第17話 仲間割れ
俺はミオたちが待つ場所へと戻り扉を開けて外に出る。すると鉄の棒を構えたヤマザキとミオとユリナが立っていた。
「うお!」
ヤマザキが声をあげる。
「遅くなった。館内のゾンビは殲滅した」
「え? せんめつ? 武器は?」
そう言われたので俺は余った円柱の鉄の塊を見せる。
「これでやった」
「…缶詰?」
「カンヅメ? なんだそれは?」
「食べ物よ」
やはり食べ物であっていた。
「どこで見つけた?」
ヤマザキが聞いて来る。
「分からんが箱に入っていた」
「こんなところに物資があったとはな…」
「とにかくゾンビはいなくなった」
「わかった!」
俺達が中に入ると、ヤマザキとミオとユリナの手元が光り廊下を照らした。一瞬魔法を使ったのかと思ったが、どうやら何かの器具を使っているらしい。
「なんだそれは!」
「えっと、懐中電灯よ」
「カイチューデントー?」
「照らす物よ」
なるほど。この世界にはいろんな魔道具があるらしい、どうやらそれは一人一つ持つことが出来るくらい手ごろな物のようだ。前世なら貴重な魔道具として高く売れるだろう。するとヤマザキが俺に聞いて来た。
「事務所はどこかわかるか?」
「ジムショとは?」
「なるほど、わからんか…」
「とりあえずついてこい」
ヤマザキが聞く場所が何処か分からんが、机の上にごちゃごちゃと物が置いてあるところがあった。俺はもしかするとと思い、そこに三人を連れていく。するとヤマザキが言った。
「お! そうだ! こういう場所だ」
「それなら他にもあった」
「とにかく鍵らしい物は全て集めよう、本当に中にゾンビは居ないんだな?」
「ケハイは無い」
「わかった」
そしてヤマザキとミオとユリナがあたりを探し始める。部屋をあちこち探しているうちにミオがみんなを呼んだ。
「みんな! こういうところに無いかな?」
ユリナとヤマザキが来てミオが指さすそれを見る。それは鉄の箱のようなもので、随分頑丈に作られているようだった。
「鍵がついてるな…」
「机でも鍵を見つけたけど、これが合うかどうか…」
そう言ってヤマザキとミオとユリナが、その鉄の箱のような物に鍵を突っ込み始める。だがなかなかその箱は空かないようだった。もたもたしているので俺が声をかけた。
「この箱を空ければいいのか?」
「これは金庫だ。そんなに簡単には開かないぞ」
そんなに丈夫な物なのか? ロングソードがあれば何とかなりそうだがな…。ミオを見ると先ほど俺に振りかぶった鉄の棒を持っていた。
「その棒を借りれるか?」
「あ、いいよ!」
ミオが俺に棒を渡してくる。
「さて」
俺は鉄の箱を拳でコンコンと叩いた。恐らく中は空洞のようだが、派手に破壊すれば中の物を壊してしまうだろう。
「錬成、鋭利化」
俺はミオからもらった鉄の棒を適正な形に変える。そして鉄の箱との距離を測って立つ。
「すまんが離れていてくれ」
俺が言うとヤマザキとミオとユリナが後ろに下がった。
「空裂斬!」
シュッ! 俺はその箱の端をめがけて鉄の棒を振り下ろした。キン! と軽く音がして俺の目論見通りその鉄の箱の一面に亀裂が入る。
「えっ? どうなったの?」
ミオがポカンとした顔で聞いて来る。何が起きたのか分からんらしい。
「ああ、こうだ」
俺は亀裂の入った場所に鉄の棒を突っ込みグイっと横に捻る。すると少し隙間が開いたので、そこに指をかけグイっと引っ張ると、鉄の箱の一面が綺麗に外れた。
「おわ!」
「え!」
「うそ!」
三人が唖然として俺を見ている。もしかしたらこいつらはAランク冒険者くらいしか見た事無いのかもしれない。武器がちゃんとしてればSランクならこのくらいは朝飯前だ。俺にとってみれば朝飯どころの騒ぎではない。こんな訳の分からない鉄の棒でもこのくらいの事は出来る。
「それでどうなんだ?」
俺がヤマザキに聞くと、ヤマザキは慌てて中をカイチューデントーで照らした。
「カギだ! 沢山あるぞ!」
「全部持って行ってみましょう!」
そして俺達はその鉄の箱の中にあった鍵を全て持って外に出る。広場に並んでいる大型の車を見てヤマザキ達が話をしていた。ヤマザキが鍵に着いた板を見ながら言う。
「なるほど、鍵に着いたプレートにナンバーが記載されているな」
するとドウジマがそれに答えた。
「きっと車の鍵の貸し出しは、パソコンで管理していたんだろうな」
「はは、数か月前までは俺達もそんな暮らしをしていたというのにな」
「なんでこんなことになったかね…」
分からない単語が飛び交っているが、どうやら鍵に着いた板に記された文字で、どれがどの車の鍵か分かるようになっているらしい。するとそこにタケルが来て言った。
「ゾンビ映画のお決まりと言ったら、どの鍵が分からなくて慌てるシーンだよな。それが分かりやすくナンバーが記されてるなんて、実際の方がだいぶ楽だな」
すると肩の力が抜けたようになって皆が笑うと、マナが笑いながら言った。
「それ、ホラーの定番って感じだけどね」
するとヤマザキが言った。
「タケルも、少しは元気が出てきたようだな」
「まあいつまでも落ち込んでたら死んじまう世界だしな」
「よし! とにかく動くかどうかを全部確認しよう」
「ああ」
そして各人が大型の車と鍵を合わせて中に乗り込んでいく。すると乗り込んで間もなく、どの車からも振動音のようなものが聞こえて来た。
「燃料入ってたな!」
「こっちもだ! バッテリーも生きてる!」
「こっちもよ!」
「俺の方もだ!」
なんと並んでいる四台すべてが動くようだった。するとヤマザキとドウジマが言った。
「いけるぞ!」
「これだけあれば、ゾンビを踏み潰して突入できるだろう」
皆が意気揚々としている中で、唐突に年老いた女が言った。
「私達は行かない方が良さそうだねぇ」
するとタケルの側に居るユミが言った。なんかとても嫌そうな顔をしている。
「一緒に行くのが嫌なら残ればいいじゃん」
するとミオが間を取り持つように言う。
「でも置いてはいけないわ!」
「だけど、行きたくないって言うなら無理じゃない?」
すると年配の女性と一緒にいた、少年が年配の女性の前に立って言った。
「僕はおばあちゃんといる!」
それに対しタケルが言った。
「おいおい、残るったってその後どうすんだよ」
何かざわつき始めた。俺が見た感じでは仲間割れが起きているような気がする。すると白髪の爺さんが話し出す。
「堂嶋さん。わしらはあのゾンビの群れに行くのは反対だ。きっとあそこの連中はもう助からん」
「行って見なければわからないじゃないか!」
すると金髪で目がやたらデカく、爪が異様に長い派手で無防備な服を着た女が言う。
「あーしも行かない。わざわざ死にに行くようなもんじゃん! 無理なんだけど!」
よく見たらその女は瞳の大きさが、他の人間とは比べ物にならないほど大きい。すると黒髪で前髪が長く目が隠れている、よれよれの服を着た太った男が言った。
「あ、あの! ゆんぴが行かないなら、お、俺もいかない!」
「えー、っきもいんだけど! オタの癖に! そしてあたしの事ゆんぴって言って良いのは、好きぴだけだつーの!」
「い、いや。お、俺が守るって決めたから」
「カンケーねーっしょ! マジで無理、お前が残るならあーし行こうかな」
「じゃあ、お、俺も行く」
「…どっちにしろ来んのかよ! なら行かないわぁ」
「う、うん。お、俺もその方が良いと思う! ゆんぴが死んだら俺悲しいし」
なんか揉め始めたぞ。どうやら行くか行かないかで意見が割れてしまったようだ。
「どうすんだよ、堂嶋さん」
タケルがドウジマに聞いている。するとドウジマが白髪の老人に言った。
「戸倉さん。この五人で今後どうやっていくんだい?」
「いや、わしと貴子さんとで面倒を見るしかないだろう…」
「ゾンビに出くわしたらどうしようも無いんじゃないのか?」
ドウジマが言うと、黒髪の目の隠れた太った男が言った。
「お、俺も男だし。お、俺守れるし」
「…いや…」
するとタカコと呼ばれた年配の女性が言った。
「それに、昨日からの強行軍で疲れてしまってねぇ…」
「もう少しの辛抱だ。こうしている間にも空港の仲間が死んでいるかもしれん」
「そんなこと言ったってねぇ…、私達も死んでしまう。大和だってこれ以上はもう無理なの」
するとヤマトと呼ばれた子供が、年配の女にしがみついた。
「僕はおばあちゃんといる!」
ドウジマとヤマザキそして他の面子がシンッと黙った。その沈黙を破ったのはトクラと呼ばれた白髪の老人だった。
「まあそう言うわけだからさ。確かに堂嶋さんの言う通り生きている人は居るかもしれないよ。でもそれを助けに行って死んでしまったら本末転倒だからさ」
するとユリナが声を出す。
「堂嶋さんも山崎さんも居なくなるのよ? それであなた達は生き延びていけるの?」
「こっちはなんとかするさ」
「あたしも頑張るしねぇ」
「僕もおばあちゃんを手伝う!」
「あーしもなんかの役には立つかな?」
「お、俺が、み皆を守るから…」
五人がガヤガヤと言っている。
俺がどうなったのかをミオに聞くと、十二人の内五人が分かれて行動するらしい。俺としては別にどっちでもいいと思うのだが、このパーティーの権利を誰が持っているのだろうか? 俺の見立てでは、ドウジマかヤマザキがパーティーリーダーだと思う。依頼の途中で投げだしたら、報酬も何も無くなってしまうだろうに…
「それは…認められん」
ドウジマが苦虫を潰したような顔で言った。やはりドウジマがパーティーリーダーなのかも。
するとトクラと言われた老人が答える。
「そんな事はあんたにゃ決める権利はないだろ。わしらが残ると言っておるんだから放っておいてほしい」
今度はヤマザキが言った。
「人はまとまっていた方が生存確率は上がるんだ。ここでバラバラになってしまっては元も子もない。ここは我慢して一緒に来てもらうしか…」
するとそれを遮るように、ユンピと言われた派手な女が言った。
「あーし、それ嫌いだった! ずっとあんたらの指示で動いてきたじゃん! それで結局こんなことになってるし!」
それに対してユミが答える。
「それは違うって、この人達の冷静な判断で生き残って来たんじゃん!」
太っちょの男も言った。
「お、俺も命令されてる気がして嫌だな。自由の国、日本で制約がかかるなんておかしい」
するとタケルが叫ぶ。
「オタク野郎はだまってろよ!」
すると黒髪の男はビクッとして言葉を発さなくなる。だがそれに対してミオが叫んだ。
「タケル君! その言い方はどうかと思う! そんな頭ごなしに言ったら言えなくなるよ!」
「だってよう…」
うーむ。早くしないと、自分達の帰る場所がゾンビだらけになってしまうような気がするんだが、いったいこいつらは何をやっているんだ。
するとヤマザキが静かな声で言った。
「仕方がない。こうしている間にも全滅してしまう可能性がある」
そうそう! その通り! 行かないと!
だがユリナが食い下がった。
「山崎さん! 彼らを置いて行くんですか!」
「仕方がないだろう」
「そんな…」
すると年配の女がユリナに言う。
「友理奈さん。ありがとうね、あたし達だって生き延びたいんだよ。だけどもう疲れてしまってねぇ」
するとヤマザキが何かを決めたように言う。
「なら、空港へ俺達が助けに行って、生き残った奴らを救出出来たら戻って来よう! それでどうだろう? ドウジマさん?」
「…そうだな。とにかく急がなければならない。街中は危険だから、ここで待っててくれればいいんじゃないか? 朝が来ても戻らなかったら、皆はここから去ると言う事でどうだろう?」
ドウジマの言葉を聞いてトクラが返した。
「すまない…、とにかくわしらは限界だ。もし生きている者がおったら連れてきてくれ」
「わかった」
するとドウジマが皆に号令をかけた。
「よし! それじゃあ行く人は?」
するとヤマザキ、ミオ、ユリナ、タケル、ユミ、マナが手を上げた。後の五人はそこに残るようだ。
「急ごう!」
ヤマザキが号令をかけて、四台の大型の車に乗り込んでいく。ヤマザキとマナが一台、ドウジマが一台、タケルとユミが一台、ミオとユリナと俺が一台に乗り込む。そして大型の車は再び夜の街道へと出発していくのだった。




