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本日の午前は、王族に来訪の挨拶に向かう。
と言っても、私はフレイヤ様の側に控えるだけ。それでも、王族に目通りするので下手な格好では出られない。王族の謁見に相応しいような衣装を仕立てる財力等持ち合わせていない私の今日の衣装はフローレンス様の御下がりだ。
「あら、新しく作ってもらったら良いじゃない」と、フローレンス様は軽やかに笑っていたが、そんな恐れ多いこと全力でお断りしたい。それに、フローレンス様の服だってかなり高価なものだ。旦那様が一度通した服は二度は着せないというポリシーでもお持ちかのような勢いで新しい衣装を仕立てられるので、この衣装だってほとんど袖を通していないはずだ。毎月毎月、フローレンス商会の売上に莫大な貢献をしてくださっていることを、帳簿を預かっている私は知っている。
ふわふわのシフォンは少し私にはハードルが高かったが、リボンを取って、パニエを抜いてボリュームを落とせば何とか……。妖精さんを飾るのに相応しい衣装の中から、一番落ち着いた色味を探しだして借りてきたのだ。
今日の身支度は一人では出来ないので、フレイヤ様の侍女のハンナに手伝ってもらった。大人っぽく見えるよう、髪を出来るだけコンパクトに編み上げてもらって、ドレスの少女っぽさを抑えるために、レースの袖の長いボレロを羽織って完成だ。
フレイヤ様は、膝丈のふわふわしたドレスに腰にリボンを結んでいた。まだ幼いので肩は出さない。ふんわりとしたパフスリーブの袖がついている。
流石、フローレンス様のご親戚。確実に血の繋がりを感じる可愛らしさだった。
準備が出来たので、謁見の間に向かう。中にはセオドア様の横に、良く似た面影の男女が立ち、他にも数名人がいた。私はその内の一人を見て目を見開く。
「アルフレッド……?」
思わず声に出して呟き、慌てて口許を押さえた。
でも、だって、アルフレッドがいたのだ。正確には良く似た人物が。
一番の違いは髪色だった。昨日、抱きとめてくれた人物のように、金の髪をしている。本物のアルフレッドは焦げ茶色の髪だ。あんなに明るい色ではない。それに、アルフレッドよりいくつか年上に見えた。
もしかして、昨日抱き止めてくれた助けてくれた人物は、彼……?
私がどぎまぎとアルフレッドに良く似た人物を観察している横で、そっとフレイヤ様が前に進み出る。緊張した面持ちでカーテシーをし、初対面の挨拶を始めた。
私も慌てて背筋を正す。
こちらの挨拶が終わると、アルメリア側の挨拶になる。やはり、セオドア様に良く似たお二人は国王夫妻だったようだ。国王夫妻が挨拶した後、数名の人が紹介される。アルフレッドにそっくりな人物は、どうやらあちらの宰相のご子息らしい。
役職自体は国王の任命によってなされるが、役職を代々受け継ぐ家は決まっているらしい。在職中から、子息を秘書代わりに仕事を伝授していくそうだ。
まぁ、その方が代替わりによる政治の混乱が少ないので、合理的ではある。ご子息―――コンラード・アントンソンは現在現宰相の御父上について、仕事を勉強中とのことである。
挨拶は和やかに終わった。後は個別で軽く談笑してこの場はお開きとなる。
私は最初から気になっていた、コンラード様に近づく。
「初めまして、オリビアと申します。あの、昨日…?」
「あれ?どこかでお会いしましたか?おかしいな、貴女みたいな美しい人一度会ったら忘れないはずですが……」
私の探りを入れるような視線と言葉を軽やかに受け流し、艶やかな笑みでコンラード様は答える。
違った…?でも断定できるほどの判断材料はないし…。髪色だって、よくある色合いだ。
うーん、と首をひねる私に、コンラード様が笑みを深め、すっと手を差し出してくる。
「実は、近々ハンナ・カーメルの方々を歓迎する舞踏会が行われるのです。その際、ぜひ、貴女をエスコートする栄誉を頂きたいのですが?」
何それ、聞いてないんですけど…と思いながら、一方であぁ、と納得する。
次期宰相とはいえ、なぜこの場に同席されているのかと思ったら。彼は、私のエスコート役に白羽の矢が立っていたらしい。
チラリと相手の手首を見る。
折角気を利かせていただいたのに、悪いなと思いながら首を振る。
「あの、大変ありがたいお申し出ですが、私は、婚約者がいる身です。お見受けするところ、あなたは未婚のようですし、お互い誤解があってはいけませんので…」
やんわりとお断りすると、おや?と眉を上げられる。どうやら、女性を誘ってお断りされる経験などないほどおモテになるらしい。まぁ、この顔で、次期宰相の侯爵様だもの。そりゃそうよね。
「愛らしい妖精のようなお姿そのままのあなたらしい奥ゆかしさですね。正直、このアルストリアではあなたみたいな奥ゆかしい女性は新鮮です。私のことまでお気遣いいただきありがとうございます。しかし、客人を一人で入場させるわけには…」
いや、妖精のようなのは、フローレンス様の衣装効果による気のせいです、とは言えず口ごもる。
どうやら、きっぱり断ったつもりだったが、変に解釈され興味を持たれてしまったらしい。どうしよう。渋られると思わなかったので、視線を彷徨わせる。
「あの、私は間もなく結婚しますので、介添え人としてフレイヤ様の後ろにでも控えておりますわ」
流石にここまで言えば…と祈るような気持ちで見上げる。変に刺激して外交問題などになっては困る。向こうも引き際は心得ているようで、肩を竦めて引き下がる。
「では、せめて当日ダンスをご一緒させてくださいね」
その言葉にあいまいな笑みで返す。決して受けてはいませんからね。




