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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第206話 完全包囲した軍隊

  周囲を軍隊に囲まれサイレンが鳴りっぱなしで、空にはヘリコプターが飛び交い始めた。恐らく、座礁した戦艦を確認しに行った奴らが戻ってきたのだろう。敷地内のあちこちがサーチライトで照らされ俺達は袋の鼠となる。


 ミナミがヘリコプターを見て言う。


「ヒカル! あれは戦闘ヘリだわ!」


「ヤベえぞ! 普通のヘリじゃねえ!」


「も、もう無理じゃないですか! こんな大軍から逃げれるわけ無いです!」


「大森さん、せっかく手伝ってもらったのにごめんね!」


「美桜さんのせいじゃないっすけど!」


「うん。やるだけやったはず!」


「そうね翼。だけどせめてデータを山崎さん達に渡せたら良かったのに」


「愛菜もせっかく頑張ったのにね」


 皆の諦め言葉を聞きながら、俺は更に思考加速と敏捷性強化の身体強化を施し全方位に自分の気配感知を広げた。久しぶりのピリピリする感覚に、俺はまるで魔王ダンジョンに潜っていた頃を思い出す。五十階層を越えた辺りの、常に強烈な魔獣の群れと戦い続けたあの時の事だ。百階層の魔王ダンジョンをクリアしたからこそ、この状況が懐かしいなどと思えるのだろう。


「ヒカルどうしたの?」


 唐突にミオに声をかけられ、俺は何の事を言われているか分からなかった。


「何がだミオ?」


「気づいてないの?」


「わからん」


「ヒカル、笑ってるわ…」


 気づけば仲間達も俺を見て、不安げな表情を浮かべていた。


「そうか俺は笑っていたか」


「ええ…」


「実は胸が高鳴っている」


「やっぱり? 楽しそうな顔をしているわ」


 ミオの言うとおりだ。俺の心はワクワクし、このピリ着いた状況が楽しくなってきた。あのとき俺はエリスにも同じことを言われた。


『ヒカル。笑ってるの?』


 窮地に立たされながらも、笑う俺を見てレインとエルヴィンがつられて笑った。それを見たエリスが言った。


『まったく、馬鹿な男達だわ。仕方がない、死ぬほど生き返らせてあげる」


 そう言って笑うエリスとミオが重なって見えた。するとタケルも笑い始める。


「ははは! そうかヒカル! ぶちかましてやろうってんだな! なら俺達も最後まで付き合うぜ」


「何を言っているタケル。最後など来ない、俺達の旅は今はじまったばかりだ」


 するとミナミが叫んだ。


「ヘリがミサイルを発射したわ!」


 一機のヘリコプターから火柱を上げて、こちらに何かが飛翔してきたようだ。


「刺突閃」


 バグゥ! それは空中で爆発をして爆炎を上げる。それを皮切りに四方を囲むヘリコプターから一斉にミサイルが発射された。


 こんなもの、ドラゴンの一種であるヴェリトラルから放たれる光線の千分の一の速度にも満たない。八基のミサイルを瞬時に剣技で爆破させると、ヘリコプターは一斉にミサイルを発射して来た。しかしそれらはもちろん到達することなく、俺達の居る周りで全て爆破していく。すぐさま次の剣技を繰り出した。


「閃光孔鱗突! 閃光孔鱗突! 閃光孔鱗突! 閃光孔鱗突!」


 四機のヘリコプターは、頭で回るプロペラを飛ばされて落下していく。更に数キロ先から近寄りつつあるヘリコプターを八機確認した。おれは閃光孔鱗突を乱発し、全てを到着する前に迎撃した。


 オオモリが目を丸くして言う。


「な、何が起きてるんです?」


 するとタケルが言った。


「黙って見てろ。俺達に出来る事は何もねえ」


「は、はい…」


 俺は建物の縁に立って下を見る。すると兵士と大砲のような物を向ける車両が見えた。俺の姿を確認したそいつらは一斉に俺に向けて撃って来る。もちろんあたる事は無く俺はそれらを躱した。


 そして思いっきり空気を吸い込んで叫ぶ。


「俺の仲間に手を出すとはいい度胸だ!」


 牙をむき出しにしてシルバーウルフのように、にやりと笑って地面に降りた。その間も敵は俺を狙うように撃ち続けているが、金剛をかけているため被弾しても全て弾く。


 ズドドドドドドドドド!

 ガガガガガガガガガガ!


 一斉に銃と大砲が撃ち込まれる中、俺はその場所から消えた。そして軍隊のやつらが建物の壁を撃っているうちに、死角に現れ深く剣を構える。


「大地裂斬!」


 バゴオオ! と大きく地割れが起き、戦車や兵隊を次々に地面に飲みこんでいった。


 軍は四方を囲んでいたが、俺はその真っ只中に出現する。


「冥王斬!」


 周囲五十メートルの車両と人間を斬った。そしてさらに建物を回り込み、裏で控えていた軍隊に対して剣技を放つ。


「大地裂斬!」


 軍隊はなすすべもなく地面に落ちて行き、砲撃する事も出来なかった。すると俺の聴覚に飛行機の音が聞こえて来た。


 すぐに屋上に飛び乗る。


「ヒカル! すげえことになってんな!」


 タケルが声をかけてくるが、俺はそれを手で制して言った。


「飛行機が近づいている」


 皆が静かに耳を澄ますと、ツバサが言った。


「サイレンに混ざってジェットの音が聞こえるわ! ジェット戦闘機よ!」


 ツバサの声を聞き皆が緊張した表情を浮かべる。だが、俺は更に気を研ぎ澄まして飛行機の方向を定めた。体を低く低く限界までたわめ、最大強化した脚力で真上におもいきり飛びあがった。


 ぐんぐん上空に登って行き三百メートルほど浮かび上がった時、飛行機の正確な位置を把握する。飛行機は二機、凄いスピードでこちらに近づいてきていた。


「空接瞬斬!」


 これは空間を飛ばし敵がいる場所を直接斬る技だった。俺の剣に確かな手ごたえが伝わって来る。二機の飛行機の爆発音が聞こえ、遠くに火柱が上がっているのが見えた。そのまま皆がいる天井に落下し、再び皆の居るところに戻る。


「いきなり消えたからびっくりしたわ」


「ジェット機を斬って来た」


「「「「「へっ?」」」」」


「驚いている暇などないぞ、後方から兵士達が続々集まってきている」


 縁から外を見ていたタケルが言った。


「割れ目を避けて次々兵隊が来るぜ!」


「これだけやられても来るなんて、守りたいものがあるって事ね?」


「徹底抗戦するつもりかしら?」


 皆が屋上から見渡す先に、大勢の兵隊が近づいて来ていた。


「懲りん奴らだ」


 銃を構えた群衆が近づいて来たので、俺は腰だめに剣を構えて気を高める。


 オオモリが言った。


「さすがに多すぎません?」


「長遠刀斬」


 俺の日本刀の先に、見えない数百メートルの剣線が現れた。俺はそれを地上に向けて円を描くようにふるう。


 それを見たオオモリが青ざめた顔で言った。


「まるで…机の上の砂でも拭くように人間が倒れていく」


 俺はそのまま屋上をぐるりと回るように縁を走った。建物から周囲数百メートルの兵士達は真っ二つになり倒れる。


 タケルも引きつった顔で言う。


「ははは…ゾンビでは見慣れた光景も、流石に生身の人間だと思うと震えてくるぜ」


「まだだ。タケルの腹を抉った恨みはまだ収まらん!」


 俺は怒っていたのだ。アイツらが作ったバケモノでタケルが死にそうになったことが許せなかった。


 すると今度は大きな爆発音のような音が聞こえて来る。


 ドン! ドン!


 それを聞いたミナミが言う。


「艦砲射撃だわ、船が砲撃しているのよ!」


「わかった」


 ミナミの言葉で飛翔体をすぐに捉える事が出来たので、その弾をすぐに真っ二つにする。戦艦に気を走らせると、再び何かを撃った音が聞こえて来た。俺はそれをミナミに伝える。


「船がまた何か撃った」

 

 するとミナミが言う。


「きっとトマホークみたいな巡行ミサイルだわ!」


「分かった」


 俺は再び体をたわめ、空中に飛びあがり空接瞬斬を繰り出して空中でミサイルを斬り落とす。


 その時だった。オオモリが画面を見て言う。


「これは…まずいですよ…」


「なんだ?」


「恐らく大陸弾道弾が来ます」


「それはなんだ?」


「戦略核兵器ですよ! も、もう逃げ場はないです! 終わった! すみません察知が遅れました!」


「敵は仲間ごと俺達を焼くつもりか…」


「軍隊は捨て駒だったのね」


 どうやら兵士達をオトリにして俺達をここに足止めし、戦略核兵器でトドメを刺すつもりのようだ。東京を焼いたあの兵器がここに飛んでいる。


「あと、どのくらいだ?」


「恐らく潜水艦から撃ってます。着弾まであと二分切ったところです」


 するとタケルやミオ、ミナミ達がストンとその場に座ってしまった。


「どうした?」


「ヒカルよ。残念だけどもうどうしようもねえんじゃねえか? せっかくオオモリが見つけてくれたけどよ」


「そうね。こればっかりはどうしようもないんじゃない? 二分じゃ兵士を倒して走っても、爆発圏内から出られないわ」


 皆が諦めた顔をしている。無理もない、あの東京を焼いた火を思い出せば逃げ場がない事はハッキリしている。皆はここを死地だと思っているようだ。


 だが俺は静かに息を整え、全身の魔力を一点に集め始めるのだった。

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