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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第171話 完全和解

 治療を終えたヨシタカが、回収した服を来てユリナに連れられやって来た。皆は心配そうにしているが、ユリナが言うには既に熱は引いているとの事。ゾンビ因子の死骸で真っ白になっていたが、ミオとツバサに拭いてもらい頭にタオルを巻いている。


 ユミが不安そうに聞いた。


「吉高さん。大丈夫?」


「あ、あの。ごめんなさい、体はまったく問題ないわ」


「凄い熱だって聞いたから」


「たぶん…熱は引いた。と言うか」


「なに?」


 グーッ! とヨシタカの腹が鳴った。全てのゾンビ因子を取り除き、体内の不要物は外に出したので空腹になったのだ。


「嘘みたいにお腹が減っているわ」


「ああ…なるほど。それね」


 皆が体験済みなので、ヨシタカの体に起きた現象を知っている。それを聞いたヤマザキが言った。


「よし! 焼肉の再開だ!」


 俺が治癒している間、皆は食事は止めていたらしい。皆が心配し治療する俺達を待っていてくれたのだ。


 ジュウジュウと音をたてる肉に、ヨシタカが生唾を飲みこんだ。ヤマザキが焼けた牛肉をヨシタカの前に置くと、ヨシタカが周りをぐるりと見まわして言う。


「私が最初でいいの?」


「どうぞどうぞ!」


 ぱくりと食う。するとあっという間に咀嚼し飲み込んでしまった。


「はあ…おいしい。体に吸収されていくみたいだわ」


 するとユミがヨシタカに言った。


「でしょ? 分かるわあ」


「なんか、食べ物がこんなに美味しかったかしらって思うほど、気分もスッキリしたわ」


「それもわかる」


「意識に靄がかかっていたのがスッキリ晴れたというか、だるさが全く無くなった。さっきはあんなに疲れていたのに」


 ユリナがヨシタカに言う。


「それゾンビ因子の影響みたいなのよ。吉高さんの体のあちこちに入り込んで、免疫を壊し生命活動の邪魔をしようとしてたの」


「そんな…」


 俺がユリナに代わって言った。


「すまない。ゾンビ因子を受け付けない体にする代わりに、元々の情報を変えてしまった。了解を得ないでやってしまった事を謝る」


「いいえ。死ぬところだったわ、むしろ感謝をすべきなのね」


「恐らく、これから今までにない能力が発現するかもしれん。申し訳ない」


「皆のようになるかもしれないって事?」


「そうだ」


「それなら問題ないわ。こんな世界だもの、強くなる事は歓迎しなくちゃいけない」


 どうやらヨシタカは実際に自分の体に変化が起きたことで、俺達が言っていた事を信じてくれたらしい。あれだけ拒否反応を示していたのが嘘のように晴れる。


「とにかく食うんだ。そのまま自分の力になるはずだ」


「はい」


 皆が次々に牛肉を焼いて食っていく。ヨシタカも、さっきまでの事が嘘のように肉に食らいついていた。そして食っている間に俺が皆に言う。


「正直な所、ヨシタカはかなり危険だった」


「ごめんなさい」


「責めている訳じゃない、だがこれからの事を皆に相談したいんだ」


 するとヤマザキが肉を焼きながら聞いて来る。


「なんだ?」


「恐らくゾンビ因子は体調が悪くなると活発化したり、時間を置けば置くほどに増えていく性質があるようだ。俺達が今後活動していく中で、再び生存者に出くわす事があるだろう。だが了承をとっている時間は無く、すぐにでもゾンビ因子を除去したほうがいい。もちろん因子が無い人間や、微弱なため発現しにくい者もいるだろうが」


 ユリナが俺の言葉に大きく頷いた。


「確かにね。そのせいで吉高さんの仲間を救えなかったし、吉高さん自身も死にそうになった。その人の意思を尊重する事は重要だけど、救うためには意思確認しないでやる必要があるかも」


「ユリナの言うとおりだ。今の所は皆の体調に不調な部分は見受けられないし、強制でゾンビ因子を取り除く施術をした方が良いと思う。一人でも多くの人間を生き延びさせるためには、いちいち了承をもらっていては間に合わない」


 ヤマザキが答える。


「その通りだな。日本人的には勝手に自分の体を変えられたら、腹を立てる人もいるだろうがな。その人の命を守る事を考えたら、そんな事は言っていられない」


「吉高さんは問題提起をしてくれたわ。おかげで、次からどうすればいいのか皆も考えるいい機会になったと思う」


 皆が黙って話を聞いていた。すると肉を食っていたヨシタカが箸をおいてみんなに頭を下げる。


「みなさん! 本当に迷惑をかけました。そして疑ってごめんなさい、まさかこんな漫画のような事が本当にあるなんて思ってなかったの」


「無理もないわ。信じろって言う方が無理、だけど信じるまで待っていたら死んでしまう。ある程度その人の意思は無視して、ゾンビ因子の除去をした方が良いと思う」


「もう、異論はないわ」


 皆の話を聞いてタケルが真面目な顔で言った。


「漫画みたいなって、ついでに言っていいか?」


 ユミがタケルに言う。


「もったいぶらないで言いなよ」


「別に勿体ぶってねえけどよ。ヒカルはゾンビ化を阻止できる唯一の人間だよな。それこそ奇跡の人っつー表現がぴったりのよ。まるで終末の救世主じゃねえか? 人間が生き延びるために、誰かが…、それこそ神様かなんかが送って来た英雄だと思わねえか?」


 ミナミが頷いて言う。


「きっとそう。DVDで見た異世界物のアニメみたいに、この世界を救うために召喚された勇者みたいね」


 それはどうか分からん。俺は前の世界の命を狩り、世界を滅びから救うために命を捧げこの世界に飛ばされて来た。前の世界の魔王だと思っていた奴が、俺をこの世界に遣わしたとでもいうのだろうか? いや、むしろ同じ轍を踏むなという戒めなのかもしれない。なら俺はどうするべきなのだろう? 今はその答えが見えてこないが、いずれ俺がこの世界に来た理由を知る事があるのかもしれない。


 もしかしたら理由など無く、次元のひずみに落ちてしまっただけかもしれんが。


「俺は、皆と一緒に生き延びられればいい。今はそれしか考えていない」


 するとミオが笑って言った。


「私はそれでいいと思うよ。ヒカルは、前の世界で小さい頃からずっと戦っていたんだよね? この世界に来てからもずっとじゃない、私はヒカルは青春を謳歌するべきだと思うわ。世界を平和にし終わるまでそれを待っていたら、おじいちゃんになっちゃう。ヒカルは今を楽しむべきなんじゃないかなって思うけど? 皆はどう思う?」


 タケルが当たり前って顔でミオに言った。


「おりゃ、元々そのつもりでいんぜ。ヒカルといるとなんか面白いんだよ、なんつーか青春を取り戻したような感じなる。さっきのゾンビ討伐だって、学生の頃のリクレーションみてえだったしよ」


 するとユミが大笑いしていった。


「武はあんまり学校行ってなかったんでしょ? リクレーションなんて参加したの?」


「はは。そういやしてねえな、小学校以来かもしれねえ」


 それを聞いたユリナが言う。


「でもわかるわ。なんか楽しいのよね、ゾンビの世界でお先真っ暗だった私に光がさしたみたい」


 ミナミがうんうんと頷いている。


「私なんか剣の使い手になりつつある。まるで夢のようよ」


 皆が談笑しながら焼き肉を食っていた。皆の笑顔を見るだけで俺は幸せを感じる。


 ヨシタカも笑った。今までずっとしかめっ面だったヨシタカが笑っている、それだけで俺は自分のやっていることが肯定されたような気分になった。そしてヨシタカが言った。


「カルトなんていってごめんなさい。なんていうか、みんな青春真っ只中って感じで素敵だわ。深刻に考えていた私がちっぽけに思えて来る」


「ま、あんま深刻に考えてばっかりいるとよ、何のために生きてっかわかんなくなるだろ? ただ生き延びるだけなんて意味がねえしよ、皆でどうやって敵を攻略しようなんて真剣に考えんのも面白いんだぜ」


「そこまでは分からないけど、私は皆の仲間で居ていいのかな?」


 するとミオがヨシタカに手を伸ばして言った。


「吉高さんヨロシクね?」


凛子りこでいいわ」


「美桜よ。凛子、ヨロシク!」


 そしてヨシタカはミオの手を取って笑う。肉の焼けるいい匂いが充満し、皆の笑顔が嬉しかった。その風景に俺はレインとエルヴィン、エリスと一緒に遭難した冒険者を救った時を思い出していた。

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