第157話 包囲網からの脱出
救出した人らと別れて川沿いを更に下って行くと、だんだんと足場が悪くなってきた。雪が薄っすらと積もってしまい滑りやすくなっている。下手をすれば滑落して、川に落ちてしまうかもしれなかった。危険と判断し皆を止めた時、南の方から爆発音が聞こえて来る。それと同時にヘリコプターが数機飛んで来て、俺達の頭上を飛び過ぎていった。
「やはり増援が来た」
俺の言葉にミナミが言う。
「さっきの爆発音…」
「ああ。まずいな」
俺達が爆発音に気を取られていると、ユリナが慌てて俺の元に来て言った。
「ヒカル。一人倒れたわ!」
「わかった」
俺が倒れた人の元に行くと、呼吸は浅くかなりマズい状態になっている。とにかく俺は自分に出来る最大の回復魔法をかけて様子を見る事にした。
だが、さらに悪い事は続き俺の耳に車の音が聞こえて来る。
「しっ!」
皆が聞き耳を立てていると、車が何台も列をなして上がって来るのが分かった。するとヨシタカが聞いて来た。
「えっ…、車って?」
それにはヤマザキが答える。
「恐らくは軍用車だ」
「軍用車? みんな車で降りていったのに…」
「爆発音が聞こえたが…彼らじゃない事を祈る」
「そんな…」
「それより今は俺達が危ない」
「……」
絶句するヨシタカに、ユミが言った。
「あんなところで言い争いなんかするから…」
するとマナがユミに言う。
「仕方ないわユミ。人はそう簡単に決断できないから」
「まあ、そうだけど。危機感なさすぎ」
恐らくユミは先ほどの、ヨシタカとミオの言い争いに不満があるらしい。ヨシタカに対して明らかに敵意を持っているように感じる。あの時はあれで仕方のない事だったが、俺達と救出組では温度差があるのだ。判断が早い俺達と、救出組のヨシタカでは話が合わない。
だがタケルがそれを断ち切るように言った。
「今はそんな事言ってらんねえ。あの車列が過ぎたらすぐに動かねえと」
それを聞いたミオが地図を広げていった。
「今さっき江戸村を過ぎたから、間もなく道が分岐するわ。川に沿って降りるなら東に」
「わかったミオ。それならば、もう少しこのまま進む」
それを聞いて、タケルがみんなに言った。
「みんな! まだしばらく川沿いを歩くぞ! 足元に気を付けろ! くれぐれも川に落ちるなよ」
「「「「「「はい」」」」」」
ミオがアオイに声をかけた。
「葵ちゃん。大丈夫? ついて来るので精一杯じゃない?」
「ううん。なんとか大丈夫だよ」
「無理はしないで」
「うん」
俺達からするといつもの光景ではあるが、ヨシタカはそれをみて顔をそむける。
「ふん」
ヨシタカにユミが何かを言おうとするが、タケルが肩を押さえて首を振った。
俺達は怪我人を誘導しながらもゆっくりと進む。そして道の分岐に差し掛かった時、ツバサが南方を指さして言う。
「またヘリコプターが来た」
俺達は林に身を潜め、神経を集中してヘリコプターをやり過ごす。それから少しして、温泉街の方から大きな爆発音が聞こえて来た。
「なんだ!」「うお!」「爆発だわ!」
ヤマザキが慌てて言った。
「核か?」
するとミナミが言う。
「それだと味方を巻き込んじゃうし、ここまで衝撃波が届くと思う。違うんじゃないかな?」
「とにかくヤベエってこった。逃げるしかねえ」
足元が悪いがとにかく急がねばならない。だが焦りがでてしまったのか、ヨシタカが足を滑らせて川に転落していく。
「きゃあ!」
しかし、その手を掴んだのはミオだった。
「えっ?」
「ぼーっとしてないで! 早く上がって! 私も落ちちゃう!」
すぐに俺が縮地でミオに近づいて、ヨシタカごと引っ張り上げた。俺はヨシタカに言う。
「足元に気を付けろ」
「わ、わかった」
俺達が、すぐに進もうとするとヨシタカが言った。
「あなた達は何者なの? なんであんな爆発をみて平気でいられるの?」
それにはユミが答える。
「たぶん、あんたたちとは修羅場をくぐった回数が違うのよ。ここに居るのは市役所職員や看護師、普通のサラリーマンに小学生。なにも特殊な訓練をうけた人達じゃない」
「……」
「わかったらさっさと歩く! 死にたくなければ歩け!」
「わかった」
俺達が川沿いを左に行くと、ようやく細道が出て来た。
「ここまで来れば川沿いを歩かなくてもいいだろう。道路沿いの林をぬけていけばいい」
「わかったわ」
そう言って俺達が土手を上ると、広い場所に板のような物が並んでいる場所に出た。俺がヤマザキに聞いた。
「これはなんだ?」
「恐らく太陽光発電所だ。これはソーラーパネルと言って、これで電気を作るんだ」
「太陽から電気を作るのか? それは凄いな」
「ああ、これならこんな世界でも電気のある暮らしができるだろうな」
「そうか。それは良い事を聞いた」
それを横目にしながら更に進むと、ポロポロと民家が見えて来た。それを見て俺が言う。
「もう少し進んだら民家で休もう」
「ふー、切り抜けたかな?」
「まだ油断できない」
「だよなあ…」
俺達が住宅に向かっていくと、畑や住宅の間にゾンビがいた。この世界ならもう当たり前の光景だった。だがヨシタカと怪我人がそれを見て騒ぐ。
「ぞ、ゾンビだわ! 逃げなくちゃ!」
「う、おれ、走れねえ‥」
するとそれにヤマザキが落ち着いた声で言う。
「問題ない」
「何言ってんの? 民家のある所にゾンビは多いのよ!」
「むしろあれは少ない方だ」
そのやり取りを尻目に、俺は日本刀を構える。
「飛空円斬!」
視界にとらえたゾンビが全て真っ二つになって崩れ落ちた。
「えっ! なに! いまどうなったの? なんでゾンビが!」
「あれが俺達の守護神ヒカルの力だ」
「…何者?」
ヨシタカと怪我人一人が唖然と俺を見つめるのだった。だがそれにかまっている暇はないので、俺は民家へと皆を連れていく。一軒目の民家内のゾンビをかたづけて皆に言った。
「この集落で防寒服を探そう」
「そうだな。あとブーツとか長靴もいるかもしれねえ」
「そうだね。あとは食料があれば回収しましょう」
テキパキと動き出す皆に対し、ヨシタカは呆然としてしまった。するとユミがヨシタカに言う。
「ほら! ボーっとしてないで、動ける人は動く!」
「わ、わかったわ」
ユミとタケルについてヨシタカが民家に入って行った。そして俺はすぐに他のメンバーと共に、隣りの家のゾンビを排除するのだった。




