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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第115話 体内に潜む

俺達はバイクが置いてある地下鉄の駅入り口にたどり着いた。俺はリュックから、電池で光るランタンと懐中電灯を取り出して二人に渡す。二人の為に俺も同じものを持ち、階段を降りながらその明かりをつけた。来るときにゾンビは斬っているので、入り口付近には残骸が転がっているだけだった。


 静かに足音だけが鳴り、ヤクザを始末したマンションからここまで二人はずっと沈黙している。俺もどのように声をかけて良いのか分からないままだ。気配探知でゾンビが歩くのが分かったので、刺突閃で仕留め静かに倒す。


 そして下層のホームにたどり着いて線路に降りようとした時だった。ヤマザキが俺を呼び止める。


「ヒカル。ちょっといいか?」


「ああ」


「周囲にゾンビは?」


「見える範囲にはいない。まあ来たらすぐに斬るから安心しろ」


「そうか…。ちょっとベンチに座ろう」


「ああ」


 三人はホームのベンチに座りランタンを足元に並べ、俺達のいる場所だけが明るく光っている。すると徐にヤマザキが話し始めた。


「拠点に戻ってこの話をするかどうかだが…」


「そうだな…」


 するとタケルが言った。


「仕方ねえとは思うけどよ、別に話す必要ねえんじゃねえか?」


 俺はタケルの言う事に頷く。


「そうだな。今、必要な情報じゃないだろう」


 ヤマザキが目頭を押さえて俯いた。呻くように声を絞り出した。


「なんてこった。死ねば我々もゾンビになる可能性があるなんてな」


「ああ。ヤクザは正式な成分の名称を知らなかったしよ。いつの間にか体に入ってる可能性はあるんだろうな」


「噛まれたらなるものだと思っていたよ…」


「俺もさ」


 だが俺は二人に言った。


「ならば死ななければいいんだ。いずれにせよ死んだらどうにもならないだろう?」


 するとタケルが大きなため息をついた。そして上を仰ぎ見て呟くように言う。


「一緒に頑張って来た仲間を襲うかもしれねえんだ。そんなの耐えらんねえよ」


 確かにそうだが、噛まれずともゾンビになる可能性があるなら防ぎようがない。だがタケルが言うように、死んだ後で守ってきた奴らを襲うかもしれないなんて、考えただけでも嫌になる。


 俺が言った。


「皆に身体強化や解毒魔法を教えられれば良かった…」


 するとヤマザキが俺を見て言う。


「それは、他人には使えないのか? 回復魔法は使えるだろう」


 それを聞いたタケルが、回復魔法で治した肘までの腕を回している。


「解毒魔法は使えるが、そもそもそれが毒なのかどうかわからない。やってみる価値はあるだろうがな」


「可能性はあるのだろう?」


「効くかどうかは分からん」


 するとタケルが言った。


「逆にこの世界のどっかに解毒するような薬とかないもんかね?」


 だがヤマザキが首を振りながらそれに答えた。


「砂漠でダイヤモンドを探すより厳しいだろう。そんなものが何処にあるかを調べるすべがないし、むしろ解毒出来るものなのだろうか?」


 確かにそうだ。ヤクザの話ではファーマー社とか言う組織は、世界中に点在していてそれを探し出さなければならないのだ。俺達には目下のヤクザ組織をどうするかという問題がある。


 俺が二人に言う。


「いずれにせよ今をどうするかだ。食わねば死ぬしな、何も口に入れずに生きるのは不可能だ」


「そうだな…」


「何か案は無いか?」


 ヤマザキが渋い顔をして言う。


「難しい事ではあるが…」


「なんだ?」


「ヤクザの話からすると、まず安全なのは国産の肉や野菜だと考えられる。もう一つは添加物の無い物を選んで、自分達で何とかしていくしかあるまい」


「せめてよ…、その添加物の名称が分かればいいのにな」


 タケルの言葉に俺とヤマザキが頷いた。とにかくそれを皆と話し合うにも、その理由がいる。何故、口に入れるものを吟味しなければならないのか? 突然言い出したらみんなも不思議に思うだろう。


 そしてヤマザキが言う。


「それは何とかするしかないだろう。こんな世界で長生きをするためにも、食べ物を選んだ方が良いとかなんとか言えば皆も納得するさ」


 タケルが情けない声を出した。


「あーあ。せっかく美味いもんが食えるようになったと思ったら、こんな事を知っちまうなんてよ」


「仕方あるまい」


 タケルがじっと俺を見た。


「なんだ?」


「お願いがあるんだ。もし俺が死んだら、すぐに脳天をやってくれ。頼む」


 それを聞いたヤマザキも俺に懇願して来た。


「すまないが、俺もお願いしたい。死んだらとどめを刺してくれ」


 二人は真剣だった。二人の仲間を思う気持ちを想えば、俺は答えるしかない。


「わかった。だが諦めるな、必ず解決策はあるさ。まずは今保管している食料品の始末をつけねばならない。その理由を皆に告げるにはどうすればいい?」


「「‥‥‥」」


 無いようだ。もちろん俺も何と言っていいか分からなかった。とにかくできる事をするしかない。


「まずは安全そうな食品の選出から始めよう。そして俺が早急に入れ替えをしてやる。そういう事に詳しいのは誰だ」


 俺が聞くとヤマザキ答えた。


「友理奈だよ」


「ユリナか。彼女になんとか協力してもらうしかないだろう」


 それにタケルが言った。


「もしかしたらよ。薬品の事も知ってるかもしれねえし、それとなく聞いてみるのも良いんじゃね?」


「そうしよう」


 ヤマザキが再び俺の手を握って言う。


「うちらの誰かが死んだら、その時はお願いできるよな?」


「言うまでもない」


「それを聞いて安心したよ」


 二人がフッと笑ったが、俺は悲しかった。一緒にやってきた仲間が死んだら、その死体を切り刻まなければならない。しかし皆の安全を守るためにも必要な事だった。


 俺が立ち上がって言う。


「戻ろう。今こうしている間にも彼女らは危険な状態にあると言う事だ。今は皆が健康だが、突然死んだりすることだってある」


「わかった」

「ああ」


 そして俺達は線路に降り、俺の後ろにヤマザキが乗った。タケルもバイクに乗り俺達は地下鉄を走り始めるのだった。拠点の近くの駅について、それからは黙々と拠点に向かって歩いた。


 国立図書館のエレベーターの前に立つとヤマザキが確認してくる。


「いいか? くれぐれも」


「わぁってるよ! そんな事言えねえよ」


「もちろんだ」


 俺はそう言いながらも、皆に少しずつ解毒魔法を施してみようと思っていた。人間に不要なものが入っていれば出る可能性がある。それほど単純なものかどうかは分からないが、やれることは全てやってみるつもりだった。


 俺がエレベーターを開いて、下の階にヤマザキとタケルを降ろした。エレベーターの扉を閉めて地下八階に到達すると、アオイとミオとツバサが廊下を走っていた。


「あ、お帰りなさい!」


 アオイが言う。


「何をしていたんだ?」


「ジョギング! 走って体力つけようって言う話になって、みんな体を動かしているの!」


 アオイが元気よく答える。そして汗を拭きながらミオがニッコリ笑って聞いて来た。


「何か情報は掴んだの?」


 俺がそれに答える。


「もちろんだ。ヤクザの拠点とか人数とかバッチリ聞いて来たぞ!」


「いよいよだね! 凄いなあ」


「まあ、これからだな。とにかく健康に気を使うのは良い事だ」


「うん」


「だが無理はするなよ。適度なのが一番だ」


「もちろん! 分かってるって」


 そして俺とヤマザキとタケルは、楽しそうな三人に連れられて皆の元へと戻るのだった。

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