第188話 原子力発電所の爆破
このまま入り口から外に出て軍隊を倒してもいいが、せっかく回収して来たパソコンが破損してしまうかもしれない。そう思った俺はすぐに入り口から離れ、建物の奥に向けて進みエントランスに散らばったキマイラゾンビの残骸を見た。
このバラバラになったキマイラゾンビはどこから出て来たんだろう?
扉は無いものの、恐らくこの壁のどこかにキマイラゾンビを出す仕組みがあるはずだ。そう思って壁をくまなく探すが、どこにも境目を見つける事が出来ない。
斬るしかないか。
俺は壁に向けて立ち、音が出にくい剣技である真空裂斬を討った。壁に亀裂が入り俺はその亀裂に耳をあてる。それが利用出来そうな事を確認し入り口から真っすぐの壁際に立つ。
「真空裂斬!」
数回ほど壁を斬りつけると、壁に四角く切れ目が入った。次に壁に思いっきり腕を突き入れ、壁ごと手前に引っ張る。すると真四角に壁が取れて、奥に空洞が見えた。
「よし」
そして次に俺は入り口に向かう。まだ軍隊が突入してくる気配は無いようなので、入り口に向けて日本刀を構えた。
「推撃」
剣撃が飛び入り口のガラスを全て吹き飛ばすと、それをきっかけにして外から銃弾が撃ち込まれてきた。
ズガガガガガガガガガガ!
ズガガガガガガガガガガ!
銃撃は止まずに続くが、その音に導かれるように俺が開けた穴の奥から気配がしてきた。
来た。
銃撃が止まり、数名の兵士が入り口に立つのが見える。俺は認識阻害の魔法を使って闇に紛れた。
「クリア!」
「誰も居ません!」
「ゴーゴーゴー!」
と言った言葉が聞こえて来たと同時に、入り口から兵士が雪崩れ込んで来る。しかし硝煙の中からある物が現れた。
「うお! 試験体Aだ!」
「撃て撃て!」
俺が空けた穴から、蜘蛛ゾンビがはい出して来て兵士達にとびかかった。先頭の兵士が餌食となり、足で胴体を貫かれてしまう。もう一体が他の兵士に飛びかかり一瞬で首を刈った。
「ロケット用意!」
外から声が聞こえて来た次の瞬間、蜘蛛ゾンビの一体が爆発を起こした。室内には煙が巻き上がり、その煙に紛れてもう一体の蜘蛛ゾンビが外に出て行った。
「外に出すな!」
「仕留めろ!」
外に出たことで、蜘蛛ゾンビの気配が激しく動き出すのが分かる。
「すばしこい!」
「あてろ! あてろ!」
銃声が鳴り、外で戦闘が始まったようだ。俺は認識阻害をかけたまま、入り口に立って外を見る。すると兵士達は蜘蛛ゾンビを追って銃撃をしていた。皆が蜘蛛ゾンビに意識を集中している隙に、俺は入り口から縮地で先に見える車の後ろに飛ぶ。
「撃て! 撃て!」
後ろではまだ蜘蛛ゾンビと兵士の戦いが繰り広げられていた。俺はすぐに暗闇に潜み、侵入して来た場所から原子力発電所を出たのだった。サイレンが鳴り響く発電所内を見ると、丁度ヘリコプターが蜘蛛ゾンビを仕留めるところだった。
それを確認した兵士達は再び研究所内に進入していく。
海沿いを急ぎ、俺は皆がいる橋の下まで走った。研究所の上空にはヘリコプターが飛んでいるが、研究所の騒ぎに気を取られているのかこちらに来る気配はない。
俺が現れるとタケルが驚いた。
「おわ!」
「戻った」
「いきなり現れたな!」
「認識阻害の魔法を使っていた」
「便利だな」
今度はヤマザキが、俺が持っている透明な袋に入ったパソコンを見て言った。
「何か持って来たのか?」
「パソコンだ。研究所から回収して来た」
「見てみよう」
俺がパソコンの袋を置くと、皆がそれを袋から取り出す。それを見たマナが言う。
「ノートパソコンだ」
「見れるか?」
「うーん。それなりの機器があればパスワードも解除できると思う。でも、電源は入れない方がいいかも」
「どうして?」
「もしかしたらGPS機能がはたらくかも」
それを聞いたヤマザキが言った。
「それはまずいな」
「壊してハードディスクとSSDだけ抜き取ろう。それだけあれば後で何とか出来るから」
それにミナミが聞いた。
「ハードディスクとかSSDって言われても分かんないし」
するとリコが言う。
「私も少しは分かる」
「でも、ドライバーも無くどうやって開くかよね?」
マナがパソコンを回しながら見ているので、俺がマナに聞いた。
「どうすればいい?」
「このキーボードの下に機械が入っているの。それを壊さずに取り出したいんだ」
「貸してくれ」
俺はノートパソコンを受け取り、縁の部分に手をかけてパカリと力任せに外した。
「これでいいか?」
「うん。全部開けてくれる?」
「了解だ」
そして俺は次々にノートパソコンを解体していった。マナとリコが何やら部品を外して、それをリュックに入れていく。全てを外してマナが言った。
「これで大丈夫。後は川に投げ入れましょう」
皆でパソコンを川に投げ捨て、そしてヤマザキが言う。
「ヒカル。これからどうする?」
「バスに戻ろう。ひとまずここから離れた方が良い。あそこは蜘蛛ゾンビの巣だった」
「わかった。急ごう」
俺達は暗闇の川沿いを、バスに向かって登っていくのだった。茂みの小川に差し掛かった時、どうやら原子力発電所の方に変化があったようだ。
「まて」
俺達が原子力発電所の方を見ると、飛んでいたヘリコプター達が海へ向かって飛び去っていく。
「ヘリコプターが撤退していくようだが、どうしたんだろう?」
すると原子力発電所の方向から爆発音が聞こえて来た。それを聞いたヤマザキが驚愕の表情で言う。
「おいおい! 原発跡地で爆破してんのか? ヤバいぞ!」
「どうなってる?」
「放射線が漏れるぞ」
「危険なのか?」
「とにかく急いだ方が良い!」
俺達はすぐにバスにたどり着き、北西に向かって走らせることにしたのだった。