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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第193話 AI研究センターの生き残り

 俺達を招くように入り口のドアが開いたので、俺とマナがそのままエントランスに入った。すると壁際の台に置いてある電話が鳴る。


「出るわ」


 マナが電話のスピーカーをつけた。すると向こうから話してくる。


「本当に戻って来たんですね?」


「えっ? 冗談だと思った?」


「そう言うわけじゃないですけど、なんていうかダメもとで頼んだんです」


「だって食料が欲しいって言うから」


「食料を見せてもらっていいですか?」


 マナが上を見上げて言う。


「防犯カメラも生きてるんだ」


「館内は電源通ってます」


「そうなんだ」


「食べ物はどれです?」


 マナがリュックサックから乾いた食べ物を取り出して、防犯カメラに向かって見せる。そしてペットボトルの飲み物も取り出して見せた。


「本当に食べ物持って来てくれたんだ!」


「約束したじゃない」


「じゃあ、パソコンどれでも持って行っていいですよ」


 電話の相手が言うが、それにマナが答える。


「あの、実はハードディスクとSSDを持っているのだけど、データーを引き出せないかなと思って」


「……」


 すると相手は一瞬沈黙した。逆にマナがもう一度言う。


「悪いけどパソコンだけなら、今は食料の方が価値が高いわ。私達はそのまま食料を持って帰るだけよ」


「まって! データーを読みこめばいいんですね!」


「ええ」


「わかりました! 暴力は振るわないと約束出来ますか」


 それには俺が答える。


「お前はファーマー社の人間か?」


「はあ? 違う違う! あんな奴らの仲間な訳がないじゃないか!」


 突然、感情的になった。


「ならば暴力は振るわない」


「ま、まって? ファーマー社ならどうするの?」


「…殺すかもしれん」


「って事は…あなた達はファーマー社の敵って事でいいの?」


「そう言う事だ」


「そんな事言って、実はファーマー社の連中でうちの情報を取りに来たとかじゃないよね?」


「違う。その逆で、ファーマー社から盗って来た情報を見たいんだ」


「えっ!」


 ……


 しばらく沈黙した後で、電話の先の男が言う。


「あのー、ひょっとしてファーマー社からデーターを盗んで来たんですか?」


 するとマナが割って入る。


「こちらからの情報はここまでよ」


「そうですか…」


「どうする?」


「…分かりました。じゃあ中に入ってもらいます。ですが一つだけ注意点があります」


「なに?」


「言いにくいんですが、中に入るとゾンビがいっぱいいます。だけどそいつらは危害を加えませんので、そのまま通って一階奥の管理室ってところまで来てもらえますか?」


「どういうこと?」


「入れば分かります」


 後ろの入り口のドアが閉まり建屋に入る窓が開いた。俺達がそこから足を入れると、通路にゾンビが立ち尽くしている。だが俺達を見ても、こちらに向かってくる事は無かった。


「どういうことだ?」


「なにこれ? 不気味なんだけど」


 もう少し通路を進むと、近くの内線が鳴ったのでそれを取る。


「あー、もう少し先を左に行ってください。突き当りに行ったらまた左です」


「わかった」


 俺達は動かないゾンビの中を進んでいく。念のため日本刀を握ってマナを庇うように歩くが、ゾンビが襲い掛かって来る気配は無さそうだ。ただボウフラのようにゆらゆらと止まっている。


「へんなの」


 ゾンビを通り抜けて行くと、マナが指さした。


「ここ」


 俺はドアをノックする。すると中から鍵が開けられる音がした。


 ドアを開けて入ると、奥で銃を構えた男がいた。ぽっちゃりしていて、優しそうな顔をしているが必死な形相だ。


「本当に何もしないか?」


「しない」


 マナがゆっくりと近づいて、テーブルの上に食べ物と飲み物を全部出して並べた。そして俺の後ろまでゆっくりと下がって来る。


「動くなよ」


 男はテーブルの上の食べ物を取り上げてみる。


「食えそうだ」


「問題ない」


「じゅ、銃を降ろすぞ」


「ああ」


 男が銃を降ろした。そして目の前にある、スナックの袋を開けて手を突っ込んで食い始める。すごい勢いで食った後、急いでペットボトルの水をあけてごくごく飲んだ。


「ぷっはぁぁぁぁ!」


「落ち着いたか?」


「本当に食料を持って来てくれるなんて」


 するとマナが言う。


「近寄っていい?」


「…いいけど、何もしないでね」


「しない」


 そして俺達は男の近くに寄って、話をし始めるのだった。男が俺達に聞いて来る。


「あんたらは一体何者なんですか?」


「私も元はIT企業で働いていたサラリーマンよ」


「そっちの外国人は?」


「俺は…」

 

 俺がなんて説明してい良いか分からないでいると、マナが俺の代わりに言う。


「彼は、他国から来た軍人とでも言ったらいいかしら?」


「軍人! もしかしてファーマー社を調査しに来たとか?」


 俺とマナは顔を見合わせて答える。


「まあそんなところだ」


「そういうことか! だから情報を入手出来たんだ?」


「ああ」


「私は愛菜でこっちはヒカル」


「大森です」


「大森さん。急に来てごめんなさいね」


「いえ。久しぶりに人間を見ました」


「そうなのね」


 そして俺は気になった事を聞いた。


「なぜ外のゾンビ達は動かない?」


「あ、あれは…企業秘密です」


「そうか。何故ここは電気が通っている」


「それは、仲間がまだ生きていた時に通電していた電線を見つけたんですよ。そこから電源を引いてます」


 それを聞いたマナが心配そうに聞く。


「えっ? 最近、電源が途切れなかった?」


「まだ来てますね」


 するとマナが俺を見て言う。


「ここは方角が良かったのね」


「そうらしいな」


「という事はまだ火力発電所が動いているんだわ」


 それを聞いたオオモリは目を見開いて言う。


「えっ? 発電所動いてるんですか! どうりで……でも誰が動かしてるんですか?」


「発電所を動かしているのはファーマー社だ」


「あいつらか…」


 どうやらオオモリには何か含みがあるらしい。こちらから先に情報を出す事にしよう。


「俺達は南部にある発電所を壊滅させ、第二原子力発電所の研究所を襲ったんだ。その時に情報を入手した」


「うそ! 研究所なんて本当にあったんだ…」


「あった」


 どうやら研究所の事を薄っすらと知っていたらしい。


「研究所を知っていたのか?」


「うちの事務所の生き残っている人達がいた時、研究所から逃げ出したとか言う人と接触したんです」


「そうだったのか」


「でも結局その人はすぐに死んじゃって」


「何かを体に仕掛けられているらしいんだ」


「酷い事をする…。それでファーマー社が研究所で悪魔の実験をしていると聞いたんです」


「その通りだ。俺はこの目で見た」


「どんな?」


 俺は第二原子力発電所の研究所で見たことを、洗いざらいしゃべる。俺が話していくごとに、オオモリは驚愕の表情を浮かべて顔が青くなってきた。恐ろしい内容に気持ちがついてきていない。


「それで俺はパソコンを回収して来た」


 そしてマナが付け加える。


「だけどGPSで追跡されたら困るから、ハードディスクとSSDを抜き取って来たの。それから情報を見たくて、南相馬市に向かおうとしてここを見つけたのよ」


「そう言う事でしたか…」


「私達は悪魔の実験を止めさせたいの」


「……」


「これに入ってる情報を解析してもらえないかな?」


「分かりました! そう言う事なら協力しましょう! 僕も仲間の仇を討ちたい」


「おねがいね」

 

 マナが手を握り、うるんだ瞳でじっとオオモリを見つめる。するとオオモリは顔を赤らめ、ポーっとした表情になる。どうやらマナはゾンビのヘイトだけじゃなく、男を寄せ付ける力があるらしい。


「でさ。なんでここのゾンビは動かないの?」


「あれは、僕がやってます」


「えっ! どういうこと?」


「ここはAIの研究施設なんですけど、いろんなソフトも開発しているんですよ。僕もその一人で、開発の中枢にいました」


「それとゾンビが何の関係あるの?」


「わかりました。お話しますが、そのファーマー社のデーターは僕も見せてもらえるんですよね?」


「もちろんよ」


 そしてオオモリはゆっくりとこれまでの経緯を話し出すのだった。

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