第205話 新型ゾンビ因子の恐怖
俺は隠し通路で、前の研究所で見た試験体の事を説明していた。
「前の研究所では壁から試験体が出てきていた。この隠し通路を通って行くのだとすれば、恐らく地上階に昇るエレベーターもあるはずだ」
「問題はそれがどっちにあるかだな」
「僕が見た限りフロアマップにこの隠し通路は記されてないですね」
するとミオが言う。
「もう行って確認するしかないわよね」
「そうしよう」
マナが床を這う鉄のレールを見て言う。
「もしかしたらこれで運ぶんじゃない?」
「なら、このレールを辿って行こう」
そんな話をしていると、左手の方から風が吹き込んで来た。
「風だ」
「外に繋がってるのかな?」
「行ってみよう」
俺達が左に進み始める。だがしばらくすると音が聞こえて来た。心なしか振動も伝わってきているようだ。
「なんだ?」
俺達が前を見ていると、暗がりから突然壁がこちらに迫って来る。それは通路いっぱいに広がっており、右にも左にも逃げ場は無かった。
「やべっ!」
「大丈夫だ」
俺はその壁に向かって日本刀を構えると、どうやら何らかの乗り物のようになっているのが分かる。
「冥王斬 連斬り」
乗り物の中央が縦に向かって平行に切れた。
「みんな俺の後ろに一直線に並べ」
皆が並んだのを見て、俺は迫り来る乗り物に突進する。身体強化と金剛で強化した体で乗り物を受け止めると、左右に割れるようにその乗り物が裂けた。それは俺達の両脇を通り過ぎ、後方で壊れ通路を塞ぐようにして止まった。
「皆、怪我はないか?」
「いや。ヒカルが大丈夫なのかよ! 列車を受け止めてたみてえだけどよ!」
「まあ、せいぜい低層階の魔獣並と言ったところだ。特に問題はない」
後ろを見ているミナミが言った。
「トロッコで運んでたんだね」
「そうみたい。でもゾンビは乗ってなかったわ」
「恐らく運んだあとなのだろう」
「なら来た方に進めば良いって事ね」
「そうかもしれん。行って見よう」
そして俺達が想定した通り、鉄のレールが分岐している場所に出た。恐らくこのどれかは正面玄関の地上階に繋がっているはずだ。
「ちょっとまて」
俺は思考加速をかけ、気配感知を館内に張り巡らせる。あちこちに試験体がいるようだが一番大きな気配を探った。
「こっちに行って見よう」
「何か分かったか?」
「大きな気配がある。恐らくはキマイラゾンビがいる」
「なんか、おっかねえな」
「大したことはない」
気配のする方に進むと、ようやく上に向かう通路を見つけた。レールが垂直に上に向かっているが、恐らくさっきのトロッコがこの上にキマイラゾンビを運んだのだろう。横には何らかの機械があり、それを見たミナミが言った。
「この横の機械でトロッコを上に引き上げるんだわ」
そして俺がタケルに言った。
「タケル、ワイヤー梯子の予備を出してくれ」
「ああ」
俺達は帰りの為にワイヤー梯子を用意して来たのだ。
「上にかけて来る、みんなはここで待て」
「わかった」
上までは約三十メートル。足をたわめ思いっきりジャンプすると、一気に地上一階の隠し部屋にたどり着いた。そして壁の向こうにいる試験体の気配を感知する。そいつはどうやらまだ出撃していないようで、部屋をウロウロしているようだ。
「よし」
俺はトロッコのレールを壁から引っこ抜いて、通路の壁に突き刺す。そしてそこにワイヤー梯子をかけ、そのまま下に飛びおりた。着地した俺にタケルが聞く。
「地上に繋がってたか?」
「ああ。だが試験体もいた」
「そこに、行くんだよな?」
「変に騒ぎを起こして軍隊に気づかれるのは避けたい」
「しかたないか」
俺が一人一人をワイヤー梯子に捕まらせ、ゆっくりと登っていく。最後のオオモリを梯子につかまらせ、俺は一気に地上階に飛んだ。しばらくして先頭のミナミが上がって来たので、俺は手を差し伸べて引き上げる。
「ありがとう」
そして次々に引き上げ、皆を地上階に上げる事が出来た。するとミオが言った。
「その扉の向こうに凄い気配がするわ」
「どうやら控室に試験体を閉じ込めているようだ。この扉の向こうにヤツは居る」
「どうするの?」
そう言われ、俺は天井を指さした。
「もっと上?」
「天井を突き破って出よう。まずは、梯子を引き上げてくれ」
タケルとミナミが梯子を引き上げて持って来た。俺はすぐに天井を剣技で斬りつけ、小さく開いた穴に向けて飛んだ。穴を抜けて屋上から二十メートルほど上空に飛び下を見ると、見張りの兵士が四方に八人ほどいる。どうやら突然屋上に開いた穴を見にいこうとしているようだ。
「刺突閃 八閃」
パタパタと倒れいていく兵士を確認し、俺は屋上に降り立った。そして穴に顔を突っ込んで言う。
「タケル。ワイヤー梯子を投げてくれ」
「あいよ」
タケルからワイヤー梯子を受け取って、そのまま下に垂らしてやる。
「俺が押さえている、登ってこい」
「じゃあ、ミオが先に行け」
タケルが次々に仲間達をワイヤ―梯子で登らせた。最後にタケルが登ろうとした時、タケルはワイヤー梯子のそばから飛び去る。それが緊急事態だと分かりワイヤー梯子を引っこ抜くと、ぶら下がっている人ごと屋上に飛びあがって来た。皆は屋上にボトボトと落ちて、何が起きたかと驚いている。
「みんなは待っていろ!」
俺は穴から飛び降りた。するとキマイラゾンビがいた扉が開いており、タケルがキマイラゾンビの攻撃を受けていた。俺はすぐにタケルにタックルするようにして、キマイラゾンビの前から飛び去る。
「大丈夫か?」
「なんとかな。ちいとばっかし、わき腹をえぐられた」
タケルの腹から血が出ていた。だが治癒する前にキマイラゾンビがこちらに向かって来る。
「乱波斬」
俺はキマイラゾンビを細切れにした。タケルの患部に手を当てると、新種のゾンビ因子が付着しているのが分かる。更にこれは従来のゾンビ因子よりも、増殖の度合いがはるかに早く強かった。今すぐに取り除かねば、タケルが生きながらにゾンビに変わってしまうだろう。
「このまま因子を取り除く。じっとしていろ」
「わかった」
蘇生をかけながらゾンビ因子を取り除くと、タケルのわき腹が死んだゾンビ因子で真っ白になっている。すると今度は上から声がかかった。
「ヒカル! ヘリが来た!」
「ちっ!」
俺はタケルを掴んで天井の穴にめがけて投げ、その後を追うように飛ぶ。屋上から飛び出た時、一機のヘリコプターが機銃の先端をミオたちに向けていた。俺は宙を舞いながら剣を構える。
「冥王斬」
機関銃を撃つ前に、ヘリコプターを真っ二つにし爆発させた。破片が四方に飛び散って行き、その爆炎の向こうから新たなヘリコプターがこちらに向かって来るのだった。




