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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第165話 雪解け

 ミナミがゾンビを全て一人で片付け、皆がバスを降りてその集落に集まってきた。そしてヤマザキが周囲を見渡して言った。


「随分立派な別荘があるもんだ」


「お金持ちの場所だったのね…」


 するとタケルが言う。


「で、あそこに転がってるのが金持ちの成れの果てか…」


「まあ、そう言う事だな」


 ミナミが倒したゾンビを一か所に固めており、それを見たヨシタカがミナミに言った。


「凄いわ…あなたは自衛隊とかだったの?」


「ううん。歴史を学ぶ女子大生だったわ」


「女子大生? 何か武術とかやってたの?」


「運動はまるでダメだった。でも演劇で殺陣を習った事があったの」


「それって、演技の事でしょう? こんな事が出来るなんて変よ」


「と言われても、出来るようになっちゃったの。ヒカルのおかげで」


「また…例のゾンビ因子を取り除く術?」


「そう」


 すると今度はタケルがヨシタカに言う。


「見てくれよ」


「ん?」


「昔、漫画で見たんだ。こんなのあり得ねえと思ってたけどよ。山崎さん! 小石を両手いっぱいに持って俺に放り投げてくれよ」


「わかった」


 タケルがファイティングポーズをとる。そしてヤマザキが言った。


「行くぞ」


 ヤマザキがバッと頭の上に小石を放つ。するとタケルが右手一本で小石をつかみ取り始めた。俺には見えるが、恐らく皆の目からはタケルの腕は見えないだろう。結局一粒の小石も落ちる事は無かった。タケルが手の上にこんもりと盛り上がった小石を見せる。


 ヨシタカが呆然として言った。


「うそ…」


「うそじゃねえよ。止まって見えるんだ」


「……」


「漫画じゃ、木から落ちる木葉だったけどな」


「ありえない。木葉だって神業だとおもうけど」


「俺は、これをヒカルにもらった力だと思ってる」


 それに対しユリナが言う。


「本当なのよ。皆それぞれが身体能力を上げて、不思議な力を発揮し始めているの。とにかく信じるも信じないも自由だけど」


「……」


 ヨシタカは考え込んでいた。それをよそにマナが言う。


「とにかく! せっかくヒカルが獲ったんだからさ! 早く食べたい!」


「ああ、そうだったな!」


 それから俺はバスから牛を持って来て、短刀で捌き始める。急いでバラバラにしていくと、それを見ていたヨシタカが具合悪そうな顔をした。


「大丈夫か?」


「解体なんて見たことなかったから」


 だがそれに対してアオイがニッコリ笑って言う。


「美味しいんだよ! 私も最初は気持ち悪いなって思ってたけど」


「…子供に言われちゃうと、なんだか自分が情けなくなってくるわね」


「まあ、いいさ。とりあえずみんなで調味料探して来ようぜ」


「「「「「「はーい」」」」」」


 既にゾンビが居ないのは確認済みなので、それぞれがばらけて別荘に探しに行った。残ったヨシタカに俺が伝える。


「信じたくないだろうが、ゾンビ因子には体を弱める作用がある。じきに死に至り仲間を襲うだろう、そうなる前に隔離したり放りだしたりしたのは正解だ。だがそうならない方法は俺が知ってる」


「…裸になるんだったかしら?」


「そうだ」


 ヨシタカはまだ半信半疑のようだ。だが言わなければならない。


「俺は仲間を守るために、非情になる事も出来る。ゾンビに変わる前に覚悟だけはしておけ」


 俺がそう言うとユリナが言った。


「ヒカル。それはきつい言い方だわ」


「だが。仕方のない事だ。俺には皆を守るという使命がある」


「それはそうだけど…」


「まあ今すぐではない」


 するとユリナがヨシタカの肩に手を回して言った。


「気にしないで。すぐにそうなるわけじゃないわ、私達だって最初はゾンビ因子を持っていたのだから」


「そうなんだ…」


「まあ信じるつもりになったら教えて」


 そこに皆が戻って来る。


「調味料あったよ!」

「塩もあった!」

「ガスコンロがまだ生きてたぞ!」

「砂糖も見つけたよ!」


 解体した牛を前に皆が楽しそうだった。微弱ながらも同じ能力を発揮し始めた彼らを見て、俺は駆け出しのころのエリスやレインやエルヴィンを思い出していた。回収したビッグボアを解体して笑っているあいつらの面影を見る。


「楽しいな」


 俺がボソリと言うと、ツバサとミオが俺の腕に腕を絡めてきた。


「そうでしょ? 楽しいでしょ?」

「ヒカルー、ありがとね!」


 するとそれを見ていたユミが俺に言う。


「ヒカル―、美女二人に囲まれて幸せねー」


「そうだな」


 するとツバサが笑って言う。


「ヒカルー、そこは否定しても良いところよ」


「だが本当の事だ」


 そう言うと、ミオとツバサの頬が赤く染まる。するとユミが笑った。


「はいはい! みなさーん! ここに女たらしがいまーす!」


「なっ、やめてくれユミ。俺はそんなんじゃない」


 するとそこにミナミが来て俺の背中を押した。


「一緒に食べるんだから、早く早く!」


「モテ過ぎでしょ?」


「い、いや。俺は…」


 するとユミがまた笑いながら言う。


「はいはーい! ここに青春しているグループがいまーす!」


「そ、そんなんじゃ…」


 そう言いながらも三人に押されて、俺は別荘の中に入って行くのだった。


「どんどん焼いてくぞ!」


 そう言ってコンロの上に、鉄の網を敷いて待ちかまえているヤマザキが居た。既に肉を並べており、皆が別荘にあった皿を広げていく。ジュウジュウと音をたてて焼けていく肉に、食欲をそそられて来た。


「匂いが違うな」


「そうでしょ! やっぱビーフは美味しいのよ!」


 そして焼けた肉に塩コショウをふって、ツバサが俺に渡してくれた。


「美味いな! なんだこれは! こんな肉があるのか!」


「でしょ?」


 それから皆が肉を食い始める。みんなは歓声を上げながらワイワイと肉を喰らっていた。本当に楽しそうな表情を見て俺は更に嬉しくなる。俺は皿に肉を盛ってヨシタカの所にきた。


「食え」


「あ、ありがとう」


 それを食べたヨシタカが、突然俯いて泣き出してしまった。


「お、おい! どうした?」

 

 だがヨシタカは答えずに肩を震わせているだけだ。


 まずい…俺は変な事をしたのだろうか?


 俺が困っているとそこにミオが来た。


「どうしたの?」


「な、泣いてしまった」


「吉高さん?」


 するとヨシタカは顔をぐちゃぐちゃにしながら言う。


「美味しい…。新鮮なお肉なんて…本当に久しぶりで…、私…生き残ったんだなって、ほんと信じらんない」


 それを見た皆が優しい目でヨシタカを見つめるのだった。俺はまた一人守るべき仲間を作ってしまったのだ。この幸せな時間を絶対に壊されたくはなかった。あの敵がどれほどの物量をもって追跡してくるか分からないが、ミナミとタケルのレベルアップを見て確信する。


 いつか反撃ののろしを上げ、アイツらを壊滅させる時が来ると。

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