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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第204話 チェーンソーゾンビと神経ガス

 更に奥に進むと、それ以上の研究員は見当たらなかった。階段を見つけて降りると、地下二階の階段の入り口のドアがひしゃげている。


「この階層には恐らく試験体がいるようだ」


「鉄の扉がこんなになるなんて」


「普通のゾンビではない」


 念のため俺がそのドアの前に立ち、更に下の階に進むように促した。皆が通過したのを確認し、俺も下の階に降りていく。


「オオモリ、保健センターはどっちだ?」


「入って右に進むと見えてくると思います」


「皆。俺についてこい」


 俺は鉄の扉を押し曲げて入って行く。ゆっくりと捻じ曲がる鉄の扉を見て、オオモリが驚きの声を上げた。


「この鉄板十センチくらいありますよ…」


 するとタケルが言う。


「だから。レベル千だって」


「…説明になってないですよ」


 俺達が右に進んでいくとガラスの自動ドアがあり、そこに保健センターと書いてあった。


「ここですね」


「下がれ」


 俺は剣技でその扉を切り裂き、先に部屋に入る。するとミオが言う。


「医薬品とか置いてあるみたいね、ユリナを連れてきた方が良かったかも」


「だが、守れる保証はない」


「それもそうね」


 ツバサがぐるりと棚を見て言った。


「とりあえずそれっぽいのを、どんどんリュックに入れていけばいいんじゃない?」


「そうしよう」


 俺達は棚に置いてある瓶や錠剤を、次々にリュックサックに入れていった。奥の部屋に行くと、棚には段ボールに入った薬があった。


「開けて、少量ずつ詰めて行こう」


 皆が段ボールを開けリュックに詰め込み始めた。その時、俺の気配探知に人間ではない者の気配が感じ取られた。


「タケル! 何かが来た。この入り口を見張っていてくれ。皆は回収を続けろ」


「「「「はい」」」」


 俺が部屋から出ると、透明な自動ドアの向こうにゾンビが現れる。だがそのゾンビは今まで見た事のない形をしていた。なんと両腕の先に機械が付いているのだ。


 後ろの入り口から見ているタケルが言った。


「マジかよ。チェーンソーがついてるぜ」


 ギィィィィィィィ! と音をさせてそのゾンビがこちらに近づいて来た。


 もちろん俺の敵ではない。


「真空裂斬!」


 バクン! とチェーンソーごと切れたゾンビが床にくずれ落ちた。チェーンソーは破壊されエンジン音が止まる。


「まったくよ! おもしろ博物館かっつーの!」


 タケルは冗談のように言っているが顔が怒っていた。人間を兵器としか思っていないファーマー社の所業に、俺もいら立ちを覚える。


 俺がチェーンソーゾンビの上半身を裏返すと、何か胸のあたりに光るものがあった。それに手を伸ばして取ると、なんかの機械ごと一緒に取れた。


「たぶん、カメラと発信器じゃねえか?」


「どこかから誰かが見ているという事か?」


 俺は発信器を握りつぶした。


 回収が終わった皆が来てミナミが言う。


「私の予想だけど、恐らく敵はゾンビを操れてはいないんだと思う。操れるならゾンビに銃を扱わせたら良いと思うのよ、それが出来ないから固定してチェーンソーをくっつけたのね」


 それを聞いたマナが言った。


「もしかしたら研究員の胸にもカメラが仕込んであったんじゃない? それで侵入者を確認したら、ゾンビに変えて襲わせる。知的ゾンビは無理だとしても、知的な人間を仕向けてゾンビに変えるなら兵器として使えるわよね?」


「ええ。知的ゾンビが作れないなら、知的な人間を操って直前でゾンビに変えてしまおうという事でしょうね」


 タケルがまた怒りの表情を浮かべて言った。


「ファーマー社はいったい人間を何だと思ってるんだ? 意思のある人間を操って現場でゾンビに変える? よくもそんな事を考えたもんだ」


「おぞましすぎるわね、身の毛がよだつわ」


「寒気がする」


 そう言ってマナが体を抱くような仕草をした。女達も腕をさすっている。


 皆が言葉を失ったその時だった。突然電気が消えて、赤い灯りに切り替わってしまった。視界が暗くなり、女達が俺の側に寄り添う。


「なに?」


「何かを仕掛けてくるつもりかもな」


 すると天井から何か音がした。


 プシュ―っ!


 白い煙が天井から突然出て来る。


「みんな! 走れ!」


 皆が走り出すと、通路の天井からも白い煙が出ていた。


「氷結斬!」


 天井を凍らせると白い煙は止まる。皆がその下を通過して、壊した階段の入り口に飛び込んでいった。俺が一気に走り込み、天井から出る煙を凍らせて行く。


「走れ走れ!」


 地下一階に到達して扉を開けると、既に白い煙で充満していたので慌てて扉を閉じた。


「マズいな…」


「ごほごほ! いったい何かしら」

「少し体が痺れてるわ」

「僕もめまいがします…ていうか…視界が暗い…」


 俺は皆に言う。


「集まれ!」


 皆が俺の側に寄ったので、一人一人解毒魔法をかけてやった。簡易な解毒魔法しか使えないが、それでも体内に入った物を抜く事は出来る。


「楽になったわ」

「僕も気を失いそうでした」


 するとミナミが言う。


「たぶん。神経ガスだわ」


「どうするかね。出れなくなっちまったぞ」


 タケルの言葉を聞き、俺は地上の気配を感知して言う。


「それより敵が突入して来たようだ」


「マジかよ」


 ミナミが言った。


「たぶん、神経ガスで殺せなかったらトドメを刺すつもりね」


 どうやら俺達は閉じ込められたらしい。身動きが取れなくなった俺達を、地上の軍隊が仕留めに来るようだ。俺は階段の通路の天井部分を確認する。


「みんな。少し階段下の踊り場に降りてくれ」


「わかった」


 皆が階段を降りたので俺は天井を斬った。するとそこに空洞が現れる。


 それを見てミナミが言った。


「換気ダクトかしら?」


「少し待て」


 俺が飛びついて穴の奥を見るが、そこには煙が充満していなかった。人が一人這って通れるような穴が続いている。


「ここにガスは無い。来い!」


 俺が手を差し伸べミナミから順番に引き上げてく。皆は這いながらダクトを進んでいき、俺が最後尾を行った。


「どこに続いているのかしら?」


 這いずりながらダクトを進んでいくと行き止まりになる。そこに金網があり先が見えているようだ。


「ミナミ! そこから出れそうか?」


「神経ガスは届いてないみたい。だけど、何かしら? 廊下でもないし通路が続いているわ」


 それを聞いて俺が言う。


「先に通してくれ」


 狭い所を一人一人と体を入れ替えつつ金網の所までたどり着く。その下を見れば不気味な通路が繋がっているようだった。俺は金網に手を引っかけて内側に引っ張り込むと、金網が曲がって取れた。


「降りてみる」


 俺は穴からするりと抜けて通路に降りた。


「随分広いな」


 研究所の廊下よりもはるかに広い通路だ。そして俺は気配感知を広げて気が付いた。この感覚からすると間違いなくここは試験体を通す場所だ。


「なるほど」


 すると上からミナミが聞いて来た。


「何か分かった?」


「これは試験体を研究所内に送り出す通路だ。試験体が通った気配がする」


「嘘…」


 俺が先まで気配感知を伸ばすが、試験体の気配はないようだった。だが後戻りは出来ない。


「ここを進もう」


 俺達は試験体の輸送ルートを進むことにしたのだった。

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