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クラースさんに先導されて向かった先には、先客がいたようだった。扉の外までも言い争う声が聞こえてくる。
現れた私たちに、扉の前を守る護衛は戸惑ったものの、クラースさんはこれ以上この諍いをここで私達に聞かせる気はなかったのだろう。制止を振切り中に入った。
「お前の独断で呼んだ姫だろう!?お前が責任をもって国に返せ!」
「おやおや、あなたはまだお若い。今から焦って、お相手を決めずとも…」
「それは、僕の意志一つで決まること。お前に意見は求めていない!」
そこまで言い切ると、こちらに気づいたセオドア様は少しだけ狼狽えた気がした。タイミングが悪かったようだ。
激昂するセオドア様を軽くいなした相手――――宰相閣下は、クラース様に連れてこられたフレイヤ様をちらりと見て、驚くでもなく鼻で笑った。
何なの!?感じが悪い!!
大人からの蔑みの視線に、びくりと一瞬立ちすくんだフレイヤ様をかばうように私は無言で前に出る。そうすると宰相は視線を私に移し、攻撃の対象をこちらに移した。
「おやおや、誰かと思えば……婚約者がある身で、他の男を寝室に引き込むふしだらな教育係ではないか…。セオドア様、師が師ですから、彼女にもくれぐれもお気を付けくださいませ。女は怖いですからね」
はぁ!?誰も招いてないわよ!勝手に入ってきたのはあんたの息子の方よ!!
宰相の言いぶりにカチーンと来た私は、思うままに反撃する。
「あぁら、どなたかと思えば…婚約者のいる女が意識を失って寝ている部屋に単身かつ無許可で入る無礼者を教育した方はおっしゃることが一味違いますわね?親も親だわ。礼儀として、お加減は大丈夫ですかの一言も言えないのかしら?」
睨みつけながら、腰に手を当て仁王立ちで反撃すると、まさか口答えされると思わなかったのか、宰相は気色ばんだ顔をしてこちらを睨んでくる。
そうして、「失礼する」とさっさと部屋を出ていった。
ホントムカつく。……あぁ、嫌だわ、あることないこと言い触らされそう。
「あなたは強いな」
セオドア様の称賛の声で、はっと我に返る。
「あ、御前で、し、失礼いたしました」
やってしまった…、私は悪くないとはいえ、年長者でかつ他国の宰相に対する物言いではなかったわ。頭に血が上って好き勝手言ってしまった。
私は気まずい思いですすすと、フレイヤ様の後ろに下がった。
◆
「あの、ご用と伺いましたが?」
フレイヤ様が口火を切ったことで、セオドア様はあぁ、と重い口を開いた。
「実は…トルティアの姫が、こちらの宮殿に滞在することとなった……」
驚きに目を見開くフレイヤ様と、ハンナの懸念が現実になったと天を仰ぐ私に、クラースさんが詳細を説明してくれる。
「昨夜の舞踏会で、アスリ様がセオドア様をお気に召されたようで、同じ婚約者候補なのにフレイヤ様だけが宮殿への滞在を認められ、セオドア様と交流を深められている事を狡いと、宰相にご相談なさったのです」
あぁ、そしてきっと宰相は快く快諾なさったと…。
「そのような宰相閣下の横暴をなぜお許しになるのです…」
「代々宰相の任にあるアントンソン家の権力は王家とて容易に処罰できぬほどに強いのだ…」
セオドア様はうなだれる。
そっかぁ、引き継ぎは楽でも、代々宰相を同じ家に任せていた弊害って訳ね…。
「あの、因みに他の国の姫君は?」
「……トルティアの姫に楯突くことはできぬと、皆様お帰りに…」
うううん、これだと残ったハンナ・カーメルがトルティアに楯突いてるみたいじゃない?
私は頭を抱える。
フレイヤ様は不安そうに私とセオドア様を交互に見ていた。
「せっかくの滞在がこのようなことになって済まない。フレイヤにはもっと楽しんでほしかったのに…」
大人びていてもまだ未成年。セオドア様が悔しそうに呟くと、フレイヤ様は首を振ってセオドア様の手を握る。
「私は、来て良かったです。知らないこと、たくさん知れました。とても楽しいの。だから、そんなこと言わないで」
にっこり笑うフレイヤ様に、皆で癒される。
彼女の顔を曇らせたくない。ちょっとトルティアの姫がどんな人物か探ってみましょうか。私は人知れず心の中でこぶしを握った。




