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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第179話 火力発電所

 太陽が落ちつつあり、砂浜と俺達をオレンジ色に染めていく。砂浜の波打ち際で皆が戯れていると、アオイが海岸沿いに北を指さして言った。


「あれなに?」


 白い塔が二棟立っているのが見える。それを見たタケルがヤマザキに聞いた。


「山崎さん! あれなんだ?」


「ありゃ、たぶん火力発電所だな」


「だってよ葵ちゃん」


 なるほど、あれが発電所か。電気を供給する場所って事だ。俺がヤマザキに言う。


「ヤマザキ! 今日の夜はあそこにしたらどうか?」


「まあ…発電所なら守りは万全だろうけどな、恐らくゾンビがいるぞ。二十四時間四六時中人がいただろうからな」


「なるほど。まずは討伐からか」


「そうなるだろう」


「明るいうちに動いた方が良さそうだ」


 俺の言葉に皆も頷く。そのまま裸足でバスに戻り砂を払って靴を履いた。


「楽しかったね」

「ほんとね。砂浜なんて何年振りかしら」

「一瞬だけ、辛いのを忘れられたわ」


 バスの中は雰囲気が良く、皆も満足そうな表情を浮かべている。ユリナが運転を代わりバスは北に向かって進みだした。二本の白い塔が少しずつ近づいて来る。


 だが俺は唐突に胸騒ぎがした。


「ユリナ、バスを止めてくれ」


「うん」


 バスが停まった。皆が不安そうな顔で俺を見ている。


「どうしたの? ヒカル?」


「わからん。だが一度どこかに車を隠した方が良い」


「わかったわ」

 

 再びバスが動き出し、左に曲がって進んでいくとユリナが前方を確認して言う。


「線路の下にトンネルがあるわ」


「そこに車を入れよう」


「わかった」


 線路の下を通るトンネルにバスを停め、俺は皆に告げる。


「ひとまず、ここで休むことにしよう」


 俺の言葉を聞いたヤマザキが皆に言う。


「ヒカルの第七感だ。言う事を聞いて休むことにする」


 皆が黙ってうなずく。陽が落ちて辺りは青くなってきた。


「完全に暗くなる前に食事をした方が良い」


 先ほどのスーパーマーケットで回収した食料を皆で少しずつ分け合う。ウシを食いたいところだが、ここで悠長にやる訳にはいかなそうだ。食事を終えてタケルが聞いて来た。


「で、どんな感じだ?」


「ああ、出来れば暗くなってから確認したい」


「了解だ」


「それまではみんな休んでくれ」


 それから数時間後、俺は眠っているみんなを起こす。


「起きてくれ。このトンネルの上に上がって確認するぞ」


 皆がバスを降り暗いトンネルを出た。線路に向かって坂を登り、線路まで上がってきた時に皆も気づいたようだ。


 ヤマザキが言う。


「なるほどな」


 女達も納得している。


「明るいね」

「だね。発電所に明かりが灯ってるよね、あれ」

「そのようだな。マジでヒカル様様だ、無防備に近づくところだったぜ」

「でも、あれが敵か一般人かわからないよ?」


「そのために偵察する必要がある」


「ふうっ、休まらねえな」


 タケルが言うとユミが諭すように言った。


「あれを放っておいたらもっと休まらないわ。一般人が生き残って発電所を動かしているのか? それとも何か他に理由があってあそこに人がいるのか調べないとね」


 俺がヤマザキに言う。


「ライトを消して近づけるだけ近づいてみよう。音も察知されないくらいの距離までだ」


「わかった」


 俺達は再びバスに乗り込んで、ライトをつけずに俺の指示で暗闇の道路を進む。発電所を見下ろせる高台にバスが停めれる場所を見つけたので、俺はバスを降りて皆に指示を出した。


「周辺に適当にゾンビはいるようだ。倒しながら発電所に向かう」


「「「「「はい」」」」」」


「人との戦闘になるかもしれん。ユンとリコとアオイはどうするかだが」


 するとユンが言った。


「行くよ。私、いつまでも足手纏いは嫌だから」

「わたしも! ヒカル兄ちゃん達が命をかけるなら一緒に!」


 二人の言葉を聞いたリコは苦笑いしながら言う。


「私がいないと武器を修理できないわ」


「わかった。皆で行こう」


「「「「「「「「「「おー!」」」」」」」」」」


 俺達は全員で発電所に向かい坂を下りていくのだった。暗闇を静かに進み発電所の側に来て、俺は手を上げて皆を止める。皆には暗くて分からないだろうが、発電所の金網の中に護衛を立てているようだ。


「人がいる」


「マジか」


「銃を持ってる」


「一般市民か?」


「どうだろう? 服装まではよくわからん」


「どうする?」


「皆はここで待っていろ、一人さらって来る」


「わかった」


 俺は皆から離れ、認識阻害の魔法をかけて暗闇に溶け込んだ。ヒタヒタと近づいて行くが誰も気が付く気配はなく、俺は金網を飛び越えて内部に入った。二人一組で見回っているようなので、俺は二人を同時に誘拐する事にした。


 縮地で二人の後ろに接近し手刀で同時に意識を刈った。倒れる前に二人を掴み、そのまま走って柵を飛び越えて皆の元に戻る。


「一気に二人かよ!」


「一緒に行動していたようだ。一人を残してくれば気づかれる」


 するとユリナがそいつらの服についているマークを見て言った。


「ファーマー社じゃない…しかも日本人だわ」


 俺はすぐに指示をする。


「手足口を縛れ。声を発する事が出来ないように、口の中に布でも詰め込んでおこう」


 するとユリナが言う。


「布って、タオルか包帯くらいしかないけど。タオルで良い?」


「もったいない」


 するとタケルが言った。


「じゃ、俺の靴下」


 タケルが靴下を脱いで二人の口に突っ込んだ。そしてリュックから縄を取り出して、二人をすまきにする。タケルが二人を見下ろして言った。


「なんでこんなところにファーマー社のやつがいるんだ? 軍人ぽくねえけど」


 もちろん誰も知ってるはずがない。タケルの言葉に対して俺が答える。


「これは風向きが良くなったと考えるべきだ。まさかこんなところに、こいつらがいるとは思わなかったが敵を知るいいチャンスだ」


「なるほどね…つー事は、やっぱ潜入するって感じだよな?」


「そうだ」


「おっけ」


「皆も訓練の成果を確かめる時だ。人間が相手となるがためらうな、相手は銃を持っているからな」


 皆が緊張気味に頷いた。


「気づかれる前に殺す。それだけだ」


「こいつらはどうすんだ?」


「埋める」

 

 俺が言うと皆の顔が引きつった。だがなるべく武器を使用したくないし、埋めるのが静かに殺すなら一番なのだが…。ヤマザキが俺に聞いてくる。


「生き埋めか?」


「方向が決まったのだから当然だ。いずれ中で出会った奴らも全て殺す事になる」


「そうか…そうだよな」


 ここまでに決心はつけたつもりだと思っていたが、やはり皆は人を殺す事に抵抗があるらしい。ゾンビとは勝手が違うようで、殺人に対してはミナミですら怖気づいている。しかし生かしておけば隙を生むことになる。こいつらがなんかの手法で脱出する可能性もあるからだ。俺は今まで敵に対し容赦した事がない。やるなら徹底的にやらねば、あとでそこからほころびが出るかもしれない。


 そして意外な人が一番に賛同してくれた。それはリコだった。


「私達の仲間は、皆こいつらに無慈悲に殺されたわ。もしこの二人が無関係だとしても、あんな組織の一員なら害にしかならないと思う。私はヒカル君の意見に賛成よ」


 皆がそれを聞いて静かになる。するとミオも言う。


「仕方ないと思う。だけどその前に、この人らから情報をとらないとね」


 ミオも分かっているようだ。


「そうだな。どこかの建物に連れていくぞ」


 俺達はその二人を持って近隣の住居へと移動するのだった。

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