えた。斬ったのではない、核弾頭の爆発を広範囲の空間と大地と海の水ごと消したのだ。全てのエネルギーや物資ごと異空間へと消える。
オオモリが言う。
「消えた?」
「ふう」
俺の集中が途切れ一息ついて周りを見ると、ミナミとタケルが縁から上がろうとする蜘蛛ゾンビを相手にしていた。俺が二人に叫ぶ。
「飛びのけ!」
二人が飛び去るのを見て、俺が蜘蛛ゾンビに日本刀をふるった。蜘蛛ゾンビが真っ二つにきれて、屋上の床に落ちバタバタしている。それにタケルとミナミがとどめを刺す。
皆が慌てて、俺の所に集まって来た。
「核弾頭はどうなった?」
「消した」
「消した? どう言う事?」
「空間ごと斬って無くした」
「「「「「……」」」」」
「どうした?」
「と言う事は核弾頭は?」
「無くした」
「どこか宇宙に飛ばしたとか斬り落としたとか、軌道を変えたとかじゃなくて?」
「そうだ」
「やった!」
「死なない!」
「嘘みたい!」
「そんな事ができるなんて!」
俺は皆を押しのけて、よじ登って来た試験体を剣技で斬った。
「まだ完全に終わってない」
「あ、ああ! ごめん!」
俺が屋上の縁に行くと、数体の試験体が壁をよじ登ってくるところだった。俺はそれを斬って皆に告げる。
「この原子力発電所があるから、人々が近づいて来れないんだったか? ファーマー社もそれを利用していると言ったな」
「そうよ!」
「わかった」
それを聞いた俺は軍隊と試験体をことごとく切り捨てていく。あっという間に敷地内が静かになり、敵の気配がほとんど無くなったようだ。そして第一原子力発電所の施設に向かい再び剣をかまえ魔力を練り始める。大地裂斬でも氷結斬でもダメだが、次元断裂でやってしまえばいいと分かった。
深く深く体を鎮め、気を集中させて俺は前方に広がる原子力発電所の施設に向かい日本刀をふるった。
「次元断裂」
原子力発電所の施設ごと大地が消え、そこに海水が大量に流れ込んでくる。そして屋上のみんなに向かって言った。
「逃げるぞ! ワイヤー梯子で降りて来い!」
「「「「「はい!」」」」」
皆が梯子で降りて来る。波がこちらに押し寄せて来たので、俺達は陸地の方に向かって走り出した。そこら中に兵士の死体と試験体の残骸があるが踏みながら走る。
そして俺は振り向き、研究所に向かって剣技をふるった。
「大地裂斬!」
バグン! 研究所が地面に落ちて行き、そこに海水が大量に流れ込んでくる。
目の前に現れる柵や木々は全て剣技でなぎ倒し、俺達の進行の邪魔をしないようにした。残党の気配を感じれば、俺が察知して飛空円斬ですべてを斬り捨てた。
「ふうふう」
オオモリが息を切らしているので、俺はオオモリを小脇に抱えて走り始める。研究所を離脱し更に森林地帯を駆け上っていくと、後ろの方から爆発音が聞こえて来た。
皆が足を止めて後ろを見る。
「核が不発だったから、艦砲射撃をしているんだわ」
ミナミが言うとタケルが呆れたような表情で言った。
「ははは、あそこにゃもう何もないってのにな」
そして俺は皆に言う。
「これでもうファーマー社はこの地に拠点を持つ意味を無くした。取って来た情報を解析して、敵の情報を探ろう」
住宅街に差し掛かり、集合住宅に入る。
「車を探す」
「ああ。なら駐車場に書いてある番号の部屋に入って鍵を探したらいい」
車の下に数が振られており、それを目安に各部屋を探していくと車の鍵が数個見つかった。それを持って来て皆で動く車を探していく。
「これが良いんじゃない?」
それを聞いたタケルが車のエンジンをかけるが、どうやらかからないようだった。
「バッテリーがねえ」
「どうすればいい?」
「車が走れば電気はたまるんだが」
「よし。俺が押していく! 皆乗ってくれ」
「わかった」
皆がワゴン車に乗り込んだので、俺は後ろに周り車を押し出した。最初は抵抗があったが、すぐにスピードが乗り始めたので俺は走り出した。しばらく走っているとタケルが窓から手を振ってくる。
「エンジンがかかった!」
「そりゃよかった」
「まるで普通に走ってるみたいだったぜ…バッテリーが溜まるくらい押せるなんてな」
「走り出してしまえば軽かった」
「なるほど。とにかくエンジンはかかった。だけど新しいバッテリーが欲しい、ガススタに行こう」
「わかった」
そしてガソリンスタンドを見つけた俺達は、降りてあたりを探し始める。するとタケルが見つけた。
「新品のバッテリーがあった。放電してねえといいけど、ついでにガスも詰めてく」
バッテリーを数個積み込み手動でガソリンを詰め、皆がワゴン車に乗り込んだ。
「皆を迎えに行こう」
無事に目的を果たした俺達は皆が待つ拠点に到着し、そっと建物に近寄って窓をノックし声をかけた。
「ヒカルだ。終わったぞ」
すると窓のカーテンが開けられてアオイが顔を出した。俺を見ると、窓の鍵を開けアオイが飛びついて来る。ヤマザキとユリナも来て他の人らと肩を抱き合った。
「爆発音がひっきりなしに聞こえていたからダメかと思ったぞ」
ヤマザキが言うので俺が答えた。
「壊滅させた。情報もきちんと収集してな、だがこれからが始まりだ。全てを解明し、これから反撃に出る」
皆が強く頷いた。
そして俺達はAI研究所に向かって走り出すのだった。