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終末ゾンビと最強勇者の青春  作者: 緑豆空
第二章 東京
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第101話 推察と計画

 毛布を回収して戻った俺は、毛布を広げて皆に渡した。昨日の夜はほとんど寝れなかったと思うので無理はしないようにと伝える。


 そして俺が座ると、ヤマザキが俺の隣に座った。


「それで?」


 俺が報告したヘリの話を聞いて来た。


「ああ。ヘリは東から西へと向かって飛んで行った。俺が撃墜したヘリの方向に正確に飛んで行ったと思う」


「そうか。と言う事は、そのヘリには救命無線機がついてるんだろう」


「ヘリコプターが墜落する前に、皆死んでいたが?」


「いや、ヘリによっては機体が強い衝撃を受けたりすると、自動的に位置情報を発信する装置が備え付けられているんだよ」


「自動でか」


「ああ」


「だからあんなに正確に…」


 だがそれを聞いたヤマザキが言った。


「撃墜した位置はどのあたりだ」


「そうだな。皆が一時避難をした場所から、十キロかそこら西に向かった場所だ」


「だと…埼玉に入ったあたりかもしれんな」


「東京じゃないのか?」


「隣の県だ。盗賊は撃墜場所からその付近に何かがいると思って捜索を始めるだろう。だがここまではニ十キロかそこらしか離れていない、どうなるかね?」


 どうだろう。ヘリコプターはゾンビの影響は受けずに、東京上空を飛び回れるだろうが。車両となるとかなりの台数と銃を用意しないと、東京に侵攻してくるのは無理だ。ゾンビの数はそれだけ多く、都内に侵入するとしても首都高速からはなかなか降りないはずだ。


「陸を進んでは来ないと思うのだが、どうだ?」


「俺もそれは無いと思っていた。だがヘリなんかを投入して来たところを見ると、ヤクザだけの組織じゃない可能性もある。ヘリコプターの色は何色だった?」


「色? なにか関係があるのか?」


「まあそうだ」


「深い緑と茶色だった。」


「…もしかすると赤い小さい丸がなかったか」


「あった」


「やはりか…救命無線機がついているヘリなんて軍用っぽい気がしたんだ」


「兵隊が絡んでいると言うのか?」


「そうとは限らない。だがヤクザが自衛隊基地を掌握した可能性は高い」


「ジエイタイ基地というと、軍の砦のようなものか?」


「そうだ。そこがヤクザの手に落ちていると考えて良いと思う」


「そこには何がある?」


「いろんな武器さ。ヘリだけじゃなく戦闘車両などもある。銃を持って動いているようだが、もっと強力な銃を搭載した車があるんだ」


「何だと…、DVDで見たようなあれか」


「そうだ」


 あれは架空のものではなく本当に存在しており、それが敵集団の手に落ちていると言う事だ。ヤクザが本気を出したら、東京にも進撃してくるという事だろう。


「なぜ、今まで東京に進行してこなかったんだろうな?」


「わからん。むしろこんなゾンビの多い所より、安全に食料が入手できる場所があったと考えるべきだろうな」


「そういえば、大量に食料を持っていたな。船で運んでいたようだが、東京から運び込んだ感じでは無かったように思える」


「おそらく、船で湾岸のコンビナートを抑えているんじゃないかと思うんだが」


「コンビナート?」


「物資がたくさん保管されているような工場や倉庫さ」


 なるほど。それならわざわざ危険を冒して東京に進出する必要はないか。ならば盗賊は我々よりも物資を持っていると言う事になる。食糧だけではなく軍事力も遥かに上と言う事だ。


「ヤマザキ」


「なんだ?」


「もし敵が総力戦で、その兵器を投入して東京に来たらどうなるだろう?」


「こんなことは言いたくないが、俺達は全滅するだろう」


 それを聞いた俺は黙り込んでしまう。それは絶対に嫌だった。この世界に来て仲間に巡り合えて、こうやって身を寄り添って生きて来た。それを全て失うなど考えたくもない。


 俺はヤマザキに言った。


「…俺は…眠れる獅子を起こしてしまったのかもしれんな」


 だがヤマザキは笑って俺の肩を叩く。


「それは違う。ヒカルは一生懸命にやってくれた。それに、今は逃げおおせても、いずれは自分達の勢力を広げるヤクザに見つかって殺されるだろう。そんな愚連隊に、この子らを渡すわけにはいかんよ」


 俺とヤマザキは横になる女達を見た。彼女らは暖かい毛布を手に入れて、ようやく眠りについたようだ。緊迫した一日をおくった為に、身も心もくたくたになっただろう。


「そうだな」


「ヒカル。申し訳ないが今は、ヒカルだけが頼りだよ。空港が全滅し、地方に逃げたところで俺達はいずれ見つかって死んでいた。むしろ東京は凄い隠れ蓑になっていると思う」


 俺はそう考えて皆をここに避難させた。だがいつまでもはこのままで居られないだろう。いずれはヤクザがその兵器を使って東京に攻め入って来るかもしれない。それがいつかは分からないが、俺が派手に動いたおかげで早まった事だけは確かだった。


 責任は取らなければならない。


「大丈夫だ。俺が何とかする」


 俺が意を決したように言うと、ヤマザキがまた笑って言った。


「気負うな。ヒカルだけが全てをどうにかするわけじゃない。皆でなんとかするんだ。幸いにもここは目立たず、すぐに見つかる事はないだろう。それまでに全員でどうするかを考えるんだ」


 ヤマザキの目がいつになく本気だった。どちらかと言えば逃げ腰だった年老いた男だったが、ここまでの事から皆の事を守るという意識が強くなったらしい。


 俺がヤマザキに手を差し伸べると、ヤマザキは俺の手をがっしりと握った。そして俺はヤマザキを見てにやりと笑って言う。


「知恵を貸してくれ」


「もちろんだ」


 俺とヤマザキは、すっかり眠ってしまった女達を再び見つめる。こちらの戦力は年老いた男と片腕を失った青年、そして女子供ばかりだ。だが皆生きる為に必死にやって来た。


 ヤマザキが言う。


「彼女らだって、ただ守られるだけなのは限界だと気づいている。幸いにもこちらにも武器はある、そしてこの東京都内にも武器を保管しているところはあるはずだ」


「そんなところがあるのか?」


「行って見ないと分からんが、そこはここから目と鼻の先だ」


「なんというところだ?」


「警視庁さ」


「ケイシチョウ?」


「そうだ。東京がこのような状態だから、既に警視庁は機能していないだろう。恐らく多少は銃を保管しているはずだ」


「よし。それでは今日から明日の昼まで休み、夜間にそこに行って武器を探してみよう」


「だな。まあ、あるかどうかは確実じゃないが行って見る価値はある」


「決まりだ」


 俺はヤマザキに休むように言う。俺も昼間に動くのを一旦控えるようにするのだった。

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