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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第177話 敵の気配

 俺達は肉食獣を狩るため、装甲車に改造したバスに乗り再び高原にやってきた。時おり路上をうろつくゾンビは、バスに接触する前にガードで吹き飛ばされる。おかげでスムーズに進めるようになったと思う。


 既に皆の面構えは、ただ逃亡していた頃とは違って自信に満ち溢れている。全員がリコの作った武装を装着して、早くそれを使ってみたいという顔をしていた。


「このあたりで止めよう」


 俺は草原の遠くにいるウシを見つけて言う。そこは広い牧場になっており深く草が生い茂っていて、ウシはその草を無心に食っている。ウシがいるところで待ち伏せすれば、いずれ肉食獣がやってくると想定したのだ。


「じゃ、しばらく待つか」


 タケルが言うと皆が頷いた。俺達はじっとバスの中からウシを見ている。だがすぐには現れず、俺達はその場で待ち続けた。アオイが俺に聞いて来る。


「来るかな?」


「来なければ明日も見張るさ」


「会うまでやるって事?」


「まあそう言う事だ」


「わかった」


 俺達がバスの中で三時間ほど待っていると、ウシの動きに異変が出てきた。ウシは周囲を見渡すようにじっとしていたが、すぐに何もなかったように草を食う。だがまた頭を持ち上げて周辺を警戒するような仕草をした。


 どうやら肉食獣の気配に感づいているようだ。俺が言う。


「タケル、ミナミ、ミオ、マナ。行くぞ」


「腕が鳴んぜ!」

「リベンジよ」

「気配を掴んでやるわ」

「あー、私にかかってきたらどうしよう」


 俺も念のため降りて四人の後をついて行く。バスに残った人らが俺達の様子を心配そうに見ている。ウシに気づかれないように近づいて、四人は草むらに潜んだ。すると俺の気配感知に草食動物とは違う気配が感じられる。ミオはまだ気が付いていないようだ。


 そして肉食獣の気配が五十メートル以内に入った時、ミオが他の三人に向けて手で合図をする。すると四人はゆっくりと深い草むらの中を、しゃがんだ姿勢で進んでいくのだった。その姿はまるで肉食獣のようで、ウシは四人に気が付く事は無さそうだ。


 更に肉食獣の気配が差し迫った時、四人はいっきにウシに近づいて行く。ウシは驚いて逃げるが、そこにライオンの群れがやって来た。自分達の得物が居なくなったことで、ライオンの意識は追い払った四人に向かった。するとマナが身振り手振りを大きくして叫んだ。


「来てみろ! 私はここだ!」


 するとライオンの群れがじりじりとマナに近づきだした。どうやらゾンビに効果のあるヘイト能力はライオンにも効くらしい。新たな発見に俺も驚いている。


 ライオンが一気にマナに走り寄った時だった。タケルが一頭のライオンにモーニングスター棍棒をふるう。


 ボグウッ! とライオンの頭が吹き飛んだ。それを見た他のライオンが、飛びかかるを一瞬止めたがミナミはそれを見逃さなかった。


 シュッ、と日本刀を振り下ろすとライオンの首が落ちる。残りのライオンがミナミから逃げようとすると、鉄の脛あてをつけたタケルが思いっきり蹴り上げた。ライオンはそのまま三メートルくらい上空へと飛びあがり、ドサリと落ちてよろめく。そこにミナミが来て首を斬り落とした。


ダッ! 


 残り一頭のライオンが慌てて逃げ、四人の攻撃が届かないところに行ってしまった。


 ミナミがビュッ! と日本刀の血の気を切って鞘にしまう。


 俺が立ち上がって四人に言った。


「やったな! 成功だ!」


「おう! うまくいった!」

「や、やった! やったやった!」

「ライオンの気配はかなりとりづらかったわ」

「はああああ…食べられなくてよかった!」


 四人が手を取って喜んでいる。そして俺が四人に言った。


「ライオン討伐記念にウシを狩って来るぞ! 待ってろ!」


 俺は四人を置いてすぐにウシが逃げた方向に向かった。ウシが気が付く前に俺はウシを仕留めて、皆の元へと戻ってくる。


 それを見てタケルが言う。


「なんつうか、せっかくライオンから生き残ったのに可哀想っちゃ可哀想だな」


「でも、ハイエナよりいいんじゃない? 正々堂々勝ち取ったんだから」


「まあそうよね! 戦利品だわ」


「食べられるくらいなら食べてやる! ってね…違うか」


 俺達が牛を連れてバスに戻ると、バスの中に残っていたメンバーも喜んでいた。


「すっごい!」

「みたよ南!」

「ヒカル顔負けね!」

「武も一瞬ライオンが飛びあがったよね!」

「リベンジ成功ね」


 それにミナミが答えた。


「前に私を傷つけたのは、ライオンじゃなくて虎だけどね」


「虎はいなかったね?」


 確かにトラの方が恐ろしかった。恐らくライオンは群れで獲物を狩るが、トラは単独で狩りをするのだろう。その分気配の消し方がライオンとは段違いのレベルだった。


「まあ、でもいいや。これで私の気は済んだ」


 タケルが言う。


「じゃ祝勝会だな」


 それにユミが答えた。


「牧場にグリルハウスがあったけど、あそこで焼いたらいいんじゃない?」


「お、そいつは良いね」


 皆が宿敵の討伐に浮かれている時だった。


「しっ」


 俺が皆に静かにするようにして外に出た。すると遠くからヘリの音が聞こえてくる。まだ距離はあるが、どうやらこちら側に偵察を送って来たのだろう。バスの中に戻って皆に伝える。


「ヘリだ」


 その言葉を聞いて皆が、凍り付いたように静かになった。


「だがまだ距離がある。しかしここに来るのも時間の問題だろう」


 それを聞いたヤマザキが頷いた。


「鬼怒川や日光の山の上に人間がいたのは、奴らも承知の上だろうからな。もし人間が潜むとすれば、那須高原にと言う選択肢は十分に想定するだろう」


「このまま移動するか、ここで迎え撃つか」


 俺が言うと皆が考え始める。そしてタケルが一番最初に言った。


「迎え撃ってみるか?」


 だが、それに反対の意を示したのはミナミだった。


「時期尚早じゃない?」


「だけどよ、どのくらいやったら準備が整ったって事になるんだ?」


「そう言う事じゃなくて、こちらから仕掛けた方が良いと思うのよ。迎え撃つんじゃなくて、奇襲をかけるって事。それには敵の情況を調べる必要があるわ」


「奴らの本拠地に行くつうことか?」


「まあ、分かるならそれが良いと思うわ」


 だが、そこで二人の意見が止まる。俺が皆に聞いた。


「皆はどう思う?」


 するとヤマザキが言った。


「武には悪いが、俺も今じゃないと思っている」


 それにタケルが答える。


「山崎さんがそう言うならそうだろ、だとどこに逃げるかっつうことになるな」


 ミオが地図を広げて言った。


「ここからだと、郡山市に向かうか海沿いのいわき市に向かうかね」


 俺が地図を覗き込んでミオが指をさしている部分を見る。それを見てヤマザキが言った。


「北は危険かもしれん。既に敵の手が回っている可能性もある、郡山にはいかない方が良いんじゃないか」


「なら、いわき市ね」


 俺はそれにも危険性があると思い伝える。


「だが海から敵がやってくる可能性も否定できないぞ」


 それにヤマザキが言った。


「なら北東に向かおう。海から敵が侵入してくる可能性は十分に考えられる、大きな港がある場所は危険かもしれん」


 皆がヤマザキの意見に賛成し、俺達のバスは北東に向けて出発するのだった。するとリコが物資の事を聞いて来る。


「集めた物資は置いて行くの?」


「ああ」


「もったいないと思うんだけど」


「いや、急いだ方が良い。こうなったらモタモタしている時間はない」


 俺の言葉にリコが皆を見渡すが、皆も俺と同意見のようで黙ってうなずいた。


「生き延びてきたあなた達の言葉に従うわ、きっとそれが最善だと思うから」


 そしてタケルが言う。


「物資なら行った先でも手に入る。それより今は時間との闘いだ」


「わかったわ」


 俺達の乗ったバスは、太い街道ではなく細い山道を通っていく。太い街道は目立つが、山道は草木が生い茂っておりカモフラージュになるためだ。さっきまでのお祭りムードが一変し、バスの中は静かになり皆は進む道の先をジッと見つめるのだった。

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