第183話 秘密の情報を入手
次のビルに入る頃には皆が心を決めていた。タケルとミナミにばかり負担をかけてはいられないと、ミナミパーティーとタケルパーティーに分かれて次々と部屋に入って行く。流石に派手に襲撃をすれば、逃げ出す人間達も出て来たので俺が始末した。
全ての人間を始末し、皆が青い顔をしながら集まって来る。
するとユリナが言った。
「ヒカル。今までずっとヒカル一人にこんなことさせてたね、ごめんね」
「いや。皆が生き延びるためだから」
マナが首を振って言った。
「違うわ。私達はやりたくなかったの。いくら生きる為でも、人を殺めるなんて出来なかった。だけどようやく分かったのよ」
「何を?」
それにはツバサが答えた。
「いま私達が戦争しているんだって」
「戦争?」
ユミが頷いて言う。
「そう、戦争よ。私達は世界を滅ぼした組織と戦っているの」
「確かにそうかもしれん。俺達は戦争していると言ってもいいだろう」
ユンも言った。
「あーしもようやく分かったんだ。これって人間が生き延びるための戦いなんしょ?」
そしてリコが言う。
「私も、カルト集団なんて言ってごめんね。ようやくあなた達の目指すところを知ったわ。世界を取り戻す為に戦うなんて信じられなかったけど、本気でやろうとしてたのね」
「みんな…」
俺は胸が熱くなる。本当はやりたくない生きた人間との戦い。だが皆はまだ生き残っている全ての人の為の戦いを、自分達の手を汚してもやると決めてくれたのだ。俺はそんな彼らの為に戦うと決めている。
ヤマザキが俺の肩に手を置いて行った。
「ヒカルが全て背負う必要はない、俺達みんなの責任のもとでやっていこう」
「だな! 俺達の事を頼ってもらおうか!」
ミナミが言う。
「もう後戻りはできないしね、行くところまで行くわ」
「わかった」
アオイが俺の袖を掴んで見上げる。
「ヒカル兄ちゃん。行こう」
「ああ」
俺達は司令部を探し始める。そして少し離れた所に更に高いビルを見つけた。
「ヒカル! 恐らくはあそこがコントロールセンターだ。指令はあそこから出てるはずだ」
「急ごう」
その建物の周囲には銃を持った人間達が三人いた。だが俺は刺突閃で一気に三人を倒し、その隙に全員が司令塔へと走りへばりつく。
「入るぞ」
既に気配感知で内部に人間がいる事は確認している。だが構わず入り、相手が動く前に剣技で殺した。次々に内部に侵入していく仲間達、中の人間は突然の襲撃に慌てて逃げ出した。
俺達は一階をすぐに制圧し、階段を駆け上って二階に走る。
皆がばらけて二階を制圧し始めるとあちこちで叫び声が上がり、その声が上階に聞こえたようだ。上の階から銃を持って来る奴らがいたので、俺はそいつらの首を刎ねる。いっきに最上階の三階に上がり、向かってくる奴らを次々に斬り飛ばした。
しばらくすると、皆が三階に登って来る。
「どうやら奥に何人かいるようだ。俺が先行して無力化する」
「ああ」
俺が一瞬で奥の部屋に飛び入り、中の人間の武器をことごとく落として行く。そこに皆がやってきて、中の人間を全て取り押さえる事が出来た。
「皆動くな!」
俺が言うと、いよいよ自分達の立場が分かったようで抵抗を止める。
「なんだ! お前達は! 外のやつらはどうなった?」
「悪いが始末させてもらった」
「なんだと…」
そしてヤマザキがそいつらに聞いた。
「君らは、ファーマー社の人間か?」
「……」
だが誰もそれに答えなかった。しかし男の中の一人が言った。
「ま、待ってくれ! もしかしたら君らは、レジスタンスか何かか?」
「レジスタンス?」
「ファーマー社のやったことを暴こうとしているんだろう?」
ヤマザキはそいつに聞く。
「あなたは何者だ?」
「電力会社の者だ! 我々はファーマー社に脅されている! 悪いが我々は関係ない!」
すると別の男が言った。
「お、おい! 裏切るのか! ファーマー社に協力するのは上が決めた事だろう!」
「違う! 変な物を埋め込まれて言う事を聞かされているだけだ!」
それにヤマザキが答える。
「何をしているのかは分かっているのか?」
「変な実験だ! その実験で使う電力を我々が供給させられているんだ」
「ばかやろう! 守秘義務を守れ!」
「うるさい! ファーマー社がこんな世界にしたんだ!」
「死にたいのか! 本部に殺されるぞ!」
「黙れ!」
内輪揉めし始めた。どうやらここのやつらは一枚岩ではないらしい。別々の組織のやつらが集められてここを動かしているようだ。
ヤマザキが話を収める。
「とにかく! 話を聞きたい! 黙ってくれ!」
男達が静まり返る。
「悪いが君らの仲間は大勢死んだ。俺達が始末した」
「な、なに!」
「うそだろ?」
「本当だ。君らがやっている事を止めるために仕方なくだ」
「ひ、人殺し…」
「レジスタンスじゃなくて…テロリストなのか?」
「俺達は何でもない。ただ人間達の世界を取り戻したいだけなんだ」
「人を殺す必要があったのか?」
「悪いが俺達はこれまでファーマー社に命を狙われて来た。俺達はファーマー社と戦争をしているんだ。ファーマー社の人間は全て敵と認識している」
「……」
それぞれの組織の立場で言い分はあるだろうが、この場を制圧しているのは俺達だ。
俺が言う。
「悪いが、全てを話してもらう。出来るだけ多くの人間の未来の為に発言すると考えてくれ。自分らの主張など俺達には関係ない、俺達は出来るだけ多くの人間を救いたいだけだ」
皆が静まり返った。そして再びヤマザキが聞く。
「研究所はどこにある?」
するとファーマー社のやつが言った。
「知らない! 本当だ!」
だが電力会社のやつが反論する。
「原発だ! 原子力発電跡地に研究所はある!」
「おまえ! 何を勝手に!」
「火力発電所はあと二カ所ある! そこから第一第二原発跡地に電気を送っているんだ! 十年前の大地震の後で、立ち入り禁止になった場所に研究所はある!」
「だ、だまれ! お前! 死ぬぞ!」
「もういい! 人の未来の為になるなら!」
「いまさら! もう遅いんだ! 守秘義務を守れ!」
「研究所ではゾンビの研究をしている! ゾンビをかけ合わせたり、放射線を浴びせて変異させたりしているんだ! そしてまた新たなゾンビ因子の開発も行っている!」
それにヤマザキが聞いた。
「新たなゾンビ因子?」
「そうだ! ゾンビになると知力がダメになる! だが知力を保ちながらゾンビになる研究をしているんだ!」
「なんでそんなことを?」
「どうやら東京で知恵のあるゾンビが出現したらしいんだ。そこで知恵を持ったゾンビの研究を始めたらしい」
多分…それは俺の事だ。俺が知恵を持ったゾンビのふりをした事があるが、あれを真に受けたのだろう。
「そんな馬鹿な事を?」
「だから止めなければならない! 人がいなくなる! このままでは地球上から人がいなくなる!」
電力会社のやつがわめいているのを、ファーマー社のやつが止める。
「やめろ! それ以上逆らったら…」
「グハ!」
びちゃびちゃびちゃ! 電力会社のやつが血を吐いた。
「だから言ったろう!」
「もういい。俺はもう嫌だ…」
「やめろ!」
「ファーマー社のやつらを止めてくれ。世界を滅びから救ってくれ」
電力会社の男がヤマザキの腕を掴んで言った。ヤマザキはその手に自分の手を重ねて言う。
「ああ。そのつもりだ」
ドサ! 電力会社の男が倒れる。
「おい! 君!」
ヤマザキが叫ぶが、ユリナがヤマザキに言う。
「死んでるわ」
「どういうことだ?」
するとファーマー社の奴が言う。
「俺達は逆らえないんだ。ファーマー社の利益に反する事をしたら…体内に仕掛けられた『蜘蛛』って呼んでるやつが内臓を食いちぎる」
「なんだと…」
どうやら体内の発信器には恐ろしい仕掛けがしてあった。こいつらは自分の意思でやっているのではない、強制的に人間の滅びに加担させられているのだ。
「ファーマー社の目的は一体なんだ?」
俺が聞くと、ファーマー社の奴が言う。
「知らないんだ! 最初は金もうけの為だと思っていたが、今となってはなんでこんなことをしたのか!」
「金か…」
「ファーマー社は世界に散らばっているぞ。君らみたいなグループで何が出来るものか!」
するとタケルが笑って言った。
「だからって何もしないって言うのも違うだろ? 蟻んこでも噛むときは噛むんだよ」
「馬鹿な事を。とりあえず俺達を見逃せ! な! そして君らは逃げろ、悪いことは言わない。君らの事は本部には言わない」
「もう遅いよ、中の人らは皆死んだ。この施設も破壊する事が決まっている」
「やめろ! そんな事をしたら俺達が殺される!」
「知らねえよ」
そして俺が言った。
「適当に服を脱がして、こいつらを縛って行こう。殺した奴らがそのうちゾンビとして動き出す。仲間に喰われるなら本望だろう」
「は? やめてくれ! うそだろ!」
「嘘ではない」
俺達は男達を裸にし、服や置いてあったタオルなどを使って縛っていく。そしてその部屋を後にするのだった。
「ほどいてくれ!」
「やめてくれ!」
「俺達だってやりたくてやったんじゃない!」
「運が良ければ生き残れるだろう、これまでの事を悔いて頑張って見ろ」
そう言い捨てて俺達は司令塔を抜け出すのだった。




