表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
124/615

第123話 東京スカイツリー

 少し強くなった体になり皆が外に出たがるようになった。ゾンビを恐れぬようになることは良い事だが、やはり噛まれればゾンビにはなる。冒険者でも自分が力を付けたと思った時が一番危ないのだ。


 皆の今の身体能力は、もちろん俺はおろか前世の冒険者にも遠く及ばない。ただ少し強いだけの人間といった所だ。ゾンビだけの都市部ならば俺が一緒に居れば問題ないが、そこにヤクザが現れた場合はそれに限らない。


「東京スカイツリーとかダメかな?」


 俺にマナが聞いて来る。東京スカイツリーにアオイを連れていきたいと言ってきたのだ。


「あの塔か」


 マナの隣りにアオイが立っており、マナと手を繋いでいた。


「葵ちゃん。行った事無いんだって」


 それを聞いていたヤマザキも俺に言った。


「さすがに地下と武道館の往復では、皆の気持ちもかなり参る」


 確かにそれはそうかもしれない。俺は前世でずっとダンジョンに潜っていたから、皆のその気持ちは良く分からないが、ずっとここにいるのは厳しい。


「東京スカイツリーまではここからどのくらいだ?」


「ここから地下鉄が続いている。近くまでは地下鉄を走ればいい、三十分くらいじゃないか?」


 なるほど。それならば危険性は少ないかもしれない。


「いってみるか」


 俺が言うとマナがアオイの頭をポンポンしながら言う。


「やったね!」


「う、うん。でも本当にいいの?」


「十分注意していけばいいだろう」


「や、やった」


 アオイが申し訳なさそうにいう。なんだが、アオイのその表情を見ると申し訳なくなってきた。マナもアオイが可哀想で俺に言ったのだろう。そもそも、禁止にする権限が俺にあるわけでもない。


 そして俺達は地下鉄で東京スカイ〇リーに向かう事になる。最寄りの駅にはもう何台ものバイクが用意してあるので、俺達は水や食料と武器を持って出発した。俺がゾンビを始末する為に先頭を走り、皆が後ろをついて来る。なんだがタケルが人一倍嬉しそうだった。


 ニ十分も走ると、俺達のバイク集団は最寄りの駅に到着した。


「ここだ」


 ヤマザキが言ってバイクを降り、地下鉄駅のゾンビを掃討しながら地上へと昇って行く。地上に出てもゾンビがいるが俺が難なく掃討した。そしてすぐ眼前に天にも届きそうな塔が現れる。


「凄いものだな」


 俺が言うとマナが俺に説明をしてくる。


「日本で一番高い建造物だよ」


「そうなんだな」


 皆は、ただ黙ってその塔を見上げている。以前は大勢の人間がいたであろうその塔は静まり返っており、ただ使われる事無く、そこに佇んでいるだけだった。


 すると今度はユミが言って来る。


「中には入れないのかな?」


 それに俺が答える。


「入ってみるか」


「いいの?」


「入るだけなら問題はないだろう」


 そして俺達が東京スカイツリーの内部に侵入する。ゾンビがいるが俺はそれを掃討しながら奥へと進んでいく。すると女達がアオイを呼んだ。


「葵ちゃん! グッズあるよ! おいで!」


 アオイが呼ばれるままに女達のもとに行くと、雑貨を手に取ってあれやこれやと話をしていた。俺もそこに行って背負って来たリュックを差し出す。


「アオイ、欲しい物をこれに入れろ」


 するとアオイの表情がぱっと明るくなった。


「よかったね葵ちゃん」


「うん」


 すると今度はミオが俺に言って来た。


「上に登るのはどうかな?」


 だが俺が答える前に、ヤマザキが言った。


「流石にそれは危険だろう。もし登っている時にヤクザのヘリが来たらひとたまりもないぞ」


「そうか…」


 それを聞いたアオイが一瞬目を伏せるが、すぐに上を向いてヤマザキに言った。


「もう十分。グッズももらったし、楽しかったよ! ありがとう!」


「すまんな葵ちゃん。流石に危険すぎてどうしようもならん」


 アオイが苦笑いをしながら首を振っていた。どうやら行って見たいものの、自分でも危険な事ぐらい分かっているのだろう。


 だが…


 俺がみんなに言った。


「なあ、みんな」


「どうしたの」


「俺がまずこの館内のゾンビを掃討してくる。戻ったらアオイと二人で上に登るって言うのはどうだ?」


 するとマナが言った。


「いいの?」


「もちろんだ」


 ヤマザキも俺に聞いて来る。


「無理はしなくてもいいぞ」


「無理なものか。アオイが見たいのなら連れて行ってやる」


 それを聞いた女達がアオイに言った。


「よかったね! 葵ちゃん!」

「言ってみるもんね!」

「さ! ヒカルの気が変わらないうちに!」


 そして俺は館内のゾンビを全て掃討した。皆の所に戻るとアオイが俺のもとに来る。


「破った入り口は閉鎖して来た。皆はここで待っていてくれ、いざとなったら銃を撃って倒せ」


 タケルが親指を上げて言う。


「任せろ。葵ちゃん! よかったな!」


「うん」


 そして俺はしゃがみ込みアオイを背負った。


「行くぞ」


「うん」


 見つけた階段を使って一気に駆け上がっていく。階段にはゾンビは一切おらず、最上階まで五分程度で到着する。そして階段の踊り場から広場へと出て行く。


 そこに広がる光景に俺も感動した。東京のビル街が一望でき、遠くまで見渡す事が出来た。アオイを下ろし、俺がアオイの手を取ってそのガラス窓まで行く。


「わあ!」


「凄いな」


「うん!」


「一周してみよう」


「わかった」


 そして俺達が東側に差し掛かった時だった。


「おにいちゃん! あれ!」


「ああ…」


 なんと東側の遠方に煙が上がっているのが見えた。


「あれはなに?」


「まあ、人間だろうな。何をしているのかは分からん…」


「怖い」


「おいで」


 俺はアオイを抱いて、その煙を眺めていた。だが詳しい情報を、そこから得る事は出来ない。アオイも楽しい気分が一変してしまったのか、青い顔をして不安な表情を浮かべていた。


「問題ない。俺が全部解決してやる」


「うん」


 俺は再びアオイを背に背負い、一気に皆の元へと下りるのだった。すると皆が声をかけて来る。


「葵ちゃん! どうだった!」


「う、うん…」


 曇るその表情に皆が顔を見合わせる。そしてユリナが俺に聞いて来た。


「何かあったの?」


「煙だ。東の沿岸部あたりだと思うが、煙が立ち上っていた」


「えっ!」

「マジかよ!」

「うそ!」

「そんな…!」


 皆が驚愕の表情を浮かべ言葉を失ってしまった。


 俺は皆に伝える。


「もしかすると奴らが東京侵攻を開始したのかもしれん」


 ヤマザキがそれに答えた。


「かもしれんな。だが、不幸中の幸いとはこれの事だ。葵ちゃんがスカイツリーに行ってみたいと言わなければ、俺達はいつの間にか追い詰められていたかもしれん」


「ああ。まず一気に攻めてくる事はないだろう。恐らくあれは、ゾンビがいるような場所を潰して進んでいるのだと思う。猶予がどのくらいかは分からんが、それまでに俺達も手を考えておく必要がある」


「だな」


 そして皆は来た時の明るい気持ちが閉ざされ、暗い表情で地下鉄の駅へと潜っていくのだった。

いい思い出にするつもりが…

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ