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没落令嬢オリビアの日常  作者: 胡暖
婚約者編

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48/65


「もうし?」

「え?」


 声をかけられたことで思考が中断する。

 いつの間にか工房の多いエリアに着いていたらしい。王都は斜面を切り開いて出来ているので、全体的にコンパクトだ。


 私は話かけてきた、アルトの落ち着いた声の主の方に顔を向ける。

 すらりと高い背、艶やかな赤色の髪を背中に流した、思わず息をのむほどの美人さんが手招きしていた。


「あ、あの?」


 その妖艶な微笑みにちょっとドキドキして、上ずった声で尋ね返すと美人さんはにっこりと笑う。


「何か細工をお探しかしら?よろしければご紹介しましょうか?」

「あ、工房の方ですか?」

「えぇ、そこの」


 そう言って彼女が指さしたのは、こじんまりとした建物だった。


「お一人で?」

「えぇ、作品を生み出す時には一人で没頭したいタイプなの」


 じっと彼女を見る。彼女の身に着けているものは恐らく、自分の手の物だろう。どれも繊細で、美しい仕上がりだった。


(素敵…そうだ、アルフレッドへのお土産も探さないと)


 私は情報収集の傍ら、商品を見せてもらうことにした。

 工房の中は、暖炉に火が入り暖かかった。作業場は奥にあるらしく、どちらかと言うと応接室のような場所だった。華美ではないが、置かれている品はどれも品が良い。壁面には棚があり彼女の作品が間隔を開けて置かれていた。

 じっくりと眺めていると声をかけられる。


「お茶をどうぞ」

「あ、すみません」


 ソファに座って出してもらったお茶に口をつける。温かい飲み物を口にしてほっと一息つく。自分が思っていたよりも体が冷えてしまっていたらしい。なんだか懐かしい味のするお茶をもう一口含む。お互いに名前を名乗り合う。

 なんと美貌の工房長は、ミシェルと言うらしい。思わず、妹と同じです!と食い付き、私はそれだけでなんだか気を許してしまった。

 そして、ミシェル()と同じ名前の人を騙すことに気が引けて、私はおずおずと告白する。


「あの、お茶まで頂いてしまって申し訳ないのですが、私に買い付けする権限はないんです…」


 そんな私に、私の向かいに腰かけたミシェルさんはニッコリと笑顔を向けてくれる。髪をかきあげただけなのに、色気がすごい。


「結構よ、私も一人だからそんなに沢山作れるわけではないの。貴女の気に入ったものだけ検討してもらえれば」

「え、じゃぁ、なぜ…?」


 工房長なら商人に商品を売り込みたいはずだ。欲しいものしか買わなくていいという彼女に疑問を感じて首をかしげる。彼女はふふふ、と笑いながら、口元を覆い隠す。


「あなたが、あんまり可愛いから、声掛け(ナンパし)ちゃった」


 一瞬、言われた言葉の意味が分からずポカンとして、次いでおかしくなる。


「冗談がお好きなんですね」


 やはり少し緊張していたらしい。肩の力が抜ける。

 ミシェルさんは少し首をかしげて可愛く笑いながら、私に問いかけてくる。


「うふふ。……ねぇ、何を見る?どんなものがお好み?」

「……そうですね。瑪瑙か、琥珀を使った、タイピンとカフスのセットはないですか?」

「あら、誰かへの贈り物?」


 きらりとミシェルさんの目が輝いたのが分かって少し恥ずかしくなる。


「その……婚約者への」

「まぁ!じゃぁ、ペリドットの物も必要なんじゃない?」


 彼女は自身の目を指さしながらいたずらっぽく笑って言う。


「えっと………そ、それもあれば」


 彼女のジェスチャーが指し示す、自分のオリーブグリーンの瞳を思い出して、顔から火が出そうになったが、それでも、アルフレッドはその方が喜ぶかもと思ってしまったら、オーダーせずにはいられなかった。

 彼女はくすくす笑いながら席を立つと、トレーにいくつか作品を乗せて戻ってきた。


 どれもシンプルな商品だからこそ、腕の良さが分かる。ほう、とため息を吐いて眺める。じっくりと眺めて、一つを指さす。それは、縁にぐるりと蔦が絡まるような意匠で、アクセントに小さなペリドットと琥珀が蔦に抱えられるようにあしらわれた、タイピンとカフスのセットだった。石も小さいし、これなら何とか手が届くかしら。


「おいくらかしら?」

「うふふ、実は私もそれがいいと思っていたの。いいわ、あげる。お近づきのしるし」


 ミシェルさんは、ニコニコと笑ってそう言う。


「え、いや、そんなわけには…!」

「良いのよ。お金は貰える所から貰うから」


 そう言うと、さっさと商品を包みだす。

 私はわたわたしているしかできなかった。でも、あの、を繰り返す私をミシェルさんは仕方のない子を見るような目で見る。


「お礼に…そうね、敬語をやめて頂戴。私達、お友達になりましょう」


 ね、と言うと、にこやかに見送られる。


「あの、ほんとにありがとうございます!」

「また来てね。私はいつでもここにいるから。それと、今日はもう帰った方が良いわ」


 手を振ってくれる彼女に何度もお辞儀をして、言われたとおりに宮殿に戻ることにする。

 万が一ハンナに約束した3時間を超えてしまったら大変だからだ。私は足早に工房街を後にした。



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