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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第167話 日本人冒険者のブリーフィング

 俺とミナミが一日中森の中を駆けずり回っても、一度も動物に触れさせる事が出来なかった。そして次の日の早朝、大きな別荘の一室で皆と情報共有する場を設ける。


 実際にこの世界でレベル上げがなったという事は、皆にもその可能性があるという事だ。とにかく今はミナミでそれを再度確認する必要があったが、現状では草食動物一匹に触れる事も出来なかった。可能性があるとすれば、タケルの方が上だと伝える。


 それらを踏まえ、出発前にどうすれば効率が良いかのブリーフィングを始めたのだった。


 まずヤマザキが言う。


「ヒカル。とにかく悠長にはやってられない。まだ敵がこちらに来ている形跡はないようだが、じきに嗅ぎつけられる可能性は高いと思うぞ」


「その通りだな。昨日のペースでやっていては、敵に対向出来る力が得られる前にやられるだろう」


 するとツバサが言う。


「みんなにも、レベルアップの可能性があるんだよね?」


「そうだ」


「それじゃあ、皆でやった方がいいと思うけど」


「確かにな」


 ツバサの言う通りかも知れない。トラやライオンがいる為に安全性を考え、ミナミ一人を連れて行ったが、そもそもそれが間違いなのかも知れなかった。


 ミオが聞いて来た。


「ヒカル。前の世界ではどんなふうにしていたの?」


「力をつければソロでも魔獣は狩れるが、それまではパーティーを組むんだ。強くなってからでもパーティーは組むが、そうする事で更に難易度の高いダンジョンに潜れる。だがパーティー人数が増えれば、一人が受けられる分け前も経験値も減る」


「じゃあ今の私達だったら、翼の言うとおりに何人かでやる方がいいよね」


「二人の言う通りかもしれん」


 皆も頷いている。次はパーティーを組んでやった方が良いだろう。するとタケルが聞いて来た。


「パーティーってのはどんな感じなんだ?」


「もちろん千差万別、いろいろなパーティーがある。俺の最後のパーティーは勇者とパラディン、マジックキャスター、聖女と言う最強の布陣だった。だが、攻撃特化の剣士や槍術士とマジックキャスターだけのパーティーがあったり、何かを採取する為だけに斥候と戦士のみのパーティーなんてのもあった」


「じゃあ特性を考えて組むって感じか?」


「そうだ」


 皆がそれぞれ話し始めた。するとその合間を縫うように、ヨシタカが俺とヤマザキに言ってくる。


「あの…わざわざ、そんなことしなきゃダメなの?」


「どういうことだ?」


「ここには人もこなそうだしゾンビも少ないわ、ずっとここに籠っていれば生き延びられるんじゃない? 別に自分らの能力を高めなくたって、生きられればいいと思うんだけど」


 俺がそれに答える前に、ヤマザキが首を振った。


「吉高さん。そりゃ違う、現状維持をしようとすればいずれ崩壊する。我々は成田空港に立てこもっていたんだが、結局は敵に目をつけられて仲間が大勢殺された。東京に逃げたら逃げたで、今度はヤクザが襲って来た。更には軍隊までが出てきてこのありさまだよ。生き延びられたのが不思議なくらいだ」


「じゃあ、いずれはここもダメになると言いたいの?」


「おそらくな。ヒカルと知り合う前なら、俺も吉高さんと同じ事を言っていただろう。それは俺だけじゃなく皆もだな。今ここで俺が何も考えずに、吉高さんの意見が良いなどと言ったら二か月後は全滅しているよ。そんな馬鹿な判断はもうしたくないんだ」


「でも今度もそうなるとは限らないわよ?」


「吉高さん。敵はゾンビと軍隊だけじゃないよ」


「どういう事?」


「生き残った日本人が生存領域をかけて争い始めるだろうね。より安全な場所や食糧を求め、自分達の都合で人が人を殺す事になるかもしれん」


 俺が黙って聞いていると、そこにユンがやってきて言う。


「ごめんね、吉高っちの話を聞いちゃったんだけどさ、あーしはそれを体験しちゃったんだよね。吉高っちはどうだったか分からないんだけど、あーしは同じ仲間だった一人に裏切られて仲間が全員殺されたんだ。その上に生き残った男達に、死ぬ一歩手前までやられまくっちゃってさ。本当に地獄だったんよ。食べ物も貰えないで、ひたすら男達に奉仕したのを思い出しただけで死にたくなるし」



「酷い…」


「だけど、今は生きようと思ってる。仲間が支えてくれるし、生きるすべを教えてくれる。多分前みたいに何も考えないで守って逃げてるだけだと、良いようにやられてしまうから」


「…確かに」


 そしてまたヤマザキが言った。


「すでに日本人同士の殺し合いは、あちこちで始まっていると覚えておいた方が良い」


「日本人が…そんな事をしているのね」


「するさ。生き残るためにね」


 いつの間にかヨシタカの隣りに座っていたアオイが言った。


「わたしのお父さんお母さんと一緒にいた町内の人も間違った事をしたよ」


「それはどういう?」


「通行人に刃物を突き付けて、食糧を分けてほしいって。通行止めにして車を止めてみんなで囲むの」


「そんな事を?」


「でもねお姉ちゃん。みんな死んじゃったんだ。そんな事をした罰だと私は思ってる。通行止めにして捕まえた人達が銃を持ってたの。皆殺しにされたのは、自業自得なのかもしれない」


 するとそれを聞いたヤマザキがアオイに言った。


「葵ちゃんは何歳だったかな?」


「もう九歳になったよ」


「吉高さん。九歳の女の子でもいろんなことを学んだんだ。自分で考えて前に進まねば、いずれ死んでしまうとね。短絡的な考えで生きていたら、いつかかならず足を掬われると知っているんだ」


「……」


 もうヨシタカは何も言わなかった。


「我々日本人は生きるすべを見失ったんだよ」


「自分で考えない…短絡的な自分…か」


「そうだ。考えに考えて、どうするかを俺達に教えてくれたのがヒカルだ。アイツは前の世界でそれをずっと繰り返して生きて来たらしい、最善を尽くすなんて言葉じゃ甘い、究極の考えと選択をもってな。それのおかげで、俺達は生かされたんだ」


 ヨシタカはだんだんと自分の甘さに気が付いてきたようだ。鬼怒川のあの施設に、ずっと閉じこもって生き延びられると思っていたのだろうか。それすら平穏とは言えないのに、あそこに平穏を感じて自由を失って生きていたのだろう。みんなから頼りにされて、それが正論だと貫いた結果だ。


 するとみんなの話が終わったようで俺が呼ばれた。


「ヒカル! やっぱパーティー制にしてみようぜ」


「わかった。どうする?」


「ヒカルの話から考えるとよ、小さく四人くらいから始めるのが良いだろうって」


「いいと思う」


 そして隣からミナミが言った。


「あと、動物を狩るのは効率が悪いと判断したわ。私達が四人がパーティーを組んで、この那須高原に巣くうゾンビ達を討伐していくっていうのでどうかしら? 私達四人だけで安定して狩れるようになったら、違う人を混ぜていくという方式で良いかなって。正直な所、野生動物よりゾンビの方が狩りやすくて楽だし」

 

 それを聞いたヨシタカが言う。


「ゾンビを狩るのが…楽?」


「ええ。トロくさいしあっちから寄って来るし、狩りの対象としては最高だって決まったの」


「そんなことを考えたんだ」


「まあ自分達で考えた事じゃなきゃ、実行も難しいしね。今まではずっとヒカルにおんぶに抱っこだったから」


「そう、なのね…」


「そうよ」


「自分で考える…か」


「それにね」


「それに?」


「私の好きなアニメはね、主人公一強じゃないの。みんなの力を合わせて最強の悪を倒すの。それをヒカルは教えてくれようとしていると私は思うわ。むしろヒカルが私達を守るために、そうなるように仕向けたのかもしれないけど。私達を守るという縛りが無ければ、ヒカルは全てを葬り去るだけの力があるのよ。それでもあえてそうしなかった」


「だったら皆で引きこもって、彼が悪を倒しに行ってる間耐えるのでよくない?」


「敵の情報がほとんどないのに? 規模も分からずどんな兵器を持っているか分からないのよ? もしそうしようなんて馬鹿な事を私達が言っていたら、今ごろ蜘蛛ゾンビに喰われたか核弾頭で蒸発していたわ。恐らく彼が遠征している間に私達が全滅する。ヒカルはそれを選ばない」


 ミナミは俺の心を良く分かってくれているようだ。ここまで話し合った事は無いように思うが、俺の意図をよく理解してくれている。


「そうか…宗教じゃないんだ。本当に生死をかけて来た結果って訳ね」


「そう言う事。ヒカルは裏切らない、だったら私達も裏切らない。それだけの話」


「何か…悔しいわ。全部図星だし、生きる為にすべき事なんて考えてなかったに等しいかも」


「私だって、みんなだってそう。それは環境が違うのだから仕方ない、でも知ったんだから自分はそれでどうするか? あなたはもう、何も知らなかった日本人では無くなったのだから」


「ちょっとだけ…ちょっとだけ考えさせて」


「いいわ」


 話し合いは終わった。そしてミナミとタケルが選抜のパーティーを俺に知らせて来る。


「俺がヘッド、特攻隊長はミナミ、情報係がミオで、参謀はユリナだ」


「わかった。ならば俺は手を出さず、いざという時の保険の為に近くにいよう」


「そうしてくれ」


 日本人の冒険者パーティーが組みあがった。俺が付け加えて言う。


「パーティーが協力しあえば全体に経験値が入る」


「そうなのか?」


「だから、後衛のミオとユリナも期待できる」


「よっしゃ! じゃあ皆の見本になれるように頑張ろうぜ!」


「「「おー!」」」


 彼らの結果如何で全体に希望が出る。俺は四人が決めたことに口を出すつもりはなかった。そして俺達は別荘の集落入り口に止めたバスに乗り、ゾンビが巣くう集落へと出発するのだった。

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