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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第181話 ファーマー社社員の末路

 暗闇の森で息を殺しながら、木の上に登り敵の動きが出るのを待った。すると捕らえた男達が言っていた通り、十数分が過ぎた頃に発電所の方に動きが出たようだ。車がこちらに向かっていると分かり、俺は皆に合図を送る。合図を確認した皆が、手を上げて準備が出来ている事を伝えて来た。


 車はすぐ近くの道路にやってきて、バタバタと数人が降りた音がした。俺が気配感知で探っていると、真っすぐに捕らえた男達のもとに向かって森の斜面を登って来るのが分かる。


 やはり発信器が内臓にあるんだな…


 そいつらの歩みはゆっくりで、恐らくは軍人じゃないと予想された。位置関係を考えればミオの下を最初に通るだろう。ミオは男達の存在を確認したらしく、皆に相手人数のサインを送ってくる。男達を探しに来た人数は四人、それぞれが銃を持っている事を確認する。ゾンビ狩りの成果は十分に出ているようで、人間相手にも連携は取れている。


 だがここからが問題だ。彼らは人間を殺す事が出来るのだろうか? やらねばやられる世界で相手に温情をかけるのは致命的だ。


 男達が俺の下までやって来る。するとを話している声が聞こえて来た。


「まったく! 脱走なんて面倒な事するなって感じだよな」

「ああ、俺なら絶対にしないけどな」

「だよな、捕まったらどうなるか分かってるだろうに」

「それに逃げるって言ったってゾンビしかいないだろ? どうやって生きていくんだって話だよ」


 皆が話の内容を聞いている。どうやらガラも悪くなく無防備なので軍人でもヤクザでもない。おそらくは捕まえた奴らと同じ立場のやつらで、ファーマージャパン社の社員だろう。


 もう少しで捕らえた奴らに気が付く。縛られているのを見れば、俺達の存在に気が付き危険な状態になる。俺は皆に捜索隊を襲撃するように合図を送るが、誰も降りて攻撃を加えようとしなかった。


 しかたがない。


 シュッと俺が地面に降りる。だが想定外にも、俺が動いたのを確認したミオとリコが地面に降りてしまった。彼女らの戦闘能力は低く銃を持っている相手に対して無防備に近い。


 仕方がないので、俺は一番最後尾を歩いている男の首を折って木の陰に隠れる。ミオとリコはダンベルで作ったモーニングスターをもって男達に近づいて行った。


 だめだ!


 俺が慌てて剣を構えるが、ミオがモーニングスターを振り回して男の頭に落とした。


「ぐあ!」


 男の叫びに気が付いた前を進む二人が振り向いて銃を乱射した。


 間一髪だった。俺はミオとリコを掴んで茂みに隠れる。男達は急いで倒れた男の所に来た。


「お、おいおい! 変な声出すから撃っちまったじゃないか!」


「ヤバいぞ。俺達が殺してしまった」


「ていうかもう一人は?」


「あれ? どこいった?」


「発信器を見てみろよ」


 男が腰につけた板のような物を取って見た。


「あれ? 消えてんぞ! 俺達しかいない!」


「もう一人も撃っちまったんじゃないのか?」


 どうやらミオとリコの姿は認識しなかったらしい。俺が瞬間的に茂みに隠れたので、自分達が仲間を殺してしまったと勘違いしている。やはりこいつらは軍人ではなく普通の日本人だと分かる。


 ガガッ! と男達の腰から音が鳴った。


「どうした? 二人の反応が消えたぞ!」


 どうやらトランシーバーから声が聞こえているようだ。


「あ、あの。事故がありまして、二人が死にました」


「事故? どう言う事だ?」


「銃が暴発して死にました」


 正直に言っている。恐らく調べればすぐに分かるため、嘘をつくのをやめたのだろう。更にトランシーバーから声が聞こえて来た。


「だがまだ先に逃げた二人は生きている。そのあたりにいるはずだ! 逃亡したのなら始末しろ!」


「す、すぐに!」


「秘密を漏洩される事の無いようにな」


「わかりました」


 プッ! とトランシーバーが切れた。二人が死んだことに、なんの動揺も見せないトランシーバーの声に二人は慌てて銃を持って進む。


 というか殺せば、本部に情報が筒抜けだ。


 そんな時ようやくタケルやミナミが降りてきて、じわりじわりと二人に近づいていた。しかし今は殺してはいけない、殺せば異変を感じて本部が何かを仕掛けてくるかもしれない。


 俺はすぐさま縮地で捜索隊の元に現れ、サッと二人の意識を刈り取った。倒れた男達のもとに四人が集まって来る。


「ごめんなさい! ヒカル! 行けなかった!」


「俺もすまねえ! いざとなると…躊躇っちまった」


 だが俺は二人に言う。


「いや。それが良い方向に働いた。死ねば本部で異変に感づかれていた」


「そうなのね…でも美桜と凛子を危険にさらすところだったわ」


 そう言うとミオが言う。


「問題ないわ。ヒカルが間一髪のところで助けてくれた」


「ごめんね美桜」


「申し訳ない凛子さん。本当は俺達が行かなきゃいけなかった」


「私も大丈夫、仕方がないわ。やはり人を殺すのは抵抗があるよね?」


「次は躊躇わねえ。本当に申し訳なかった」


 そこに皆が集まって来る。気絶したファーマージャパン社の社員を見てヤマザキが言う。


「死んでるのか?」


「いや、殺してない。トランシーバーで聞いていたのだが、殺せばすぐ本部にバレるぞ」


「それは厄介だな」


 とにかくそれほど悠長に話をしている暇はない、あと少しすればまたトランシーバーに連絡が来るだろう。しかしユミが何かを思いついたように言う。


「じゃあさ、この二人も連れて計四人を更に遠くに連れて行こうよ。本部では、逃亡したって判断するんじゃない?」


「名案だ。そうしてみよう」


 新たな二人をぐるぐる巻きにして、今度はヤマザキの靴下を口に突っ込んだ。俺達は四人を抱えて更に西へと進んでいく。


「民家のある集落に連れていく」


「わかった」


 するとトランシーバーに声が流れた。


「おい! どこに行く? 始末しろ! おい! 応答しろ! お前達も逃亡するつもりか!」


 俺達は誰もそれに答える事無く、黙々と西へ向かって進んだ。田んぼを越えて道路を横切ると住宅地が見えて来る。


「間もなく奴らが動き出すだろう」


「血相変えてたもんな」


 先に捕らえた男達がもぞもぞと動いているので、俺は口のロープを解いて靴下をとった。


「大変な事をしたな! もう、終わりだ! くそ! 俺達もダメだ」


 もう一人の男も叫ぶ。


「どうなってんだ? なんでこんなことになってんだ!」


 どうやら今気が付いたようで、事情が飲み込めておらずパニックになっている。そして俺が男らに言う。


「このあたりの民家にはゾンビがいる。騒げばアイツらが寄って来るぞ」


 するとわめいていた男達が黙りこくった。


「よし、男達を裸にしよう」


 俺が言うと男らの顔が青くなった。


「なにすんだ! やめてくれ!」


 だが俺はそれを聞かずに一人の喉元に日本刀を突き付けた。


「動くな、死ぬぞ」


「わかった!」


「みんな! コイツの縄をほどいて服を脱がせてくれ!」


 皆が男の縄を解いて服を脱がせていく。全裸になったのを確認して手足を縛るように指示をした。四人の男達の服と装備を全て剥ぎ取り、真っ裸で手足を縛られた状態になった。


「やめてくれ…」

「頼む…」


 男達は力なく言った。


 ガガ! 


「応答せよ! お前達! 何をやってるのか分かっているのか!」


 そう言うと一人の男が声を上げる。


「た、助けてくれ!」


 しかし声を上げる前に、俺はトランシーバーを破壊した。更に発信器のような物も全て破壊する。


「う、うう」


 俺は男達が持っていた銃を持ってヤマザキに言った。


「撃ち尽くそう」


「わかった」


 パンパンパン!


 ヤマザキが銃を撃ち尽くした。周囲の民家を気配探知で探ると、音に反応してもぞもぞとゾンビが動き出しているのが分かった。それを確認して俺は皆に言う。


「行こう。ゾンビが集まってくる」


 俺が言うと裸の男達が青ざめて言う。


「やめてくれ! ほどいてくれ! 協力する! 何でも言う」

「よく、こんなひどいことができるな!」


 あとの二人はまだ意識を取り戻していない。


「じゃあ、ちょっと聞いて良いか?」


「わかった! 何でも言う!」


「何の研究をしている?」


「人体実験だ! 人の体を使って新薬を試したり、新しい生物兵器の開発をしている! 俺達だって被害者なんだ!」


「お前らはいつから知っていた?」


「ゾンビの世界になる前から、だが俺達にはどうする事も出来なかった!」


 するとユリナが憎悪を顔に浮かべて二人に言った。


「でも…正直お金はふんだんにもらってたでしょ? ファーマー社はゾンビ騒動の前にある新薬で儲かったわよね?」


「そりゃそうだ! 会社が儲かってるんだから金はもらわないとな!」


「でもその結果どうなった?」


「そんなの知らない! 俺達だって被害者だからな! 金をもらわなきゃやってられなかった」


「社員も知っててやったんだ…」


「ああ。悪いとは思っていたが、本社の命令は絶対だった!」


「会社を辞めるって言う選択肢もあったよね?」


「だけど俺達には家族がいた! 路頭に迷わせるわけにはいかなかった!」


「私達にだって家族はいたわ!」


「う、だ、だけど…その家族も皆死んでしまったんだ! お互い様だろ!」


「自業自得よ。間違っていると気がついていて、ずっと仕事をするなんて加担しているのと同じだわ」


「会社がそんな事するなんて思ってなかったんだ!」


「気がついた段階で、内部告発するなり集団で訴訟するなりあったでしょ!」


「そ、それは…。皆がそういう考えでは無かったし、俺達みたいな一般社員はただ従うしかなかった!」


「お金の為よね?」


「最初は俺達社員も体に良いって言われていたんだ! 気づいた時には遅かったんだ!」


「詭弁だわ。あなた達は、新薬のおかげで一時期だけでも相当良い思いをしたはずよ。豪邸に住んで家族もかなり裕福に暮らしたはず。ファーマージャパンの社員は皆そう! 私達、看護師であの薬に気が付いた人はどれだけ恨んだか、善良な医者も私も異常者扱いされた!」


「そんなの、我々には関係のない事だ。気が付いたなら気が付いたなりに対処すればいいことだろう? 医師会も了承済みなんだから、俺達は悪くない!」


「うそでしょ…。こんな結果になったのよ! ファーマー社の人間に本当に人の心があったのかしら?」


「こんなことをする奴らに言われたくない!」


「自業自得だわ!」


「だが! 今となっては、俺達も金を使うところが無くなってしまった! 今ではかごの中の鳥! ファーマー社の実験の片棒を担がされている! 分かってくれ! 犠牲者なんだ!」


「うるさい!」


 激高するユリナをミオが抑える。


「もうやめよう。どうしようもないわ」


 気がつけばユリナは涙を流しており、ミオに押さえられてようやく我に帰った。大量の人間を救えなかったと自分を責めるユリナと、自分達の事だけを考えて生き延びようとしたファーマー社の人間の違いが浮き彫りになる。


 俺が言った。


「行こう。まだ作戦は終わっていない」


「う、うん」


 ユリナも落ち着いて返事をした。


「まて! 話したじゃないか! 助けてくれ!」

「そうだ! このままにしていくつもりか!」


 それに俺が答える。


「まもなくお前達の味方が来るだろう。それまでに持てば良し、なんとかゾンビに喰われないように頑張れ」


「おい! くそ! 人殺し!」

「人でなし!」


 既にゾンビが建物の陰からでてきているようだが、遠くから車の音も聞こえて来る。


 俺がみんなに言った。


「発電所に向かおう」


「わかった」


 男らがギャーギャー騒げば騒ぐほど、ゾンビは真っすぐに男らに向かう。うるさくしていたので、気絶している残りの二人も気づいた。


「な、なんだ?」

「あ、お前達!」

「やめてくれ! 助けてくれ!」

「く、来るな!」


 男達の声を聴きながら、俺達は真っすぐに発電所に向かって走り出すのだった。


「ぎゃぁぁぁぁあ」

「やめてくれぇぇぇ」

「う、うぐあああああ」

「殺してくれ! たのむ!」


 男達の絶叫を聞いても誰も振り向く事は無かった。

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