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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第172話 新パーティーの特性

 次の日の朝。今日の行動方針を決めるために皆が集まっていた。


 似たような力を持つことによって、俺達にはより深い連帯感が生まれたように思う。この世界に来てからこれまで、どこか孤独感のようなものが付きまとっていた。だが今はそれが無く皆が俺の考えを深く理解してくれるようになったのだ。それによってかなり動きやすくなった。


 もちろん俺が全ての最適解を知っているわけではないが、こと化物と戦って生きのこる術においては世界一だと自負している。前世でもこの世界においても右に出る者はいないだろう。だが実のところ、他の事はそれほど器用ではない。この世界の人に誤解なく理解させるような話術も、知識も持ち合わせてはいないのだ。 


 だからこそ新参のヨシタカが理解してくれた事は大きい。前の世界では魔法や剣技は普通に認識されていたから、そこに関して疑念を持つ者はいなかった。だがこの世界にはそれが無く、到底それを根底から信じられるものではない。しかし彼らは自分の体の異変を感じ取った事で、本能的に理解できるようになったのだ。不協和音が無くなる事で、パーティーの生存率は格段に上がる。


 それを踏まえ俺達は、この那須高原にいつまでいるかの話をしていた。


「まずは別荘の集落に居るゾンビを全て狩ってからじゃない? 全員がまんべんなく何らかの力を実感できるまでやった方が良いと思う」


 女の中で能力が一番発現しているミナミが言い、それに対して俺が肯定的な答えを出す。


「今のところ、敵の軍隊がこちらに上がって来る様子はない。分かりやすくゾンビが分布しているこの地域での訓練は効率が良いだろう」


 するとタケルが言った。


「あー、ちょっといいかな?」


「なんだ?」


「そう言う方向で行くなら、分担したほうがいいんじゃねえかなって思う」


「分担?」


「そうだ。ヒカルが一人で全員を管理するのは効率が悪いって事だよ。集落制圧に成功した俺と南と美桜、そして友理奈のパーティーだけで別荘の集落をやる。ヒカルは他の四人パーティーを育てるって方が効率が良くねえか?」


「危険じゃないか?」


「どうかな? 正直、俺とミナミはレベルが上がりにくくなったみたいだしよ、油断するわけじゃねえけどこの町のゾンビなら余裕をもって倒せるぜ」


 確かにそうだ。特にタケルとミナミはゾンビでは物足りなくなっている。ミオとユリナもじきに引っ張られて底上げされるだろう、その間に俺が他のパーティーを育てた方が効率は良い。


 タケルの言葉にミナミとミオとユリナも頷いた。そしてミナミが言う。


「連携が取れるようになったのは大きいと思う。あと私と武と美桜の誰かの体に黄色信号が灯れば、友理奈がそれを看破してカバー出来るわ。危険信号が灯ったら逃げればいい」


 ユリナもそれを聞いて大きく頷いた。


「特に次の生存者を見つける前までに、私達全員が仕上がっていた方が良いと思うわ。せめて全員が南のレベルまで近づく努力はした方が良いと思う。そうじゃないと新たに加わる人を理解させるのに、また手間がかかるもの。いくら有無を言わさず治療するって言ったって、強引過ぎれば遺恨が残りそうだし」


 ユリナが言うとヨシタカがぺこりと頭を下げて言う。


「ごめんなさい」


「いや。凛子さんを責めてるんじゃないのよ。むしろ、どちらかと言えば理解は早い方だったと思う。目の前で仲間を失った事が大きかったと思うわ」


「それは否めないけど」


「でも次に助けるごとに、犠牲者が出るのを待つわけにはいかない。その為に今はここにいる、全員が何らかの力を体感できるまで頑張るべきだと思う。実際に見せた方が理解させやすいから。それは凛子さんも例外じゃないと思う」


「私に何か力があるのかしら?」


「やって見なければ分からないわ」


「それもそうね」


 皆の話がまとまり、俺は決めるべき事をタケルに向かって伝える。


「なら、タケル達のパーティーのリーダーを決めねばならない」


 するとミナミが言う。


「それなら決まってるわよ、ねえ」


「ああ、俺達のリーダーは美桜だよ。敵の位置がわかるし、的確に指示を飛ばしてたからな。あの動物を捕らえられたのも美桜の計画なんだ」


「そうだったのか」


 ユリナがニッコリ笑って言う。


「一番年下の美桜にリーダーを任せるなんてって思うけどね」


 それには俺が答えた。


「年齢は関係ない。生存確率を上げるために、一番有効だと思うやり方で良いんだ」


「わかったわ」


 全部の話が固まったのでヤマザキが言う。


「じゃあ、美桜パーティーを小規模の別荘地帯に降ろすって事で良いか?」


「「「「異議なし」」」」


 四人が声をそろえる。そしてヤマザキが俺に言った。


「新パーティーはどうする?」


「俺が選ぶ。まずはヤマザキ、そしてツバサとマナとユミだ。ユンとリコは施術を行ってからまだ日が浅く、恐らくは体がついて来ていない。あとアオイはまだ体が小さく、大きなパーティーを組んだ時じゃないと無理だ」


「了解だ。翼、愛菜、由美。よろしく頼む」


「はい山崎さん」

「わかりました」

「山崎さん! 頼りにしてるよ」


「最善を尽くそう」


 アオイが残念そうな顔をしていう。


「私も行きたかったなあ」


「パーティー再編の時に検討する。それまでは我慢だ」


「はーい」


 俺達はバスに乗り込み、今日の訓練地を選んでミオパーティーを降ろした。俺達のバスが出発するまで、皆が心配そうに四人を見ている。だが俺は皆に言った。


「心配するのは自分達の方だ。彼らは心配ない、まだ力が発現していないこっちのパーティーの方が危険なんだ」


「わかった」

「はい」

「うん」

「了解!」


 もう一つ見つけたバリケードのある別荘地に着き、俺はバスに残るユンとリコとアオイに告げた。


「何があってもドアを開けるな。俺が気配感知で感じ取っているから危険はない」


 そしてリコが言う。


「流石に不安だわ」


 だけどそれには俺じゃなくアオイが答えた。


「大丈夫。お兄ちゃんは遠方からでも分かる力があるから、万が一の時は絶対に来てくれる」


「信頼してるのね?」


「うん」


 ヤマザキ達がバスを降り、三人を残してバスのドアを閉めた。四人がバリケードを乗り越えて入って行き、俺はその後ろをついて行く。


 そして俺は四人に言う。


「役割はどうなってる?」


「俺が先行してゾンビを発見し、おびき出したらみんなで袋叩きだ」


「なるほど」


 四人が四人とも鉄パイプを持って構えていた。だが今、彼らが出来る戦術はそれしかやりようはない。最初の別荘にはゾンビの気配はないが、四人は石橋を叩くようにじっくりと確認していく。気配を感じ取れないので必要な事だが、恐らくミオパーティーより時間はかかるだろう。


 最初の別荘を全て探り終え、出て来てヤマザキが言う。


「ここにはいない」


 するとユミが言った。


「物資は持ってかないの?」


「由美。ここの別荘地を攻略するのに邪魔になる。回収は全部狩ってからだ」


「はーい」


 なるほど。ヤマザキはやはり正確な判断が出来ている。リーダーシップがとれているので、このパーティーはヤマザキパーティーで良いだろう。


 次の別荘に歩き出そうとすると、俺は雑木林の中にゾンビの気配を感じ取る。だが四人はまだ気が付いていないようだった。流石に怪我をされてはまずいので俺がヤマザキに言う。


「気を付けろ」


 その事で雑木林のゾンビに気が付く事が出来た。ヤマザキがパンパンと手を叩くと、気が付いたゾンビがこっちに来る。だがヤマザキを素通りして、一目散にマナの方向へと歩いて行った。


「きゃっ! なんで? こっち来た!」


 ゾンビに背中を向けられたヤマザキが、振りかぶって思いっきり頭に鉄パイプを振り下ろした。

 

 ボゴッ! と頭がへこむが一発で死なない。たたいた事でヤマザキを振り向くかと思えば、そのままマナに向かって行く。


「えっ! 私を狙ってる?」


 だが、ツバサとユミがボコボコにしてゾンビは倒れた。そして俺はマナの能力に気が付いてしまった。


「ちょっと集まってくれ!」


「「「「はい」」」」


 四人が集まり、俺はマナの特殊能力を告げた。


「恐らくマナはヘイトを集められる。むしろ武装は鉄パイプじゃなく盾とかの方が良いだろう」


「なにそれ?」


「ゾンビはマナに寄っていくって事だ。その分無防備になったゾンビを周りが叩きやすい」


「うわあ…なんか嫌な能力」


「いや。おそらくミナミかタケルと組めばかなり強いぞ」


「そういうもの?」


「パーティーの役割とはそういうものだ。あとヤマザキの判断はやはり的確、だがさっきのように不意をつかれると弱い。出来れば先行するのはマナだ。恐らくマナの方が先に気が付く」


 マナは嫌そうな顔をして言う。


「うへぇ…私が前かあ」


「騙されたと思ってやって見ろ。皆はマナのサポートを徹底的にやるんだ」


「了解だ」

「はい」

「愛菜! 大船にのったつもりで任せて。手を出そうとする奴はボッコボコにしてやるんだから」


「お、お願いね」


 そしてマナを前衛、ヤマザキが中衛でツバサとミナミが後衛の布陣になった。案の定というか、次の別荘に行った時に結果が出る。


「うわあ…窓にゾンビへばりついてるよ。こっちに向かって来ようとしてる」


「なるほど。そう言う事か…探す手間が省けるって事だな」


 ヤマザキが理解したようだ。次の訓練までにはマナ用のシールドを作らねばならないだろうが、今日は俺がカバーしよう。ヤマザキとツバサがガラスを割ると、家の中からマナに向かってゾンビがはい出してくるのだった。

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