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没落令嬢オリビアの日常  作者: 胡暖
再会編
9/65

(な、長かった…今日まで、ほんの2週間ほどだったけど)


 私が何故こんなにげっそりしているかと言うと、舞踏会のための淑女教育のせいだ。

 アルフレッドの好意で、私よりいくつか年上のルーシーに、仕事の後に2時間ほどマナー講習をしてもらった。

 学園でも、もちろん淑女教育はあった。ただし、選択科目と必修科目に分かれていた。私はと言えば、専門教育に全力だったため、恥ずかしながら淑女教育は卒業に必要な最低限の科目のみを落第すれすれで潜り抜けてきた。

 だから今回、マナーに関してはほぼ初めから覚え直しだった。おかげでルーシーも大変だったのだと思うけれど、彼女は本当に厳しかった。マジで厳しかった。大事なことなので二回言う。

 彼女、見た感じほんわか系の可愛い女子なのに。背も低くて、ニコニコしてて、守ってあげたい系なのに。それなのに、指導の時はまるで別人だった。

 もう無理だっていうぐらい頭に本を乗せられて歩かされたり、内臓飛び出るくらいコルセットで締め上げられた上で踊る練習させられたり…。

 弱音を吐きそうなるたびに「あら、こんなこともお出来にならないのですか…」って悲しそうな顔をされると、つい出来るわよって!啖呵切っちゃうわよね。

 あれ、おかしいな。なんでルーシーは、あんなに私の扱いを熟知しているのかしら…。


「…似合ってますよ」


 目の前で笑うアルフレッドを、据わっているであろう自覚のある眼差しで見つめる。

 まぁ、ついつい現実逃避もしちゃうわよね。付け焼き刃のマナーで、5年も遠ざかっていた貴族社会に足を踏み入れると思うと膝が笑う。


 今日は朝から仕事をお休みして、ルーシーにこれでもかと磨きをかけて貰った。

 信じられる?夜の舞踏会の参加のために朝から準備するのよ?

 化粧もバッチリ施して、手入れができなくて短く切っていた髪も、ルーシーが後ろで綺麗にシニヨンにまとめてくれた。彼女器用よね。商会の従業員より侍女の方が向いているんじゃないかしら。だからこそ、見た目はそこそこ見れるようになっているのではないかと思う。

 それに、用意して貰った衣装も私にはもったいないくらい素敵。令嬢時代だって着たことないほど、豪奢なドレス。右肩に大きな刺繍が入った菫色のワンショルダードレスで、スカートの部分は花びらを薄く重ねるように何重にも白いレースがついている。デビュタントのドレス程ではないにせよ、露出が控えめで私も抵抗なく着れた。また、私の年齢を考慮してくれているのか、スカートのボリュームも抑えめになっている。

 さすがフローレンス商会。いいお針子を抱えているわ。

 手にはドレスと同じレースでできた手袋をはめている。もちろん、髪飾りもネックレスも、分不相応な品をつけている。どちらも私の瞳の色に合わせたという、バイオレットサファイアだ。紫水晶(アメジスト)でも十分だと思うのだけど…。

 特にネックレスは、私の親指の爪ほどの大きなバイオレットサファイアを小指の爪ほどのダイアモンドが取り囲んでいる。ギラギラと輝きすぎて凶悪である。

 アルフレッドは、「商会の商品PRも兼ねてますからね」と事も無げに言うけど、今の私、総額おいくらなのかしら。

 違う意味で足が震えてきた。


「……とても分不相応だと思うわ」

「そんなこと無いですよ。あなたのために僕が選んだんだから」


 先ほどから気障なことしか言わないアルフレッドをきっと睨む。


「おべっかはもう良いわ!早く会場に向けて出発しないと怖じ気付いて逃げだしても知らないわよ!」


 アルフレッドは肩を竦める事で返答して、私を馬車に誘導する。


 本日の主催はロペス子爵。服飾関係の商会のパトロンをしている子爵で、フローレンス商会から布やレースやボタンなどの材料を購入してくださるお得意様らしい。

 貴族は普通格下のお家にはあまりお呼ばれしても行かないものだけど、本日はオーエンス伯爵家のアルフレッドではなく、フローレンス商会の会頭アルフレッドとして、お得意様に会頭就任のご挨拶に伺うと言う体だから良いんだって。

 多分、ロペス子爵家の舞踏会が初めて参加する会なのは、私のためなんだろう。いきなり大きな場に出て私が緊張しないように、失敗しても問題ないように。ありがたいとは思いつつも、そこの配慮より私が行かなくて良い方法を考えて欲しかったって思うのは我が儘だろうか。

 憂鬱な気持ちで窓の外を見る。


 到着した家はこじんまりとしているものの、成金と噂のロペス子爵らしく、華やかさと贅を尽くした内装をしていた。天上に吊るされた特注のシャンデリアをポカンと見上げる私に、アルフレッドが軽く咳払いする。

 いけないいけない。慌てて下を向いて扇で口許を隠す。そして気付く。チラチラと視線を感じることに。アルフレッドは、学院時代はまだまだ可愛い印象の強い顔立ちだったが、今は立派に白皙の美貌の持ち主だ。そりゃぁ、年頃のお嬢様方が放っておくわけがない。視線にちょっと年頃のお兄様方が混ざっているのがまた…男女問わず人目を惹く顔だものね。

 少し同情する気持ちでアルフレッドの顔を下からちらっと見上げると、視線を逸らしたアルフレッドが言う。


「何を考えていらっしゃるか手に取るように分かりますが…半分はあなたを見てるんですよ」


 なんと!私は想定外過ぎてポカンとする。

 アルフレッドみたいな美男子の横にいるあの女は?ってこと?

 それとも、なんであんな女がアルフレッドにエスコートされてるのってこと?

 やだな、一人になったところで刺されたらどうしよう。

 ちょっと怖くなって、エスコートしてくれているアルフレッドの腕を心持ち強めに握る。


「…何か勘違いしてるようですが、まぁこれはこれで良いです」

「…え?なに?」


 周囲を見るのに忙しすぎて聞き取れなかった。問い返すと、「あちらに子爵がいらっしゃいますので挨拶に伺いますよ」と言われた。

 ふー、いよいよね。


 私はキリッとしてアルフレッドの言葉に頷きを返した。

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