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トンネルに入ると、王都まで宿泊できるところはないということで、一心に王都を目指して進んでいく。
長い長いトンネル内は真っ暗で、窓を開けても面白いものはない。しかも、馬車がすれ違う広さしかないということで、止まって休憩することも難しい。
ここまでは、フレイヤ様の体調も考えて、休み休み1週間ほどかけてきたから、最後の強行軍に少し草臥れる。フレイヤ様は気丈に座っているけれど、やはり少し眠そうだ。トンネルに入ってからどれくらいたっただろう。数刻は経ったと思うが、日が見えないと時間すらもあいまいである。
急に馬車が止まった。
お、着いたかな?と思うと、ドアがノックされた。
外に出て思わず声が出る。眼下に白い石造りの街が広がっていた。
トンネルは少し高いところに掘られていたようで、ここから街が一望できるようだ。少しなだらかになった山の斜面に階段状に広がる町は、夕暮れの日に染まってオレンジ色に輝いていて、とても綺麗だった。
しかし、どうやってここから進むのだろう?
坂道ばかりで、真直ぐな道がないので、このまま馬車で進むのはとても困難に思われる。
フレイヤ様とハンナと、首をかしげていると、セオドア様が近づいてきた。
「最低限の荷物だけ持ってこちらへ」
セオドア様の指さす先を見ると、籠が用意されていた。どうやらここからは人力で運ばれるようだ。
「あの、他の荷物はどうするのですか?」
「あぁ、リフトで送るのだ」
「リフト?」
疑問を浮かべる私に笑って、セオドア様はある方向を指差す。
ここから、真直ぐ下まで張られた複数のロープ。途中、階段状の土地に等間隔で建てられた風車を繋ぐように張られていた。そのロープにはゴンドラが取り付けられていて、1つのゴンドラが進みはじめると、下からまた一台ゴンドラが上がってくる。どうやら、ロープは巨大な輪状になって、ゴンドラが王都内をくるくる回っているらしい。
「風車を動力にしているんだ…」
ゴンドラを一台手繰り寄せると、既に待機していたのであろう、アルストリアの使用人たちが手際よく荷物を乗せていく。そして、一人がゴンドラに乗り込むと、ゴンドラ内に通されたロープを一本掴んで、すいすいと進んでいった
すごーい、と目を見張っていると、後方ではあっという間に、乗ってきた馬車が解体されていた。馬車も組み立て式だったらしい。そして馬は荷台が外されると、自ら坂を駆け下りて行った。どうやら自分で厩舎まで帰ることが出来るらしい。あまりにも、自国とは違う常識に驚く。
私がひとしきり眺めるのを待ってくれていたらしい、セオドア様に籠に乗るよう、促される。気付いたら、フレイヤ様達は既に籠に乗っているようだった。
私は首を振った。だってもったいない。こんな不思議な街、歩かなきゃダメでしょ。
◆
宮殿は大きく、どこからでも見えるので、迷わず行けそうだった。
伸びをして馬車移動で凝り固まった体をほぐす。冷たい風がとても気持ちいい。白い漆喰で作られた建物で構成された街は、どことなく丸みを帯びていて可愛らしかった。初めて見る街並みに心が踊る。
王都に住める人は限られているらしく、店はどこもそれなりに高級そうだった。時間もないし、予算に限りもあるので、チラチラと窓から中を覗くだけだが、それでも楽しい。
窓の中に気を取られていると、ふっと、背中に衝撃を感じる。ちょうど階段の中腹にある店だったのであ、ヤバいと思った時には、体が投げ出されていた。
衝撃を予想して体が強ばる。
次の瞬間、衝撃が来るが、感じたのは予想していたより柔らかい感触と温かさ、そして懐かしい匂いだった。
ギュウと、誰かに抱き止めてもらったようだった。
恐る恐る目を開ける。
「あ、す、すいません……ありがとうございます」
心臓がバクバクしている。膝が笑っているが、何とか踏ん張って倒れないようにする。いつまでもしがみついているわけにはいかないので、とにかくお礼を言って、離れる。
抱き止めてくれた人物は、フードを目深に被っていて、顔は見えないが、背丈と体格から男性のようだった。その肩先に溢れるのは、麦わらのような金の髪。
男性は何も言わず、ぺこりとお辞儀だけして去ろうとする。
「あ、待って!お礼を……」
呼び止めたのに止まってくれなかった。
挙げかけた手だけが、中途半端にさ迷う。
「今の、アルフレッド……?」
(そんなわけ無いか、ここにいるはず無いし、そもそも髪色が違う)
誰かに押されたことと、アルフレッドに似た人に会ったこと。
そのどちらにも気持ちがざわざわして、私は散策を中断して、慌てて宮殿に向かうことにした。




