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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第三章 逃亡編
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第147話 目覚め

 俺達がたどり着いた場所は、今までに見たことがない建物が建っていた。高い建築物は一つも無く、不思議な雰囲気の場所だった。これから内部に侵入するにあたって、俺は皆に注意をしておく。


「一応、内部にもゾンビはいるぞ」


「わかった」


 そしてミナミが嬉しそうに言う。


「江戸村なんて、何年ぶりだろう?」


「エドムラ?」


「日光江戸村っていうの。昔の日本の風景を作った場所なのよ」


「昔の日本。そうなのか?」


「うん」


 俺がいた世界とも違う古臭い建物が建っており、屋根の形状が特に印象的だった。その会話を聞いていたマナが言った。


「私は初めて来たわ」


 それに皆が頷く。


「ここに来る初めてが、ゾンビの世界になってからなんてね…」


 俺達が歩を進めると、変わった服装のゾンビがフラフラと歩いていた。


「従業員よね…」


「複雑な気分だわ」


 俺が聞く。


「あれは昔の日本人を模しているのか?」


「そう。みんな残念な姿になってるけど」


 ミナミがため息をついた。


「ふう…、サムライもニンジャも町人もみんなゾンビ」


 タケルがアオイに向かって言った。


「葵ちゃんも残念だな。本当だったら遊びに最高だろうによ」


「仕方ないよ…武兄ちゃん」


「で、どうする? ヒカル?」


「駆除するしかあるまい」


 するとミナミが俺に言って来る。


「あの、ヒカル。日本刀を使ってもいい?」


「もちろんだ」


「最高の業物は使わないから、とにかく借りるね」


「ああ」


 するとミナミが日本刀を手に取って鞘をぬいた。


 チャリッ。ミナミはゾンビに向かって日本刀を構える。そしてミナミはおもむろに呟いた。


「参る」


 スッと前進して、黒装束のゾンビを見事に袈裟斬りにした。胴体を滑り落ちさせながら、ゾンビがくずれる。するとその音に他のゾンビが近づいて来たので、俺は自分の日本刀に手をのせた。だがミナミが俺に言う。


「手出し御無用」


 何故かミナミの言葉遣いが変わっている。だがその構えはとても様になっており、俺から見ても隙は見えない。スパスパとゾンビを斬り落とし、ミナミを先頭にしながら俺達は中に入って行く。


 すると俺の背中でユンが言った。


「えっ、あれ…南ちゃんなの? あんなことが出来るの?」


「いや…俺も今知った」


「かっこいいじゃん!」


 ミナミの振るう剣を見て、ヤマザキが言った。


「あ…あれは…」


「どうした?」


「ヒカル。あれは座頭市だよ!」


「座頭市?」


「そうだ。日本の侍劇のヒーローだ。南ちゃんのあの動きは、座頭市だよ」


 おもしろい。ミナミの独特の剣技に俺は魅入っていた。しかもミナミには死角がないのか、戸の向こうに居たゾンビもスッパリと切っている。見れば見るほど、面白い動きに俺も魅入ってしまう。ミナミは斬って斬って斬りまくった。ゾンビはなすすべもなく崩れていく。


「大したものだ」


 ツバサも目を見張っている。


「南ちゃんに、あんな特技があったなんて聞いてない」


「そうなのか?」


「うん」


 皆はまるで劇でも見るように、ミナミが行く先を追いかけて見ている。まるで何かが憑依したような動きに、そこにいるのはミナミじゃないようだ。


 俺の気配探知で確認する最後のゾンビを斬り捨てたミナミに俺が言う。


「それが最後だ」


 するとミナミはヒュンっと日本刀を振り、こびりついた血を切った。日本刀をスムーズに鞘に納めてかちりと音をたてる。そしてミナミが言う。


「抜いたのぁ、そっちが先だぜ…」


 何故か俺は鳥肌が立ってしまった。すると皆から唐突に歓声が上がる。


「わあー!」

「カッコイイ!」

「なになに! 南ちゃん! なにそれ!」

「鳥肌立っちゃった」

「イケメン!」

「なんだよ南ちゃん! 驚いたぜ!」


 皆が拍手をしながらミナミを称えていた。するといつものミナミに戻って俺達の所に来る。


「やってみたかったのぉ! ヒカルに身体能力あげてもらったし、ずっとウズウズしてた。でも、江戸村に来たら衝動が抑えられなくなってぇ!」


 それに俺が言う。


「見事な剣技だ。ミナミのそれは魅せる剣技だな。俺も見習うところがありそうだ」


「うわ。ヒカルに言われちゃった!」


「お世辞じゃない」


「うれしい!」


 そしてヤマザキがミナミに言った。


「南ちゃん! それってイチだよな! 俺も大好きだ座頭市」


「わかりましたあ? 子供の頃からずーっとファンで、憧れていたんです。まさか本物の剣でやるとは思ってませんでしたが」


「俳優も真っ青だった」


「へへへ」


 ミナミの意外な能力に皆が賛辞を贈る。俺は気になった事を聞いた。


「それにしても、戸のうしろにいたゾンビを何度か斬っていたな。あれはどうやった?」


「ああ、あれ…。何て言ったらいいんだろう?」


「なんだ?」


「分かったの。いるのが」


「見ていないのにか?」


「そう。思い出してみると気味悪いよね?」


 俺には分かった。ミナミは微弱ではあるが気配探知を使ったのだ。この世界の人間に魔法やスキルを使える者はいないはずだったが、なんとミナミは気配探知を使ってのけたのだ。


「ミナミ、その感覚。忘れるな」


「う、うん。 わかった!」


 俺達が驚いていると、今度はユリナが離れた場所から声をかけて来る。


「ヒカル、ユンちゃんの体力が低下しているわ」


「ん?」


 するとユンが俺の背中で言った。


「ちょっと、頭が痛いわ。軽くめまいがする」


 おんぶヒモ代わりにしたシーツを緩めてユンを降ろす。ユリナがユンを建物の階段に座らせて、頭に手を当てた。


「熱がある。点滴を打ちましょう」


 俺達は建物の中に入り、板の間に上がってユンを寝かせた。持って来た点滴器具を設置し、ユリナはユンに点滴を設置する。ユンが目をつぶって眠り始めたので、俺はすぐに回復魔法をかけてやった。するとユリナは今度、マナの方を振り向いて言った。


「左の脛、切っちゃったでしょ。ヒカルにやってもらった方が良いよ」


「え? ああ、山を登るときに転んじゃって、ちょっと脛を切っちゃったみたい…。でもなんでわかるの?」


 するとユリナがハッとした顔で言う。


「…なんでだろ? でも、分かったの」


 マナがズボンのすそをまくると、少々深めに切って血が出ていた。俺がすぐに回復魔法をかける。傷を塞ぐとユリナが言う。


「マナちゃん。放っておくと化膿しちゃうことがあるわ、足を斬り落とす事になったら大変よ」


「わかったわ。ありがとう」


 俺は不思議に想いユリナに聞く。


「なんで怪我をしている事がわかった? ユリナは前を歩いていたろう?」


「…確かに…なんでだろ? 気持ち悪いわ」


 どうやらユリナには、身体状況を見れるスキルが身についていた。まるで初級の回復術士だった。ミナミもユリナも自分の変化に気が付いていない。だが俺には分かる、二人は初級冒険者のような力に目覚めつつある。


 俺のせいだ。俺が彼女らの体を改変してしまったおかげで、この世界には無い能力を身につけ始めたのだ。俺はそこにいる全員を見渡す。もしかすると彼らの中にも、何らかの力が出現し始めるかもしれない。


 すると次にヤマザキが言った。


「とにかく、一旦ここに滞在しよう。敵はまだ来ない」


 まただ…。何故かヤマザキには俺と似たような感覚が働いている。敵が来るか来ないかなど、勘でしか判断できないはずだ。だがヤマザキは無意識に断定的に話をした。


 俺にも推測できなかった事が起き始めてしまったのだった。

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