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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第182話 厭忌の念を抱く

 発電所に到着した俺達は茂みに隠れて内部の様子を見ていた。先ほど俺達がオトリを用意したことで更なる増援が送られたが、まだ戻って来た形跡はない。


 ツバサが言う。


「さっきの増援部隊は戻ってこないかな?」


 それにはヤマザキが答えた。


「流石に裸で社員がゾンビの餌食になってりゃ、辺りを調べたりするんじゃないか? 情報が漏洩するのも心配していたし、誰かに接触したと考えるかもしれん」


「そうだが、捨て駒のようにしていた事から考えても、すぐ戻ってくると考えた方が良いだろう」


 俺が言うとミナミが聞いて来た。


「タイミング的に、行くなら今しかないって言う事よね?」


「そう言う事だ」


「よっしゃ、もう下手は打たねえ。俺も腹はくくった」


「私も」


 タケルもミナミも、ミオとリコを危険に晒したことで覚悟を決めたらしい。あの時あそこに俺が居なければ、ミオもリコも撃たれていただろう。人間を相手するには、一瞬の躊躇が命取りになる事を二人も分かってくれたようだ。


 俺達は背を低くして、暗闇の中を発電所に向けて歩いて行く。


「金網の上に有刺鉄線が巡らされているぜ」


「斬る」


 金網の一枚を俺が剣技で斬り、ゆっくりと倒した。


「行くぞ」


 ここからは場慣れしかなく、子供のアオイと言えどもどうするかを見てもらった方が良い。


 敷地内に入るとすぐビルが見えて来た。明かりがついていて、どうやら電気が供給されているようだ。草むらに潜みじっと建物を見ていると、窓のあたりに人影が見える。


「そこそこ数はいるようだが、大丈夫か?」


 俺がミナミとタケルに言うと、二人は黙ってうなずいた。


「やり方はゾンビと変わらんが、人間は隠れるし頭を使って行動してくる。必ず周囲を確認しつつ、敵の死角に回り込むようにしろ。ゾンビと違って暗闇に潜めば人間は分からない。人間は臭いで人間を判別する事がないから、遮蔽物は有効に使え。そして…」


 皆が俺の話を真剣に聞いていた。


「躊躇も容赦もするな。こちらが死ぬことになる」


「わかったわ。ヒカルはずっとそうやって軍隊と戦ってきたんだもんね?」


「そう言う事だ」


「俺も見て来たから分かるぜ。非情だと思っても仕留められるときに確実に仕留めるんだろ? もう遠慮はしねえ」


「守るべき命がある事をいつも思え。そうすれば躊躇はない」


「「わかった」」


 暗がりに潜みながら建物の壁に張り付いた。するとミオが言う。


「こちら側の部屋に四人いるわ。活動はしないでテーブルを囲んでいるみたい」


 それを聞いたミナミとタケルが言う。


「私が行くわ」

「俺も行くぜ」


 通路側に回り俺が窓の鍵をシュッと切ると、窓を開けてタケルとミナミが侵入していった。


「俺が入った後、皆は遅れてついてこい」


「わかった」


 俺が後をついて侵入する。タケルとミナミは廊下の壁にへばりついて、明かりの漏れる部屋の中を覗いていた。二人は話をしないで身振り手振りで合図を取り合い、どうするかを決めたようだ。


 スッと扉を開けて二人が部屋の中に侵入していく。タケルが入り口付近にある、室内の電気のスイッチを見つけて手を差し入れて消した。


「なんだ?」

「停電か?」

「電気が切れたんじゃないか?」

「ブレーカー見て来る」


 一人の男が出てくると、ミナミがシュッと刀を振り下ろした。男の首がスッパリと切れて、頭が床に落ちそうな所でタケルが受け止める。ミナミは首のない男の体をゆっくりと床に寝かせた。


「ブレーカーまだか? 他は電気がついてるみたいだぞ」


 中の男が声をかけてくるが、すぐにミナミとタケルが侵入し一人ずつ始末する。


「なんだ! 誰だ!」


 最後の男が叫び出そうとするが、タケルが鉄の脛あてでハイキックを繰り出す。すると男の首は肩に九十度折れて、そのまま倒れ込んだ。


 俺が中に入るとミナミが青ざめている。俺はミナミの肩を抱いて言った。


「無防備の人間を殺したと思っているのか?」


「うん…」


「こいつらは、さっきのやつらの仲間だ。やれるときにやらないと、いずれは仲間を殺す。そして得体のしれない物を開発している片棒を担いでいるやつらだ。日本を浄化するなら、元を断たなければだめなんだ」


「わかった」


 だが次第にミナミは震えて来た。俺は一旦ミナミを下がらせる。


「ミナミは一旦下がれ」


「ごめんなさい」


「タケルはどうだ?」


「良心は痛むがな、仲間を守るためだ。仕方ねえ」


「次は俺と組むぞ」


「わかった。ようやく肩を並べて戦えるんだな」


「ああ、行こう」


 俺達が廊下に出るとミオが俺達に言って来た。


「三つ先の部屋に明かりが、三人いたわ」


 俺がタケルに言う。


「さっきの動きは良かったぞ。相手に声を出される前に殺れ」


「ああ」


 次の部屋も同じように電気を消して、すぐに片付ける。ファーマー社のやつらは、恐らくこんなところで襲撃を受けると思っていないのだろう。一切警戒していない為、狩りやすい。


「とにかく何が起きるか分からない。急ぐぞ」


「わかった」


 ビル内のファーマー社社員達を静かに狩り続けた結果、三十分ほどで全てを片付ける事が出来た。そして俺達がその施設を出た時、ミナミがかがみこんで嘔吐してしまった。


 まあ…初めて人間を殺したのだから無理もない。ゾンビを狩る事で若干の耐性があったとはいえ、反撃もしてこない人間を殺すのに抵抗があるのだろう。


 ユリナがミナミの背中をさすっている。


「ごめんなさい。少し楽になって来たわ」


「無理は禁物よ」


「そうね」


 そしてタケルが言った。


「思ったより数がいるな。やはり発電所を動かすには人数が必要って事か?」


 ヤマザキが答える。


「それはそうだ。恐らく常時五十名くらいは作業してるんじゃないか?」


「ファーマー社の社員だけじゃない可能性もあるよな?」


「まあそうだろうが、この発電所を止めるには人間を抹殺した方が良いだろうな。施設を破壊するにしても、どこをやればいいのか分からんし」


 ヤマザキの言葉に俺は聞いた。


「ヤマザキ。何を壊せば電源は止まる?」


「まあ、火力発電所だからボイラー、蒸気タービン、発電機、変圧器あたりか? それらを破壊すれば電源の供給は止まる」


「なるほど」


「どうするつもりだ?」


「いや、人を残せば他の施設で働かせるだろうから抹殺はやめない。だが、全て終わったらこの施設を破壊するべきじゃないかと思う」


「ヒカルがそう思うならそうしよう」


 するとユリナが手をあげる。


「ちょっといいかな?」


「なんだ?」


「多分この施設のどこかに、司令塔みたいなところがあると思うの。そこで研究所の場所の確認と、何をしているのか調べてからにしましょう」


「よし。それならばまずは司令塔を突き止めよう。ひとまず隣のビルも片付けた方がいい」


「やるかあ」


 タケルが言うとミナミも立ち上がった。


「私もやるわ。タケルにばかり嫌な役を押し付けられない」


「いや、無理すんなって! 俺は元々暴力に多少の慣れがあんだよ」


「ううん。相手をゾンビだと思う事にするわ」


 それを聞いて俺が言う。


「ここに居るのは軍人じゃない。だが、まずはここで戦いに慣れておくべきだろう」


「うん」


 辛いだろうが、ここがターニングポイントとなる。ここで無理なら、もう戦えない。


「いいか。これは皆にも言っておく。俺達が戦っているのは、この世界を滅ぼした凶悪なゾンビ因子をばらまいた奴らだ。世界を救うと言えば大それたことになるが、大量に死んだ人間達の恨みを晴らさねばならない。家族や友達、先生や同僚を殺した奴らなんだ。皆も家族や知人を失ってここに居る、そして力を得た今その無念を晴らす事だけに集中しろ」


 厳しい事を言うようだが、ここで甘い事は言えなかった。俺達が目標とする人間の世界を取り戻す為には手は抜けない。


 皆は俺の言葉に聞き入っていた。そしてミオが言う。


「もう最初から分かっている事よ。私はやるわ」


 リコもそれに賛同した。


「美桜さんの言う通り。私達の大切な物を奪った報いは受けてもらうわ」


 皆が大きく頷いた。そしてミナミが言う。


「もう大丈夫よ。そんな大事な事を忘れかけていたなんて不甲斐ないわ」


「葵ちゃんもいい?」


「う、うん」


 可哀想だが子供とて甘やかす事は出来なかった。皆は新たに決心を固め、次のビルに侵入していくのだった。

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