第133話 核兵器が降る
皆が待つ国立図書館についた俺達は、急いでエレベーター入り口から地下に潜る。すると皆は俺の指示通りに、地下一階に物資を移動していた。俺の顔を見てアオイが走り寄る。
「お帰りなさい!」
「ああ」
ヤマザキも一緒に走り寄って聞いて来る。
「想定より早かったな! それで、どうだったんだ?」
タケルがそれに答えた。
「凄かったぜ。羽田の陸路を破壊して閉鎖して、レインボーブリッジまで落としちまった。全部ヒカルがやったんだけどよ」
「敵は全滅したのか?」
それには俺が答えた。
「いや作戦の途中で、急遽帰って来たんだ。恐らくあれは敵の一部だろう。それにこれだ」
俺は車の破片を皆に見せる。そこにはファーマー社のマークがあった。
「ファーマー社?」
それにはミナミが答えた。
「たぶんだけど軍人ぽかった。ヤクザが相手かと思ってたけど、それだけじゃないみたい」
「軍人?」
更に俺が付け加える。
「俺が敵の船に斬り込んだ時には、日本人と外国人の混合部隊だった。感覚的には私兵だと思うが、それなりに訓練されていたようだ」
俺達の話を聞いて皆が絶句している。ヤクザでは無くプロの仕業と知り、想定を超えた敵と戦っている事に気づいたのだ。それよりも俺は皆に伝えなければいけない事があった。
「しかし今は考えている暇がない。いますぐにここを放棄して出よう」
すると皆が一斉に顔を見合わせてざわつく。
「放棄? なんで?」
「暮らしていくのには食料がいるんじゃない?」
ヤマザキが俺に聞いて来た。
「どういうことだヒカル? 足止めしたのだろう?」
「ひとまずだ」
「また追い返す事は出来ないのか?」
「もちろん出来るが、とにかく出た方が良い」
「なぜなんだ?」
「分からん。だが俺の第七の感覚が逃げろと言っている」
「第七の感覚?」
「今は説明などしている暇がないんだ。ここにある物資だけでいい、背負えるだけ背負ってすぐに出る」
皆が面食らったような顔をしている。一緒に帰って来たミオもタケルもだ。だがとにかく悩んでいる時間など無い。
するとミナミが言う。
「徹底してやっつけたにも関わらず、次々に敵が送られてくるよね? なんでかな?」
「俺にも良く分からない。あれだけやれば、攻めるのは中断するはずだ。だが恐らくあいつらはやめない」
ユリナが聞いて来る。
「ヒカルは何だと思うの?」
「分からない。だがこの東京に用があるらしい」
俺の言葉を聞いてタケルが言った。
「おい。みんな! いままでヒカルの言う事を聞いて生き残って来たんだ! こんな切羽詰まったヒカルを見た事あるか? とにかく言う事を聞くべきだと思うが?」
タケルの言葉を聞いて皆が少し考えるが、答えが決まったようだ。ヤマザキが言う。
「とにかく持てるだけ物資を持って行こう」
それに俺が付け加えた。
「なるべく水と食料が良い。俺は武器を取って来る」
「わかった」
そして俺は地下八階にある武器庫から、日本刀をあるったけ持って来た。地下一階に上がると皆がリュックに詰め物をしている。そして俺は皆に伝えた。
「そこまででいい。行こう!」
エレベーターを通らずに、カギのかかった非常階段を開けて皆を次々に上階へと登らせる。俺も皆について二階に上がった。
「入り口からだ。動く車を探してそれで行く」
「わかった」
俺達が街中で探した結果、国会議事堂前にある大型のバスが動かせるようだった。
「HATOバスか。観光の途中だったんだろうか?」
ヤマザキが言った。
とにかく俺達はそれに乗り込み、ヤマザキが運転席に座る。そしてヤマザキが俺に聞いて来た。
「どこに?」
「とにかく都心を出る。西だ、西へ向かうんだ。首都高を使っても良い」
「わかった」
そしてヤマザキはバスを動かし始め、すぐそばの首都高の乗り口を登った。
俺が言う。
「急いでくれ」
「わかった!」
ヤマザキの隣りでは地図を広げたマナが、向かう方向をヤマザキに告げる。散乱している車を押しのけてバスが進んでいく。
「このまま行けば東北道に乗れるわ」
「わかった」
ただならぬ雰囲気にアオイが俯いていた。ミオがアオイに声をかける。
「大丈夫?」
「ちょっと気持ち悪い」
「じゃあ、席を倒して寝てると良いわ」
「うん」
バスの席を倒してミオがアオイを寝かせた。少し落ち着いて来た車内で、タケルが俺に言って来た。
「しかしよ。なんで敵はそんなに必死になってんだろうな?」
「わからんが、何らかの目的はあるはずだ」
少し黙って考えていたユリナが言う。
「確か都心部にはファーマー社のビルがあるわ。それが目的じゃない?」
だが俺はそれを否定する。
「それならばピンポイントでそこに行けたはずだ。奴らの目的はもっと他にある」
「なんだろう?」
「わからん」
俺達のバスが首都高を走り、三十分が過ぎた頃だった。ヤマザキが俺に言って来る。
「もう浦和を過ぎだ。何処まで行けばいい、燃料も三分の一をきった」
「燃料が切れたらまた車を探す。とにかく行ける所まで…」
何だ?
おかしな雰囲気を感じ取って俺は後方を振り向いた。そして俺が叫ぶ。
「ふせろ!」
俺の大声に皆が唖然とするが、慌ててバスの床に伏せた。俺は運転席に行きヤマザキを引きずり下ろし床にふせさせる。
次の瞬間。
蛇行するバスの後方。東京都心があった方角が、まるで太陽が輝くほどの光に包まれた。
「伏せていろ!」
バスは壁にぶつかりながらも速度を落としていく。それは唐突に来た。
ガシャン! と後ろの窓ガラスが割れたのだ。
「きゃあ!」
「なんだ!」
「うわ!」
物凄い衝撃波がバスを駆け抜けていく。道路が波打つように揺れ、皆にガラスが降り注いでいた。
「みんな! 怪我は無いか!」
すると後部に居た、ユミとツバサが言う。
「切っちゃった」
「私も少し刺さったみたい」
俺は二人にすぐさま回復魔法をかけた。傷は大したことがないが、衣服が破れてしまっている。
皆が恐る恐る起きだして、俺が見ている方向を見た。
「うそ…」
「なんで…」
「そんな…」
皆はそれが何か知っているようだ。俺は皆に聞く。一体あれは何なのか?
「あれはなんだ?」
するとミナミが言った。
「あんなキノコ雲を起こすのは間違いないわ。あれは核爆弾よ」
「核爆弾?」
「ヒカルにはDVDで見せたと思う。だけど広島に落とされたものとは桁が違うわ、こんなところまで衝撃波は来ないしあの高さを見て」
驚愕だった。まるで魔王ダンジョン九十四階層の魔人が、連発して使って来た火球に似ている。俺達でも苦戦した火球だったが、あんなものを連発されたら今の俺には皆を救う手立てがない。
俺達はだた立ち昇るキノコ雲を見つめて呆然とするのだった。