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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第168話 まるで冒険者認定試験

 地図を見ながら他の別荘地へと移動し、バリケードで塞がれた街道沿いの入り口にバスを止めた。潜入する予定の四人は少し緊張しているようだが、俺はまるで冒険者認定のギルド試験官のような気分だった。浅いダンジョンの低層で試験するような感覚に懐かしさすら覚える。


 各自の装備が、これまた面白い。


 ミナミは日本刀を腰にぶら下げている。タケルにも日本刀を貸すと言ったのだが、タケルは逃亡する道すがら拾って来た金属バットが良いという。なんでも若い頃に、これで戦った時があるため使い慣れていると言うのだった。ミオとユリナにも日本刀を断られるが、理由は自分や他の人を怪我させてしまいそうという理由だ。そして二人は面白い装備を手にする。ミオは地図をユリナは包帯と医薬品を何個かバッグに忍ばせたのだ。


「本当にそれでいいのか?」


 するとミオが言う。


「えっと、ヒカルはこの世界のゲームをした事無いから分からないと思うけど、冒険者パーティーはそれぞれの特性が大事でしょ? 戦士四人じゃ偏るじゃない? だから私はマッピングでユリナが回復を担当するのよ。ていうか…ヒカルにそれを言うなんて釈迦に説法かもしれないけど」


 まあ前世でもバランスの良いパーティーの生存率は高かった。攻撃重視ではタンクがダメになった段階で崩壊するし、マジックキャスターだけのパーティーも接近戦に弱い。


 だが…


「ミオもユリナも、力の発現が無い状態だから注意しろ。全員が能力を体得できるかは分からないんだ」


「わかってる」

「もちろんよ」


 だがユリナが真剣な顔で言う。


「とにかく自分の得意な事に特化する事が大事なんでしょ? 恐らく私が怪我や病気を見抜けるようになったのは看護師だったからで、ミオは語学の為にバックパッカーとして海外を旅した経験があるから地図と方向を掴むのがうまくなった。タケルは…暴走族だったころの影響で、金属バットで戦うようになったし、ミナミは時代劇オタクで武器に詳しくなった。それぞれの生い立ちが大きく関係しているように思うのよ」


「その通りだ。前世でも生い立ちの影響が大きかった。というか勇者パーティーは、ほぼ生まれながらにして定められていたのだがな」


 するとミナミが言う。


「私達は勇者にはなれないかもしれないけど、ヒカルの力を借りなくても生きれるようにならなくちゃ。だって脆弱だった私達をここまでしてくれたんだもの、ここからは自分らで切り開かないとね」


「南の言うとおりだぜ、ヒカル! 俺もそろそろ漢を見せとかねえとな、おんぶに抱っこじゃねえってところ。それに見てくれよ」


 タケルは自分の左手を皆に見せた。


「もうすぐ指が生えてくんぜ。パーフェクト武をお見せする時も近いぜぇ!」


 ユミがおちゃらけるタケルの頭をコツンとやった。


「こら! 調子乗んな! 慎重にね」


「わかってるよ」


「じゃあ行こう」


 俺達がバスを降りるとヤマザキがバスの扉を閉めた。バリケードを乗り越えタケルが金属バットをビュンビュンと素振りする。まるで軽い棒を振るようだが、俺以外は金属バットが見えていないかもしれない。それだけ振りが早かった。


 そしてミオが地図を見ながら言う。


「その角を右に曲がると別荘が一件あるわ」


「りょーかい!」


 それを聞いてミナミとタケルがそちらに曲がっていく。俺の気配感知では建物の中にゾンビの気配が二体、住居の中でウロウロしているようだ。それを四人でどうするのかが見ものだった。


 建物の前に行くと最初に口を開いたのはミオだった。


「何か…違和感…」


「えっ?」


 ミナミとタケルが振り向くが、ミオは確信めいたように住宅を見つめている。


「慎重にね」


「ああ」


 そして住居に近づくと、ミナミが言った。


「たぶん、中にゾンビがいるわ」


 するとタケルが首をかしげる。


「本当かよ? おりゃ感じねえぜ。ユリナはどうだ?」


「私も分からない」


 そしてミオが扉の取っ手に手をかける。


「鍵かかかっているわ」


「ならよ、ぶっ壊しちまおうぜ。ゾンビも勝手にでてくんだろ?」


「ならお願い」


「せーの!」


 バギッ! タケルが金属バットを振り下ろすと、ドアの取っ手ごと穴が開いてスッと手前にドアが開く。そしてタケルが入り口のドアをガンガン叩いた。


「こっちだこっちだ」


 すると中からふらふらとゾンビが歩いて出て来た。四人はあえて中に入らずに、ゾンビが外に出てくるのを待つ。完全に出て来たところで、ミナミが剣を抜いてスッパリと首を飛ばす。そうしているうちにもう一体が、奥からこっちに向かってきていた。もちろん俺は気が付いているが…


 ミオが言う。


「来るよ」


 待っているとノロノロとゾンビが玄関を出て来た。


「今度は俺がやる」


 タケルがビュッ! と金属バットを振ると頭が粉々に飛び散った。


 そこでミナミが言う。


「中に入る?」


 するとそれにミオが答えた。


「なんかね…違和感が消えた。もういないかも」


 そう言うとユリナがミナミとタケルに言った。


「じゃあ二人が先行して中を調査しましょう。おそらく武器の性質からいってタケルの方が前が良いかも」


「了解だ」


 四人で中に入って行ったが、俺は何もせずに玄関口で待った。しばらくすると四人が玄関に戻って来る。


「ここは終わりだ」


「そうか」


 するとミオが地図を見ながら言う。


「左に出て左回りの道があるわ、そちらに進みましょう」


「わかったわ」


 各自が周囲を警戒しつつ、ゆっくりと進みだす。ここまで俺と一緒に戦ってきた経験が生きているようだ。いつゾンビが飛び出すか分からない彼らにとっては、今この瞬間も緊張の連続だろう。じりじりとゆっくり進むのがもどかしいが、俺のように広範囲の気配感知が使えないので仕方がない。むしろこのぐらい慎重であってほしいし、油断しない彼らの姿はいずれ高ランクの冒険者になる者の姿に似ている。


「別荘が見えて来た」


 先頭を歩くミナミが言う。だがその別荘にはゾンビの気配がない。しかし四人は警戒しつつじりじりと近づいて行く。敷地に入り住宅を前にした時にミオが言う。


「違和感がしない」


「ん?」


 ミナミがミオを見て首をかしげる。


「どういうこと?」


「分からない。さっきはモヤっとしたんだけど、今度はしないってだけ」


 玄関に張り付いたミナミが聞き耳を立てるようにする。


「いないのかも」


 タケルが窓から中をのぞくが、よく見えないようで窓に張り付いた。


 そこで俺がみんなを呼ぶ。


「あー、みんな! 集まってくれ! 手は出さないが教えておこうと思う」


「「「「はい」」」」


 まるで生徒のように俺の元に駆け寄って来た。


「ミオはモヤっとすると言ったな?」


「まあ、なんとなくだけど」


「恐らくだが、気配感知の素質がある」


「気配感知?」


「俺がゾンビや人間の位置と人数を掌握する能力の事だ。もちろん今はまだ使い物にならないようだが、それに意識を向けてやっていった方が良い」


「わかりました!」


 なんで敬語で答えるのか分からんが、いい返事だ。


「そしてタケル!」


「はい」


「ガラスにへばりつくな。中から突き破られたら先に怪我をしてしまう」


「すんません!」


「まずは気になったので言っておく。続けて良いぞ」


「「「「はい!」」」」


 何故か生徒のようになってしまうが、俺の駆け出しの頃を思い出して吹き出してしまう。


「ぷっ!」


 するとタケルが言う。


「教官! なんでありましょうか?」


「いつから俺が教官になったんだよ?」


 すると四人が顔を合わせてからミオが俺に言った。


「だって教官じゃない。ヒカルに教えてもらってるんだから」


 ユリナも笑って言った。


「あの。教官にはやっぱり敬語じゃないと」


「そんな決まりはない」


 するとミナミが興奮冷めやらぬように言う。


「いいからいいから。次行こうよ!」


「わかった」


 俺達が次の別荘に向かって進んでいくと、俺は右の茂みにゾンビがいるのを感知する。それに近づいても、皆は気づかないのか気にしている様子はない。俺が日本刀に手をかけた時だった。ミオが言った。


「止まって! なんか変」


 するとミナミとタケルが周りを警戒する。


 ガサササ! うがぁぁ! と茂みからゾンビが飛び出して来た。タケルが一番近く、思いっきり頭に金属バットを振る。頭を粉々にしてゾンビが倒れた。


 間違いない。ミオは気配感知を使えるかもしれない。


 ゾンビが出て来た事で、更に皆の足取りが遅くなるがいい傾向だ。ここで調子に乗って先行しすぎる新人冒険者は多い。自分達の力量にあわず、階層下に潜ってしまう場合があるのだ。


 次の別荘についてもやはりミオは違和感を皆に伝えた。同じように玄関をタケルが壊すが、ゾンビは出て来なかった。それもそのはずで、俺の気配感知では三体とも二階にいる。


「いねえのかな?」


「いや‥そんなはずはないと思うんだけど」


 するとミナミが言う。


「ゆっくりと探索してみましょう」


「了解」


 そして四人が住宅の中に入った。するとミオが言う。


「上だわ」


「了解」


 タケルが先行して階段を上がっていくと、突然ゾンビが上から落ちて来てミオにのしかかってしまった。俺が走り寄って引きはがそうとした時、先に後ろにいたユリナがゾンビの襟首をつかんでずるっと引っ張る。ミオから離れたゾンビはゆっくりと起きて、今度はユリナに飛びかかりそうになる。その瞬間に、ミナミの日本刀が首を刎ねた。


 タケルの方を見ると階段の上からゾンビが降りて来ており、位置的に頭を振りぬける場所に無かった。タケルは位置取りの不利を察知して、中間の踊り場から一気に一階に飛びおりる。ゾンビが完全に降りて来たところで、頭を思い切り振りぬいて倒した。


「あぶなかったな!」


 タケルが言って、ミオが青い顔で頷いた。


「びっくりしたぁ…、かじられなくてよかった。ユリナありがとう」


「私も必死だったわ、ミナミが助けてくれたから」


「先行して気が付かなかった私の不注意」


 その時もぎしぎしと二階で足音が鳴る。


「まだいるみたい」


「俺が先に行くぜ」


 そしてタケルが先に階段を上り、三人が後ろをついて行った。俺も最後尾から上がっていく。


「奥よ」


 ミオが言うとタケルが一気に奥の部屋へと進んだ。そしてミナミがドアのノブを掴んで言う。


「開けるわよ」


「やってくれ」


 カチャっと開けると、中にゾンビがおりこちらにくるりと振り向いた。タケルは素早く部屋の中に入って、思いっきり頭を金属バットで振りぬいた。それが終わると建物の中がシンとなる。


 ミオが言った。


「違和感が無くなった」


「もういねえかな?」


「たぶん」


 するとユリナが後ろからミオに言う。


「ちょっといいかしら?」


「えっ?」


 ユリナがミオの上の服をまくり上げると、背中を思いっきりすりむいていた。


「化膿するといけないから。ごめんね、ちょっとしみるわよ」


 小脇に抱えたバックの中から薬を取り出してシュッとスプレーする。


「痛った!」


「我慢して」


 そしてユリナはミオの擦りむいた場所にガーゼを当てて、テープで固定した。


「これでいいわ」


 まだぎこちなさはあるが、連携が取れつつある。このまま行けばパーティーとして完全に機能しそうだった。俺達はその別荘を後にして、次の別荘へと向かっていくのだった。

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