挿話:アルフレッドの独白
アルフレッド視点を書いてみました!……需要あるかな?
話が始まる直前のアルフレッドの独白です。色々ネタバレになるので、ここに挟んでおきます。
良かったらお楽しみくださいませ。
他に、アルフレッド視点、見てみたいところありますか?
最初、オリビア先輩がいなくなって感じたのは「やられた」という思い。
そして感じる喪失感。心にぽっかりと開いた穴に愕然とした。
学園に入学した当初から、クラスメイトなんて馬鹿ばっかりだと見下していた。
これまで、大人も子供も碌に会話にならなかった。
程度の低い嫉妬を向けられることには、ほとほと辟易していたが、そんなことに感情を動かされることももうなかった。それでも、ダメにされた教科書類を見て面倒くささからため息が出る。
淡々と生きていた日常に色がついたのは彼女が現れたからだ。
豪快な啖呵を切って、縁もゆかりもない下級生を助けて。挙句、その下級生も怒鳴りつけて。
苛烈なその性格のままに生きている彼女はさぞ生きにくいだろう。その真直ぐさを愚かだと思う一方で、要領よく、程ほどで生きていた自分には眩しすぎる存在だった。
彼女に守るべき弱いものではなく、対等な存在として見てほしい。心の底から湧き上がってきた欲求に気づいたのは一体いつのことだっただろう。
何となく近づきたくて、彼女の視界に入ろうと彼女の傍をうろついて、でも、碌に人付き合いをしてこなかった自分では、気の利いた言葉の一つも言えなかった。
自分と話した後に彼女の顔が引きつるのを見るたびに陰でため息を吐いた。
それでも声をかけることをやめられなかった。
いつ声をかけても彼女は、こちらをまっすぐ見てくれたからだ。言葉を濁して逃げることも、卑屈に笑っておべっかを使ってくることもない。頭はいいのに、手先は意外と不器用だったり、負けず嫌いで人知れず猛然と努力していたり。知れば知るほど可愛い彼女にのめり込んでいくばかりだった。
それなのに、ある日突然、彼女はいなくなった。
当たり前にあると思っていた明日が来ない現実に打ちのめされて、自分ばかりが彼女の存在に心を動かされていたという事実に数日寝込んだ。兎も角、彼女の行方を捜したが、学生かつ未成年の身では、それさえ容易なことではなかった。
力が欲しい。身分が欲しい。置いて行かれるような自分でいたくない。
――――そうしてもう一度、彼女との関係を始めたい。
決意してからの行動は我ながら早かったと思う。そして、手っ取り早く爵位を得るために、養子という手段を考え付いた。
ジークには自ら自分を売り込みに行った。親戚筋で養子を探している伯爵がいると聞いたから。そして、彼が商会を持っていたから。幅広い情報網を持つ商会であれば、オリビア先輩の居所だって分かるのではないかと考えたのだ。
僕の話を聞いたジークは大笑いして、膝を打った。
「いいねぇ、お前。女一人のために名まで変えるか。……こっから先の話、聞いたら引き返せねぇが、覚悟はあるのか?」
そして、先ほどまでの笑顔を一転させ、どう猛な肉食獣のような顔で迫ってきた。
そんな鬼気迫る顔で養子縁組なんてするものではなくないか?とも思ったが、こちらとて、覚悟を決めてきているのだ。もとより引き返すつもりなどない。
こくりと頷いた僕に、ジークはもう一度にやりと笑った。
そして聞かされた話に、頭を抱えた。
王の耳?自分が王家の隠密の頭領に?
これはそんな気軽に後継者を探せる話か?
唖然とする僕にジークはかかかと笑う。
「自分のためじゃなく、他人のために力を求めるお前なら、まぁ、何があっても逃げ出さねぇだろ」
じろりとジークを睨みつけながら、まぁ、悪くないかと思いなおす。
想定してた権力ではないが、考えようによっては商会など目じゃないほどの情報が集められる。自分の身は危険かもしれないが、莫大な力が手に入るのだ。
僕は覚悟を決めた。
他人に人生を振り回されるなんて馬鹿の所業だと思っていたが、オリビア先輩がいなくなって、色褪せた毎日に、こんな日々を死ぬまで繰り返すなど嫌だと思ったのだ。だから立ち上がったのだ。
後継者教育は苛烈を極めた。特に、王の耳としての役目の引継ぎが。元々勉強は得意だが、運動はあまりしてこなかった。スポーツは基本チーム戦だし、土や汗で汚れるのも好きじゃないからだ。
基本の柔軟体操すら怪しかったのに、まずは肉体改造からときたもんだ。死なないように最低限の護身術は身に付けろ、とブラウンにしごかれた。これがどんな勉強よりもしんどかった。そして、愛想を身に付けろと、徹底的にコミュニケーションスキルを叩き込まれた。後、女のあしらい方。
運動に人付き合いに、異性とのかかわり。苦手にしていた技術ばかりの習得に奔走する毎日に辟易したが、弱音を吐くわけにはいかなかった。彼女を見つけるために。
ただでさえ自分は年下だ。あっという間に彼女は結婚適齢期。手の届かないところに彼女が行ってしまう前に…。歯を食いしばって踏ん張った。
それでも、再び出会うまでに5年かかった。
実は、彼女の動向は割と早いうちに掴んでいた。すぐにでも助けたがったが、まだ自分は、未成年。成人し、商会を譲るまで待て、と言うジークの言葉に臍を嚙みながら耐えた。
そして商会を譲られてすぐ動き出した。もう待てなかった。本当は、彼女を迎えるのならば組織を掌握してからの方が良いことは分かっていた。
それでも、彼女がこの5年どうやって生きてきていたのか知っていたから。
未成年の彼女が、慣れない仕事をしながら、家族を支えながら生きてきたことを知っていたから。
不運だったのは、職業紹介所の受付嬢が、自分の立場を笠に着て他人をいびるような人間だったことだろう。彼女は自分の今の立場を不満に思っていた。そこに、元貴族で学院での成績優秀者のオリビア先輩が職業を求めてやってきたのだ。自分は持っていない物をすべて持っていたオリビア先輩。でも、今はすべて失ってしまった先輩。受付嬢は、明らかに向いていない職業を先輩に斡旋しては、直ぐに辞めてくる先輩に嫌味を言い、自分より下に置くことで日々の鬱憤を晴らしていた。
その事に気づいた時には腸が煮えくり返る思いをしたが、それゆえにオリビア先輩は今まで結婚を考える余裕もなく生きてきたのだと思うと、心のうちに灯る熱に、少し自分の事が嫌いになりそうだった。
とにかく、彼女を早く今の境遇から救出したかった。自然に、伯爵家へと誘導するために、職業紹介所に自分の手の者を入れた。
5年ぶりにあったオリビア先輩は、少しだけ世間に揉まれて怯えるような顔をしていたが、真直ぐこちらを見る目は変わっていなかった。オリビア先輩の本質が変わっていなかった。
その事に、心から歓喜した。
――――もう離さない。覚悟してくださいね、オリビア先輩。




