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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第117話 新魔法を獲得

 ミオとミナミとユリナが、俺の言葉の先生になってくれた。話すのは問題がないため、文字と読み方と意味を照合していくだけで吸収できた。また、ミオが日本語以外も教えてくれたため、俺は数か国の言葉をも覚えていく。数日で日本語と英語、ドイツ語、ロシア語を覚えた。


 なぜ俺が思い立ったようにこんな事をやっているのかというと、それはヤクザから聞いたゾンビになるという成分の事が発端だ。自分の体を弱体化させて、確かにその存在がある事を確認できたのだ。それで俺の考えは確信に変わる。


 前世のゾンビやグール、スケルトンは邪神の力によるものとされていた。ゴーストやそれらが乗り移り体を動かしているとも言われていたのだ。だから聖職者による浄化魔法や、聖なる武器で討伐が可能だった。


 だが、この世界のゾンビはそれとは違った。なんと人為的にゾンビを作りだしたらしい。そんな技術がどうやって生まれたのかは分からないが、文明の違いがそれらを生み出したと理解するしかなかった。


 だが…。それならばできる。


 そう思ったのだった。


 もちろん前世の俺には無理だった。聖女エリスなら、浄化魔法であっという間に都市一つくらいのゾンビを倒すだろう。だが、俺は神の加護を受けたことも無く神託を受けたことも無い。俺がゾンビを倒すのは力でだけだ。頭を吹き飛ばして物理的に動かなくするしかないのだ。だから広範囲にやるなら、広範囲に斬る力でやる。


 だが、それが悪魔や邪心の力で無いとしたら、俺でも対処できると言う事だ。実際に自分の肉体で確認し、その物質の流れも掴んでいる。


 だが、ここからだ。ここからは賭けだった。


 この世界の技術で生み出された物なら、この世界の技術を知れば何とか出来るかもしれない。理屈としては間違っていない。物理的に生み出されたゾンビなら物理的に解決できるはずなのだ。更に俺にはこの世界の人間にない魔力がある。ならやるしかない。 


 それ故に俺は言葉をマスターした。ほとんどの読み書きができるようになる。


 俺はユリナに言う。


「悪いがユリナ。俺はこの世界の薬や医学が知りたい。どこに行けばその情報を得られる?」


「それならば、医大だわ。好都合な事に東京には、凄い大学があるの」


「連れて言ってくれ」


「分かったわ。でもなんで急にこんなことを?」


「いずれ時が来たら教える」


 するとユリナが少し考えて言った。


「発電機とか持って行った方が良いかも」


「なぜだ?」


「大学には書籍もあるけど、パソコンもあるわ。それらの中に情報があるはず」


「わかった」


 それを聞いたヤマザキが言う。


「大型バイクの後ろに小型の発電機を括り付けていけ。その電源で、パソコンくらいならいくらでもみれるはずだ」


 それを聞いていたマナが言った。


「大学ならサーバーに繋がないとダメだと思う」


 残念そうにユリナが言う。


「そうかあ…」


 しかしマナが腰に手を当ててニッコり笑って言う。


「だから。私も連れて行って、多少知識があるわ」


「そうなの?」


「ええ」


 マナが答えるとタケルが言う。


「じゃあバイクは二台だな。俺も行こう」


 そして俺達は準備をし、バイクでユリナが指し示す大学へと向かう。そこまでは十分でたどり着き、バイクを降りて敷地に入っていく。そこにはいくつもの建物が建っていた。


 ユリナが案内版を見ながら進むと一つの建物にたどり着いた。


「ここよ」


「入ろう」


 そして俺達が内部に入ると、数体のゾンビが居たのでそれを処分する。


 するとユリナが言った。


「何か…教授って感じよね? 事務員とかもいそう」


 マナが答える。


「逃げ遅れたのかもね…」


「最高の頭脳もゾンビになってしまえばお終いか…」


 それから俺達は館内を探し、まずは書籍がある場所を確認していく。かなりの広さがある為、どこに何があるかの掌握が大変だった。ついでに気配感知でゾンビを処分する。


 タケルが言う。


「まあ焦んなよ。数日はすごせる分の食料は持って来てるからよ」


 そして俺は皆に言った。


「俺はかなりの言葉を覚えたし、医学系の雑誌や情報も国立図書館で読んだ。だからここにあるすべてが必要じゃない事が分かる。まずは館内をぐるりと見渡せば大丈夫だ。何が必要かおおよそ把握できている」


 皆がポカーンとした目で俺を見る。


 ユリナが言った。


「凄く難しいと思うけど、本当に大丈夫?」


「問題ない」

 

 なにせ俺の思考加速の最大値は、九百八十三だ。全体レベルは千を超えているが、間違いなくこの建物の一部情報を読み切り理解するまでは数日で十分だ。


「まずは…ここだ」


 俺が指さす。するとユリナがポツリと言った。


「分子細胞生物学?」


「そうだ。この建屋内のゾンビは全て始末してあるから、三人はパソコンとやらの準備を頼む」


 三人がコクリと頷いた。そして俺は片っ端から書籍やファイルを取っては頭に入れていく。一冊に十八秒ほどの時間はかかるが、俺は丁寧にそれらを吸収していくのだった。三十分で百冊ほどを読み終えた時、マナが俺に伝えてくる。


「パソコンついたよ。パスワードどうしようかって思ってたら、パソコンの画面に付箋があってそれに書いてあった。教授ってそう言うのは苦手みたい。でもそれ以外にもやる方法はあるから任せて」


 何の事か分からんが、俺はマナに勧められて机に座る。光る画面にはいろんな模様が記されていた。マナが俺に説明する


「その手の丸いやつを操作すると、画面の矢印が動くの」


 俺がその丸い物を手に収めると、マナが俺の手の上に手を重ねて来た。そしてそれの操作と、何処に何がありそうかの情報を教えてくれた。


「わかった」


 そしてパソコンの中にあった、それらしい情報を読み終えるのに一時間以上かかってしまう。書籍よりもはるかに情報が多く、その機械の凄さを知るのだった。


 マナとタケルとユリナが戻って来て言う。


「サーバー見つけたよ」


「わかった。行こう」


 そして俺はサーバーとやらの場所に行った。その中に入っていた情報は膨大だった。その中の情報を読み解いては、細胞分子生理学に行って冊子や本を読破し、分子生物学に行っては本を読みふける。とりわけ免疫学とゲノム工学とやらは役に立ちそうだった。微生物学を学び細胞分子薬理学に戻り、がん細胞情報学を学び細胞構築学を読みふける。そして俺は全学部にあったパソコンに目を通し終えた。


 …気がつけば四日が経過していた。俺は思考最高加速強化を施し、四日眠りもせずにぶっ続けで、ここにある知識を吸収したのだ。


 俺が三人のもとに行くと、ユリナだけが起きておりマナとタケルは眠っていた。


「疲れたようだな」


「いや。ヒカルの方が疲れたでしょ? ていうか集中すると、私達の声聞こえなくなるみたい」


「すまん。頭を全て知識の吸収に向けたからな」


「いいんだけどね」


 俺達が話していると、タケルとマナが起きだした。


「お、おお! ヒカルどうだ?」

「凄かったね!」


「まあパスワードで見れない物もあったが、原理原則が分かればいいだけだ。この世界の医学は前世とは比べ物にならないぞ! まさに神の領域ってやつだ」


 俺が興奮気味に言うが、タケルもマナもちんぷんかんぷんの顔をする。だがユリナがニッコリ笑って答えた。


「ほんとそうよね。人間がたどり着いちゃいけないところまで来てるって感じがする。


「まったくだ」


 そしてタケルが聞いて来る。


「で、どうなんだよ?」


「たぶん…掴んだ。やってみなければ分からんがな」


「本当かよ! ど、どうすんだ?」


「まずは俺で試す。まずは水と食料をくれ、腹ペコだ」


「あ、ああ! すまん!」


 そしてタケルが俺に水と、真空で包まれたパンを渡してくる。俺は袋を破ってそれをかじり、水で流し込んでいく。それを全て食べて俺は皆に告げた。


「万が一、俺に何かあったら見捨てて帰ってくれ。とにかく今すぐにやらないと何かを忘れてしまいそうだ。すぐにでも取り掛かりたい」


「「「えっ!」」」


「これから自分に潜る」


「な、なにいってんだ?」

「そうよ! 危険な事はダメよ!」

「ほんとそう! そんな事の為に頑張ってたの?」


「悪いが説明は後で、もちろん無事で戻って来るから心配するな。説明しても分からんだろうから、とにかく見守っていてくれるといい。タケル、万が一があったらお前が二人を守れよ」


 俺が真剣なまなざしでタケルに言うと、気迫に負けたタケルが言う。


「わかった」

 

 三人がコクリと頷いた。


 俺は全ての服を脱ぎ捨てて素っ裸になる。するとマナとユリナが目を背けた。タケルが笑って俺を見ている。


「なにやってんだ?」


「自分の体を探るためだ」


 俺はその部屋のベッドに寝っ転がって、自分の体を探っていく。


「よし」


 次の瞬間、俺は急速に自分の深層に潜り込むのだった。


 すると…


 見えた。そして原理が分かる。この世界の医学と魔力の融合で新しい何かが見つかりそうだ。


 注意深く探っていくと、俺の細胞やDNAに含まれるゾンビ要素がいる。そいつらが俺の体の中で脈打ち、俺が死ぬのを今か今かと待ちうけているのだった。俺は自分の組織に集中をして、そいつらが体の全てに巡っているのを確認した。


「さて…出て行ってもらうか」


 俺は新しく覚えた魔法を構築して、そいつらを細胞から切り離していくのだった。そいつらは蠢いており自分の意志で生きているようだが、俺の細胞から切り離したら死んだ。頭の先から一気に足の先まで魔法をかけていくと、次々にそれらは切り離されて鼓動を止め死んでいく。


 だが…俺の細胞がかなり破損しているのが分かる。とはいえ俺の意識がはっきりしていると言う事は、俺は生きていると言う事だ。


 細胞に意識を集中させて、覚えた医学と融合させた次の新しい魔法を自分に施す。


 これは…


 俺は…とうとうやったのだ。自分の中に潜り俺は歓喜していた。体内の不足した部分が新しく生まれて、それらを補っていくのが分かる。全てが終わり俺は自分の体から外へと向かって動いた。そして俺は蘇生したのだった。


「ぷはあああああああ!」


 タケルとユリナとマナが泣きそうな顔で俺を見ていた。三人に俺が尋ねる。


「な、なんだ? どうした?」


「おい! おまえ! 死んでたぞ!」


「そうよ! 私が蘇生しなかったら心臓が止まっていたわ」


 そうか。説明しておけばよかった。


「すまん。俺は十分かそこらなら心臓を止めておけるんだ」


「な、なんだよ、それ! 前もって言っとけよ!」


 ユリナとマナが俺の手を握って泣いている。大変申し訳ない事をしてしまった。


「それよりも大丈夫?」


 ユリナが心配そうに俺に言う。


「ああ、もちろんだが?」


「全身真っ白よ!」


 俺が自分の手足をみると、白粉でも振りかけたようになっていた。これは死んだゾンビ要素を体外に排出した結果だ。体中の細胞から抜けたゾンビ要素が浮き出たのだ。


 俺はタケルに向かって言う。


「タケル。成功だ」


「マジか!」


「マジだ」


 するとタケルが俺に抱きついて来た。そして俺の頭を撫でながら言う。


「お前はすげえよ! 本当に! 英雄だよ!」


「英雄じゃない。勇者だ」


「ゆ、勇者か。そうだな! それでいい!」


「なんだ。お前まで泣いてるのか?」


「感動しちまってよ! 鳥肌立ちすぎて気を失いそうだ」


「気を失ってもいいぞ」


「馬鹿やろう」


 裸の俺を囲んで三人が泣きながら笑っているのだった。

現代医学と魔法の融合!?

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