第16話 ゾンビの棲む建物
しばらく夜の街を走り続けていたが、どうやら目当ての物が見つかったらしく広い敷地内へと入って行く。そしてその敷地内には大きな車が何台も置いてあるのだった。俺達の乗る車が横並びに停車し、ガラス窓を開けてドウジマとヤマザキが話を始めた。ドウジマがヤマザキに言う。
「街中には無かったが、流石に物流センターにならあるだろと思って来たらビンゴだったな」
「後は動くかどうかだが」
「恐らくは大丈夫だろうが、鍵を見つけるかエンジンを繋いでみるしか無いな」
「そうだな」
「誰が鍵を探しに行くか」
「失敗は辛いぞ、とにかく男が行くしかないだろ」
「そうだが、タケルは手を失ったし後は俺達が行くしかないだろ…」
するとドウジマの隣りに座るユリナが言う。
「万が一、二人が居なくなったらこのグループは誰が率いていくの?」
すると俺の隣に座るミオも言う。
「スーパーに行った時みたいに、じゃんけんで決めましょう」
するとドウジマとヤマザキが顔を見合わせて頷いた。そしてドウジマが言う。
「恨みっこなしだ」
「ああ。いずれにせよこれに失敗したら、帰る場所も何も無い。こうしている間にも空港の連中が全滅してしまうかもしれないしな」
「まあそうだな、あるいは…」
「それは見てみないと分からん」
「だな」
「じゃやろう!」
「「じゃーんけーんぽん!」」
二人が手を出し合って何かをやっている。するとヤマザキが言った。
「俺だな」
「都市でもヤマザキだったが、ここでもか…」
「いいんだ。無事にトレーラーの鍵を持って来ればいいだけだから」
「気を付けてくれ」
「ああ」
俺はミオにどうなったかを訊ねる。
「どうなった?」
「あの大きな車を動かすのに鍵がいるの、山崎さんがあの建物の中に入ってそれを探すのよ」
「あんな広い場所をか?」
「この際仕方ないわ」
「なら俺がついて行こう。お前達はゾンビごときでもやられてしまうようだからな」
「ゾンビごとき…って…」
「とにかくそれを探すのなら、俺が一緒に行くよ」
するとミオが俯いて少し静かになる。
「無関係のヒカルが行くなら私も行くわ」
「何故だ?」
「あんな広い場所、一人で探すのは厳しいと思うから」
すると今度はヤマザキが言った。
「だが中にゾンビがいるかもしれんぞ」
するとミオが答えた。
「万が一ゾンビが居たら、ヤマザキさんが帰って来れないかもしれないじゃない! そしたら結局誰かが行かなければならなくなるし、私はヒカルが行くならいけると思う!」
「…まあ…確かにヒカルが行けば…か…」
なんか二人で長々と言っていたが、どういう事になったのだろう?
「なら私も行く! 三人なら何とかなりそうだし」
隣の車からユリナも話しかけて来た。
「えっ」
「美桜ちゃんが行くなら私も行くわ」
「友理奈さん…」
「いいわよね堂嶋さん」
「仕方ない。じゃあ車をあの建物の脇につけよう、そして三十分だ。三十分で帰って来なかったら今度は俺が行く」
するとヤマザキが答えた。
「三十分だな。わかった!」
そしてヤマザキとドウジマが車を建物の脇につけ、ヤマザキとミオとユリナが降りたので俺も車を降りる。
「気配感知」
恐らく中に数体いる。このままこいつらだけで行ってたら死んでたかもしれない。
「じゃあ行くぞ!」
ヤマザキが言うので俺が待ったをかけた。
「待て! 先に俺が行く」
「どうしてだ?」
「建屋の中に数体のゾンビがいる」
「分かるのか?」
いや…むしろゾンビの存在くらい分かる奴が居ないのかって話だ。どうやら気配感知を使えるヤツが居ないようだ。気配感知が使えねば、いつの間にかゾンビに囲まれるなんてこともありそうだ。
「俺が潜入して、ゾンビを駆除してこよう」
「‥‥」
「えっ…」
「だって武器が…」
ヤマザキとユリナ、ミオが固まった。
「ブキ? 大量ゾンビでもないんだ、その辺に何かあるだろ」
するとヤマザキが言った。
「包丁のような物など無いかもしれんぞ」
「まあ無ければ、石ころでもいい」
「今なんて?」
石ころの言葉が違ったのか通じない。とりあえず俺は三人に言う。
「ところで…、あの建屋は壊したらなにか問題はあるか?」
俺の問いにミオが答えた。
「建物を壊したらって言った?」
「そうだ、建物を壊したら怒られるか?」
するとヤマザキが言う。
「この世界で建物を破壊しても、警察も何も来ない」
「ケイサツとは?」
するとミオが言う。
「ポリス」
「ポリス?」
とにかく良く分からないが、俺はこれ以上の話し合いは無駄と判断した。三人にここで待つように言い、俺は単独で大きな建屋へと向かう。ゾンビがいるのは数か所、こんな広い建屋だがそんなに数は居ないようだ。
扉は…普通に開いた。不用心だな、夜だというのに鍵もかかっていないのか? そりゃゾンビに侵入されるわな。
建屋に入って中を物色すると、数台の机が置いてありその上にごちゃごちゃと何かが置いてある。
「これはなんだ? お! ハサミがあるじゃないか」
後は…なんだかわからない器具のようなものが置いてある。それを手に取ると、ヒモのようなもので繋がっていた。俺がハサミとその器具を手に取ってゾンビの元へ向かおうとしたら、ビン! と何かが張り詰めた。よく見るとその器具には線が繋がっていて、その場所から動かせないようになっているようだ。少し力を入れて引っ張ると、その線が切れて取れた。
「よし」
そして気配探知で見つけた、ゾンビが居る部屋に向かう。暗闇など俺には全く問題ない。むしろ魔王ダンジョンのような暗黒の空間で十数年戦っていたので、このくらいの闇ならば何が何処にあるか分かる。
いた…
俺はすぐに手に持ったハサミに、貫通付与と高熱化を施して投げるのだった。
「突光閃」
ボッ! とゾンビが頭を飛ばすと、近くにいたゾンビがそれに反応した。俺はすかさずさっき取って来た器具を、もう一体のゾンビに投げつける。
ボゴォ! と頭を飛ばして倒れた。
「ここには二体か、ここは書斎のような場所のようだ。椅子と机が並んでいるな」
俺はすぐさま次のゾンビの場所へと走るのだった。数体のゾンビが通路にウロウロとうろついていたので、俺はすぐそばの部屋の扉を引っこ抜いた。まあまあの重さがあるので、そここそ頑丈だろう。
「鉄の扉か…、随分堅牢な建物なんだな」
俺が鉄の扉を引っこ抜いた音に惹かれ、通路に彷徨ってたゾンビがこっちに向かってきた。俺は引っこ抜いた扉を体の前面に立てて、ゾンビたちの方に向ける。
「身体強化、脚力上昇」
足を軽くたわめた次の瞬間、数体のゾンビもろとも廊下の奥の壁まで突っ走る。鉄の扉と壁に挟まれたゾンビ数体が、果物を潰したようにビシャっと飛び散った。
「よし! 服は汚れてないぞ」
今の音で恐らくこの建屋のゾンビは動き出すだろう。動き出してもらった方が、気配感知で探しやすくなる。俺は次のゾンビの居る場所まで走るのだった。
「これはなんだ?」
通路の脇の床に、赤くて重い鉄の瓶のような物が置いてあった。黒い取っ手のような物がついているようだが、何のための物か想像もつかない。
だがお借りしよう。
そして俺が次の部屋の扉を開けて覗くと、数体のゾンビがこちらへと向かってきているようだった。やはりさっき鉄の扉で押しつぶした音が聞こえたのだろう。俺はすぐさま手に持っていた、赤い鉄瓶を思いっきりゾンビに投げつけた。今回は強化魔法は使わずとも、そこそこの重さがある赤い鉄瓶のみの威力で攻撃する。
ぼごお! ぼごお! 二体のゾンビが上半身と下半身を分けてちぎれた。だがその後ろの二体には、その赤い瓶はあたらずこちらに向かって来た。俺は一旦通路に出て鉄の扉をしめた。そして扉の向こうにゾンビが来たのを見計って、鉄の扉を思いっきり蹴り込んだ。
ズドン! という音と共に、鉄の扉が部屋の反対側の壁にぶちあったった。その前にいたゾンビは跡形も無く飛び散っている。
よし!
俺は借りた服が汚れていないのを確かめて一安心した。貸してくれた店主に申し訳が立たないからな。
「次は」
俺は同じように次のゾンビがいる場所に向かった。するとそこには木か紙で出来たような箱がたくさん積み重なっていた。
「なんだ?」
俺がその箱に触れてみると、そこそこの重さがあるようで中に何かが入っているようだ。それを開けてみると、中には恐らく鉄で出来たような円柱状の物がたくさん入っている。
「これは使える」
俺はその箱を抱えてゾンビ達の元へと走った。数体見つけたので、その円柱状の鉄の塊をゾンビに投げつけてやる。頭が爆発したようにはじけてゾンビが倒れていくのだった。
だが…
「なんだ? これはただの鉄の塊じゃない?」
俺が投げつけた物はゾンビを貫通した後、壁に当たった瞬間弾けたのだった。俺はそこに行ってそれの匂いを嗅いだ。
「これは…、食い物か?」
破裂した鉄の塊からは、とても美味そうな匂いがしたのだった。だがそれに興味を示している暇はない。
…もたもたしてられんな。アイツらが外で待っている。
俺は次々とゾンビにその鉄の円柱を投げつけ、また廊下に置いてある赤い筒を見つけては投げつけるのだった。そしてそれから十五分が過ぎた頃、館内のゾンビは全て沈黙したようだった。
後は居なそうだな…戻るか…
館内のゾンビを全て消した俺は皆の元へと走るのだった。
 




