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没落令嬢オリビアの日常  作者: 胡暖
婚約者編

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16


「まず、宰相の嫡男と何を仲良くしているんですか?ダンスを踊るばかりか、ドレスまで贈られて」

「あなた分かって…」


 はっと口をふさぐ。しまった。これはまずそうだから黙っておこうと思っていたのに。

 恐る恐るアルフレッドを見上げると、彼は悠然と足を組み替えると、ソファにふんぞり返るように座りなおす。


「誰が義母上のドレスを手配していると思っているんです?見覚えのないドレスの出所が気になるのは当然の事でしょう?」

「こんな時に何余計な事を…」

「余計な事?……いつだって僕の優先順位の一位はあなただ。あなたの横に、僕以外の男がいる。嫉妬で気が狂うかと思いましたよ」


 アルフレッドは怒って私を詰っているはずなのになんだろう、熱烈に告白をされているようで顔が赤くなる。膝の上に置いた手を無意味に握ったり開いたりしてしまう。


「わ、私にはあなたしかいないって知っているでしょう?」

「……でも彼の容姿は僕によく似ている、そうは思いませんか?おまけに、あなたより少し上で年回りもいい。ダンスを踊る姿はとても釣り合いが取れていましたよ?あなたが踵の高すぎる靴を履いていたって」


 いつになく卑屈な様子でアルフレッドが話す。私の気持ちを否定するばかりか、あの無礼者を褒めるようなことばかりを言う。私はコンラード様にされた、舞踏会の翌日の狼藉を思い出して声を荒げる。


「はぁ!?何それ!顔が同じで、条件が良ければわたしが靡くとでも?……馬鹿にしないで!」


 私の激昂に、少し拗ねたような顔で、アルフレッドはぽつりと呟く。


「だって…僕の努力で何とかなることなら僕はどんな苦労だって厭わない。けど、生まれた順番とか、背の高さとか…努力のしようがないじゃないですか」


 驚いた。完全無欠で、常に飄々としているアルフレッドに、そんなコンプレックスがあったなんて。

 私があまりにもみっともない顔をしていたからだろう。アルフレッドは苦笑しながら身を乗り出すようにして私の頬をつつく。


「僕は貴女の側にいるためにいつでも必死なんですよ」


 それは私のセリフよ。私は恥ずかしさを誤魔化すためにゴホンと咳払いをする。

 そうして、ふと、思いついた疑問を口にする。


「それって…もしかして、最近会う暇もないくらい忙しかったことと、関係する?」


 私の言葉にアルフレッドが苦笑して、ゆるく頷いた。


「……僕は、爵位が欲しかったんです」


 話が飛躍して目をぱちぱちする。私が意味を理解していないことが分かったのだろう。肩を竦めて理由を説明してくれる。


「……基盤のない、年若い現王には、『王の耳』は手放せない。以前、僕の醜聞を払拭するために、陞爵(しょうしゃく)しようとしたことからもそれは明らかです。…だから僕が望めばすぐにでも爵位なんか手に入るんですよ。でも、それでは嫌だった。リビィが自分の力で爵位を獲たように、僕も自分の手で掴み取りたかった。堂々とあなたの隣に立つために。男の意地です」

「そんな…私が爵位を得たのだってたまたまフローレンス様がフレイヤ様をご紹介してくださったからだし…私は何も…」

「いいえ。あなたのその不器用な実直さは得難いものです。特に、フレイヤ様のような身分の方ならなおさら。忖度せず、自分に真直ぐに向き合ってくれるあなただからこそ信頼されたのでしょう。……僕もあなたのその真直ぐさに救われた一人ですから」


 アルフレッドは大切なものを見るような目でこちらを見ている。

 何それ、何それ、何それ!初耳ですけど!!


「私…私だって、あなたに沢山、言い切れないくらい沢山助けてもらっているわ」


 何だか感極まってしまって、涙ぐむ私に寄り添うようにアルフレッドは席を移動する。

 ぎゅうとアルフレッドに抱き着いて、私はここ最近の不安を吐露した。


「私不安だったの。アルフレッドは私に愛想をつかして、それで帰ってこなくなったんじゃないかって。あなたに与えられるものを漫然と享受しておきながら、私はあなたに何も返せていなかったから…だから、帰ったらちゃんとあなたに言おうと思って…」

「僕はあなたが側にいてくれるだけで十分幸せだと思っていますよ。そんなことで思い悩ませてしまったなんてすみません。……でも、僕が帰ってきたら何て言おうと思っていたのか、教えて?」


 優しく促す声に、ポツリとこぼす。本当はもっといろいろ言いたいことがあった筈なのに、言葉になったのはたった一言だけだった。


「愛してる。……不安になるから、一人にしないで」


 息をのむ音が聞こえた瞬間、強く抱きしめられた。


「うん。もう絶対一人にしたりしない」


 アルフレッドは私の髪に頬を擦り付けるようにしながらため息を吐く。


「……はぁ、ここが自室でないのが残念でなりません」


 私は顔を赤くしながらも、「そうね」と呟くだけにとどめた。

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