第132話 レインボーブリッジが封鎖出来ました
それから二時間後、ようやく船団がやって来た。しかも想像していたより数が多く六隻の艦艇が、列をなしてこちらに向かっているようだった。ヘリコプターがのっている船もあれば、箱の中に人が乗っている船もある。
双眼鏡を覗いてミナミが言う。
「揚陸艦一隻に上陸用舟艇が五隻。人がいっぱい乗ってる…」
ミオが言った。
「南は詳しいね」
「好きなついでにいろいろと調べていたから」
タケルがミナミから双眼鏡を借りて言った。
「つーか、あれ絶対ヤクザじゃねえな。間違いなく軍人だ」
俺が三人に言う。
「頭を引っ込めろ。敵に気が付かれるかもしれん」
三人が頭を下げた。そして俺がミオに言う。
「地図を見せてくれ」
俺は船の居る場所と港を確認して言う。
「この様子だと、その橋の下をくぐるみたいだな」
「みたいだね」
「よし」
俺は三人に向かって言った。
「閉じ込めるぞ」
「え、何を?」
「船を」
俺は地図を指さしながら三人に説明する。
「港を完全封鎖?」
「そうだ」
「どうやって」
「任せてくれ。三人はこの橋の袂にある施設で待っていて」
「わかった」
そして俺はレインボーブリッジを一目散に走り始め、反対側の支柱にたどり着く。一隻二隻と橋の下をくぐっていく船を見ながら、タイミングを見計らった。そして最後の船が橋の下をくぐった瞬間、道路と吊っている綱ごとレインボーブリッジを切った。すると橋の片側が落ち始めた。俺は崩れ落ちていく橋の上を猛スピードで走り、反対側の支柱にたどり着く。そこでも同じように綱ごと橋を切るのだった。
ゴゴゴゴ! と橋が一気に崩落し始めたので俺は助走をつけて、下を通る最後尾の船に飛んだ。橋を見上げる兵士達が俺を見つけ銃を撃って来た。もちろん金剛と結界により銃は通らない。
ズン!
俺は一人の兵士の体に着地し、そいつは勢いでつぶれた。慌てた周りの兵士が俺を撃とうとしたので、すぐさま飛びあがって船の縁に飛ぶ。すると船の中で兵士達が同士討ちしてしまった。俺はすぐ下に降りて、飛空円斬で船の中の兵士を半分に切った。そして倒れる兵士たちを踏みつけて前に向かって助走をつける。
トン!
と、船の縁を蹴り船八艘分くらい離れた前の船に飛んだ。兵士たちは飛んでくる俺に銃を撃つが、俺に弾は通らずそのまま船に着地する。すると、着地した俺にナイフで斬りかかって来た奴がいた。俺はそれをスッとずらして尻を蹴飛ばすと、ナイフは反対側の男の顔面に深々と刺さった。
パン! 撃った奴がいるが、その弾は避けた俺の後ろに奴にあたる。すると一人の男が叫んだ。
「撃つな! 同士討ちになる」
日本語?
よく見れば、周りは日本人と外国人の混合部隊のようだ。
「飛空円斬」
その船の奴らを真っ二つにして黙らせ、俺はすぐさま次の船に飛ぶ。やはり同じように銃を撃ってくるが、俺はかまわずにその船に乗り移って斬った。三隻目の人間を全員殺したところで、先頭の揚陸艦から大砲が飛んで来た。俺が揚陸艦に向かって大砲とすれ違うように飛び去ると、乗っていた船に命中し爆発した。それを見た残りの上陸用舟艇は回り込むように迂回し始める。
ガガガガガガガガガ!
甲板に乗った兵士達が俺に向かって銃を撃った。俺はその銃弾をそのまま受けながら甲板に降り立ち、当たる銃弾をそのままに水平に剣を振る。
「冥王斬」
周辺の兵士とヘリコプターが真っ二つになり、俺はそのまま甲板の上で殺戮を続けた。甲板上は血の海となり、次々と出て来る兵士達も全て斬る。そして俺は深く腰を落として次の技を出した。
「大地裂斬」
百メートルもある揚陸艦は真っ二つになった。割れていく甲板の先頭まで走り、一気に後方に向かって助走をつけて飛んだ。逃げようとしていた上陸用舟艇まで飛び移り、俺はそいつらを全て斬り捨てる。残りの一艘がこの船に対して銃撃しているが、船の装甲で俺に弾は当たらない。
次までは距離があるな…
流石にこの艦艇の長さでは助走の距離が足りないと判断し、俺は水中に飛び込む。泳いで最後の艦艇の下に潜りこみ、俺は水の中から剣撃を発動する。船が真っ二つになって兵士達は水に放り出された。
「氷結斬!」
落ちた兵士達を一瞬で凍らせ、俺は凍った水面を走って陸まで飛ぶ。後ろを振り向いて水面を確認するが、既に動く奴はいなかった。炎上する船が沈んでいくところだった。
「戻るか」
レインボーブリッジの施設を上に登っていくと、三人が俺を迎え入れた。
「す、すっげえ」
「怪我は?」
「ずぶ濡れだわ」
「見てたのか?」
「ああ、特等席でバッチリとな。何が起きたのか分からないうちに次々に船が沈んだ」
「増援が来るかもしれん。退散するぞ」
「ああ」
三人を連れて俺はその場を離れる。すると後ろを見てミオとミナミが言った。
「れ、レインボーブリッジが無くなってる」
「本当だ…」
「俺が落とした」
「そうか。まあ使う事もなさそうだしね、いいか」
「そうだね」
微妙な空気が流れ、俺は大変な事をしてしまった気分になる。だがタケルが言った。
「レインボーブリッジで港を閉鎖したんだろ? 逃げられないように」
「そう言う事だ」
「ヒカルはレインボーブリッジ閉鎖出来るんだな」
「何を言っている」
三人が笑っていた。そして俺達はバイクの所まで歩いて戻り、俺が慌てて言った。
「…何か嫌な予感がする。拠点に戻ろう」
「嫌な予感? あれだけ徹底的にやったのにか? 圧倒的だったろ? 何があるってんだ?」
とにかくタケルが俺を質問攻めにするが、俺の感覚としか言いようがなかった。
「分からん。とにかく急ぐぞ」
俺達は拠点に向かってバイクで都心を走るのだった。突如俺の胸に起きた胸騒ぎの原因が分からないが、とにかく早く拠点に戻る必要があった。




