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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第194話 黒歴史

 ゾンビの世界になる前、オオモリはここで会社の仲間達とAIの開発をしていたらしい。マナはある程度の話が分かるようで、機械の準備をするオオモリと話をしている。


「ここの研究所の人らは、ここに避難して暮らしていたんです。田舎なんでゾンビも多くないし、なんとか食料を回収して生きてました。その中でも開発に必要な電源が取れないかと、電線を調べていった結果五キロ先に通電する電線をみつけたんっすよ。まさかファーマー社から奪っていたっていうのは知らなかったですけど」


「それで電気が通ってるんだ」


「電気があればいろいろ出来ますからね」


 オオモリはノートパソコンを持って来て、何かの線を繋ぎマナから受け取ったハードディスクを差し込む。それからパソコンの電源を入れた。


「それで、ここのゾンビが動かない理由なんだけどなんでなの? 分かりやすく教えて」


「あれは、そこに並んでるやつでコントロールしてます」


 何か機器が並んでいて、ちかちかと光を放っている。その光る板は百枚近く並んでいるようだ。


「えっ、ちょっとまって。スマホでゾンビをコントロールしてるの?」


「そうっす。そこにあるのは、全部6Gケータイっすよ」


「えっ? 5Gじゃなくて? 6Gなんてあるの?」


「あるんすよ、皆である所から盗んで来たんですけどね」


「ひょっとして…」


「ファーマー社の倉庫っす」


「そうよね。まだ出てないはずだもんね」


「僕らも驚きましたよ。でもアプリが一切入ってなくて筐体だけあったんです」


 どうやらここに並んでいるのは、普通では手に入らない機器らしい。それをここに居た社員達と共に、百台近く盗んできたようだ。


「追跡とか大丈夫?」


「GPS機能は全部撤去してます」


「さすが、AI研究所の社員ね」


「愛菜さんはどこの会社だったんですか?」


「グローバルよ」


「まじっすか! IT大手中の大手じゃないっすか!」


「まあ一社員ってだけだから大したこと無いわ。それより大森さんのように開発系の仕事の方が難しい事をしていると思うし」


 何やら俺の分からない会話をしている。


「お、電源は入りますね。後は解析ソフトです、ちょっと取ってきます」


 俺とマナが大量に並んだスマホを眺めていた。部屋の棚に何かを取りに行った大森が、パソコンの脇に小さな板を差し込んだ。


「上手く読み込めると良いんすけどね。でないと、手作業になっちゃいます」


「いいわ」


 パソコンのボタンを押すと画面がつき始め、オオモリがくるりと俺達に体を向ける。


「実は、社内にいるゾンビは…みんな会社の仲間だったんです」


 オオモリは唇をかみしめていた。肩が震えており、握りこぶしを握って膝に置いている。


「そうなんだ」


「一人またひとりとゾンビになってしまって、僕はそれでも必死にシステム開発してました。そしてそのシステムが完成し、スマホにそれをインストールしたんです」


「そこのスマホ?」


「はい。あと数台は研究所内にばら撒いています」


「それで?」


「この部屋に命からがら戻ってきて、6Gで電波を飛ばすようシステムの電源をいれました」


「で、この状態?」


「はい。最初に気が付いたのは5G電波でした。それに微弱ながらゾンビが反応してたんですよ」


「そうなんだ…」


「ゾンビが5G電波に何らかの反応を示すのは皆が分かってましたし、6Gならば制御する術もあるんじゃないかって皆で必死にプログラムしてきたんです」


「そんなシステムは聞いた事がないわ」


「実は僕そういうのに興味があって、アメリカで脳にマイクロチップを埋め込んだ科学者がいたんですよ。脳から直接パソコンに出力できないかって」


「あ、なんか聞いたことある」


「はい。結局実験は最初に反応があったんですが、体に悪影響を与えてしまい頓挫したんです。そういう事が出来るなら、もしかしたらゾンビをどうにか出来るんじゃないかって」


「天才じゃない!」


「いやいや! そんなそんな! 僕は…えっと、そうですか? 僕、天才ですかね?」


「天才よ。恐らくそんな事はまだファーマー社でも実現してないわ」


「マジっすか」


 するとようやくパソコンの画面に変化が現れた。そしてオオモリは集中してパソコンをいじり始める。オオモリは黒い画面に白い英語の文字を書いて、どうにかしようとしているらしい。


 マナも興味津々に見ていた。俺は何の事か全くわからないので、その二人を後ろから見ているだけだった。


「出た!」


「本当だ!」


 二人が大声を出す。俺がその後ろから覗き込むと、画面にいろんな模様が映っているようだ。


「ファイルも生きてますね」


「見てみましょう」


 次々にファイルを広げ、中身を閲覧して行く。


「動画ファイルもあるっすよ!」


「どれどれ!」


 そして動画ファイルを開くと、画面には俺が見た研究所内部の様子が映し出された。研究員が挨拶をする動画などがあり、二人は次々に動画ファイルを開いて行く。


 すると俺が地下研究所で目撃した研究の様子が映し出された。


「おッ…」


 オオモリが走ってゴミ箱に行き顔を突っ込んだ。


「おぇぇぇぇぇ!」


 それを見たマナも顔を塞いで俯く。人間をバラバラに分解してくっつけている動画や、人間に何かを注射してゾンビに変える動画のようだ。


 フラフラになったオオモリが戻って来る。マナにも厳しかったようで動画ファイルを閉じた。


「こんな…悪魔の所業だわ。ヒカルから話に聞いたのと実際に見るのとでは全く違うわ」


「無理っす…。ファーマー社のやつらは人間なんですかね?」


「全く」


「違うファイルも見てみます」


 オオモリが次々とファイルを開きだす。すると文章が一面に書きだされたファイルを見つけ英語の文字を読む。


「えーっと。直訳すると、エンプティウォーカーのDNA書き換えにおけるインテリジェンス回復実験?」


「どういうことかしら?」


「どういう事っすかね?」


 それについては俺がおおよその内容を分かっているので、二人に伝えた。


「恐らくファーマー社はゾンビに知能を持たせようとしているんだ。ただ歩き人を食うだけの行動から、考えて動くゾンビを作ろうとしていた」


「なんでそんなものを作ろうとしてるんですかね?」


「わからん」


 するとマナが言った。


「恐らくだけど…」


 俺とオオモリがマナを見る。


「兵士じゃないかしら? 死の恐怖から解き放たれた不死の兵士」


 すると大森がイラついたように言う。


「クソっすね。人間…でドローンを作ろうとしてるって事っすか?」


「可能性は高いわ」


 二人はその文章を読んで確信に変わったようだった。


「間違いないっすね」


「ええ」


 オオモリは一旦そのファイルを閉じて、他のデーターのファイル名を読む。


「東京におけるインテリジェンスウォーカーの確認? これも動画ファイルっすね」


 そう言って動画ファイルを開ける。


 するとそこには東京の荒廃した町並みが映っていた。


「なんだこれ? 軍隊? みんな銃を持ってる」


 俺はその映像に見覚えがあった。これは俺がヤクザをビルに閉じ込めて、大地裂斬でビルごと埋めたやつだ。遠いので画質は悪いが、俺は当事者なのではっきりと覚えている。そしてゾンビのお面をかぶった俺が、ヤクザたちの前にやって来て言っている。


「我々は一度死んだゾンビだ! だが意志あるゾンビとなって蘇りチームを組んだ!」


「うそだろ…」


「その名も東京ゾンビ会!」


 それを見たマナがあっけにとられた顔で、俺を見つめた。マナは気が付いているが、オオモリはその動画を食い入るように見ている。


「見てくださいよ! 東京に知恵のあるゾンビがいる! っつうか…東京ゾンビ会? このゾンビってヤンキーかなんかっすかね?」


「ま、まあいいじゃないか。次の動画は?」


「いや! もう一回最初っから見ましょうよ」


 俺とマナは気まずさを感じながら、俺が演じる東京ゾンビ会のゾンビを何度も見る事になるのだった。

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