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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第113話 尋問

 俺は地下鉄を通って拠点に戻り、ヤマザキとタケルを連れて再びヤクザを閉じ込めたマンションへと戻って来る。ここに来るまで、なににも会わず上空をヘリコプターが飛ぶ事も無かった。


 ゾンビを処理しつつマンションの階段を登っている時、タケルがそれについて聞いてくる。走っているので、ヤマザキはついて来てくるのでやっとだ。


「全然ヘリコプター飛んでねえな。もっと大騒ぎになっていそうなもんだけどな、静かすぎる」


 それは恐らく俺がヤクザの拠点を壊滅させ、連中がそれどころではないからだと思う。とにかく俺は二人に情報を聞き出してほしくて、このヤクザを閉じ込めたマンションまで連れて来た。


「ヤクザ連中もそれどころでは無いのさ」


「まあヒカルが、またすっげえ事しでかしたんだろうな」


「そうだ」


 そして俺が閉じ込めた男の部屋に行くと、内部にゾンビが八体ほど入り込んでいた。


「馬鹿が…暴れたか」


 男を閉じ込めた部屋には、ゾンビが集まっていた。恐らくは男が逃げようとして物音をたてたのだろう。クローゼットの扉が持ちこたえている事を祈る。俺はゾンビ達に飛びかかり、頭を斬り飛ばしていく。


「なんでこの部屋だけゾンビが多いんだ?」


 タケルが聞いて来た。


「わざと扉を開きっぱなしにして行ったんだ。逃げようと暴れれば音でゾンビが集まる」


「…ほんっとにヒカルはゾンビを使いこなしているよな」


「使える物は何でも使う」


 冷蔵庫とベッドを取り除いて、クローゼットを開くと発狂寸前の男がいた。俺と目があっても、何が映っているのか分からないような表情をしている。


 パン! 俺はその男の頬をひっぱたく。すると焦点があい、俺を見て縋るように言った。


「あ、お、助け…助けてくれ! ゾンビが! ゾンビが!」


「落ち着け。ゾンビはもう倒した」


「あ、ああ」


 男は小便を漏らしており、恐怖で目がぼっこりとくぼんでいた。


「口を開けろ」


「わ、わかった」


 男が口を開けたので、俺はリュックに入っていたペットボトルをあけて突っ込んだ。男はごくごくと音を鳴らして飲むが、慌てて飲んだためにむせってしまった。


「ゴホッゴホッ!」


 しばらく何もせずに様子を見ていると。男がようやく落ち着きを取り戻したようだ。俺達を見て怯えたように口を開く。


「お、お前達…いったいなにをしたか分かってんのか?」


 開口一番、勝手に話をし始めた。俺はそれを無視し、振り向いて部屋の台所に向かう。男が慌てたように続けて言った。


「おい! どこに行くんだ!」


 だが目の前にいるヤマザキとタケルに気がついて話しかける。


「えっと、あ、あんたらは?」


「彼の仲間だよ。そしてその質問はこちらの方からしたいね」


 ヤマザキが冷静に男に言う。すると男が力なく笑いながらも言う。


「聞いたら謝りたくなるぜ。そしてトンデモない相手を敵に回したと知るさ」


 するとタケルが笑ながら答える。


「知ってるさ。花山組だろ?」


「な、なんでそれを知ってんだ?」


「さあな」


 俺はその話を聞きながらも、台所からフォークや包丁を持って戻って来た。そしてあっけにとられた顔をしていた男は気を取り直して言う。


「ああ、俺は花山組のもんだ。だがな、それを知っているからなんだっていうんだ?」


 タケルがそれに食ってかかる。


「どう言う事だよ?」


「はん! 知らねえな!」


 男はしらを切って強気で答える。どうやら人間がここに居る事で、男にほんの少しの勇気が出て来たようだ。俺がしゃがみ込んで男の目を見る。


「なんだ? ハナヤマグミは日本一のヤクザ組織なのだろう?」


「そうだ。お前らただで済むと思うなよ!」


 そして俺はタケルとヤマザキに向かって言った。


「聞きたい事を聞いてくれ」


「わかった」

「ああ」


 すると男が不敵な笑みを浮かべて俺達に言う。


「別に俺に話を聞いたところで、役に立つ事なんかねえよ」


 俺が男に言う。


「お前の知っている事でいい」


 するとタケルが俺の代わりに質問した。


「お前はヤクザの幹部なのか?」


「は? おりゃ下っ端だ」


 俺は思考加速を自分に施して男を見ていた。更に生体掌握をかけて、こいつが本当の事を言っているかどうかの判断をつける。魔獣や魔人を倒す時にもこれは有効で、敵の弱点が分かるのだ。男の心拍が微妙に上がる。


 俺はヤクザの髪の毛を掴んで言った。


「おまえ、この中から選べ」


 男が見下ろす先には、フォークや包丁やヤスリが置いてある。


「な、何だよ! フォークとかおろし金なんか置いて何をする気だよ!」


「早く選べ」


 男の顔から次第に血の気が失せて来た。心拍数が早まっているのに顔の色は青い。すると逆にタケルが俺に聞いて来る。


「これで、なにすんだ?」


 俺は逆にタケルに聞いた。


「こいつが素直に話すように持って来た」


 俺は短刀を抜いて男の顔の前に突き付けて言う。


「早く選べ。これが刺さるぞ」


「ふぉ…フォークだ」


「フォークだな」


 俺はフォークを取って男の太ももに刺した。


「ぎゃっ…」


 叫びそうになったので、ベッドの毛布を掴んで男の口に突っ込んだ。


「ゾンビが来るだろう? お前は馬鹿なのか?」


「ふーっ! ふーっ!」


 男が涙目になりながら俺を睨んだ。そっと毛布を外してもう一回聞く。


「お前はカンブかって聞いているだろう?」


「…そうだ…。俺は福島支部の若頭補佐だった」


 俺のやりくちに若干引き気味になりながらもタケルが聞いた。


「や、ヤクザはどれぐら残ってるんだよ?」


「‥‥‥」


 ヤクザの男は俯いて黙った。俺はまた髪の毛を掴んで起こす。


「選べ」


「ま、待ってくれ! わかった! 二千人だ! 家族も含めてな!」


 それを聞いたヤマザキが尋ねる。


「花山組と言えば八千人はいたと思うが?」


「傘下の連中でも選ばれなかった奴もいるんだ」

 

 その答えが気になった俺が聞く。


「選ばれなかった?」


 すると男はしまった! というような表情をして口をつぐんだ。それを見た俺はもう一度聞く。


「誰が選んだ?」


「それは…」


 男が口をつぐむ。俺はまた男に訊ねた。


「どれか選べ」


「い、言えねえんだ! 俺達がばらした事を知られたら、アイツらが黙っちゃいねえ」


「アイツら?」


 すると男は目を血走らせて俺を睨む。


「やめろ! 言わねえ! 言わねえぞ!」


 俺は黙っておろし金を拾って男の腕を出した。そしておろし金を男の腕につけてもう一回聞く。


「言え」


「やめてくれ…」


「言え」


「花山組の人間が言ったなんて知られたら、家族が! 女子供が殺されちまう」


 俺はそのまま高速で何度も腕をこすった。男は悲鳴を上げようとしたが、俺が睨むと唇を噛んで叫ぶのを我慢した。強く噛みすぎて唇から血が出ている。


「うぐぐぐ」


「もう一度聞く、アイツらとは誰だ?」


「分かった…言う…」


「言え」


「ファーマー社だ」


 男がそう言うとヤマザキとタケルが絶句した。俺が二人を見ると驚愕の眼差しで男を見ている。そしてヤマザキが言った。


「ファーマー社?」


「そうだ」


 二人の表情を見ているとただ事ではなさそうだ。だが俺には何のことかわからない。


「そんな…」


 すると慌てたようにヤマザキが男に尋ねる。


「な、なんで花山組なんだ? どんな繋がりがあるというのだ?」


「そこまでは良くわからねえ。大親分が取引したと聞いている」


「取引?」


「良くは知らねえけどよ」


 確かに男は嘘を言っていない。それ以上は本当に知らないようだ。


「なんで、なんでファーマー社なんだ?」


 タケルが男の襟首を持って揺さぶる。


「知らねえよ、つーか予測でいいか? それよりも…」


「なんだ?」


「全部話したらお願いがあるんだ」


 男が俺の目を見据えて言った。俺が男に尋ねる。


「お願い?」


「ああ。おりゃゾンビになんて食われたくねえ。だけど…なんつうか最後に誰かに伝えなくちゃとも思っていたんだ。世界をこんな風にした元凶の事をな」


 男の目は覚悟を決めた目だった。俺は男の太ももに刺さっているフォークを抜き、男の血まみれの腕をとって言う。


「傷は治してやる。お前は酒を飲むのか?」


「はは、なんでえ? 酒なんざ浴びるほど飲んださ。昔はな」


「今は?」


「本当に稀だな。酒は貴重だからよ、上の人間が全部押さえてる」


 俺はリュックサックから瓶を取り出した。男はそれを見て笑う。


「ははっ。ルイ十三世かよ! なんでそんなもん持ってんだ?」


 もちろんサンシャインビルの上階の飲み屋から持って来た酒だった。俺は男をクローゼットから連れ出して、ベッドの上に投げ拘束している全てを斬った。


「なっ。なんで突然自由に?」


 そして俺は酒をグラスに注いで男に渡す。


「飲め」


「い、いいのか?」


「くれてやる」


 男が驚いたような目で俺を見るが、俺は何も言わずに男を見下ろした。


「は、はは! 浴びるほど飲んでみてえって思ってたんだ」


「よし」


 俺は男に回復魔法をかける。


「うわ。な、治っていく! なんだよこれ」


「気にするな。飲め」


「わかった」


 男は酒をグビリと喉に流し込んだ。


「ぷはっ! うめえ…」


「話してくれるんだな?」


「ああ」


 そして俺が男のグラスに酒を注ぐと、男はゆっくりと語り始めるのだった。

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