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ご覧いただきありがとうございます。
本日三回目の更新です。こちらから入られた方は、お手数ですが21話からご確認ください。
固唾を飲んだ私たちの前に、ゆっくりと人影が入場してくる。
私はその姿を見てあんぐりと口を開けた。
「……フレイヤ様!」
「そうか…」
横では、合点がいったというようにアルフレッドが呟いた。
フレイヤ様は、彼女より少しだけ年上の男の子にエスコートされている。赤髪で、涼やかな碧の目をした男の子は12歳くらいだろうか。
王の傍までゆっくりと歩いてくると、二人で王に礼をとった。そして、皆の方にくるりと向き直る。
王は鷹揚に頷いて、宣言した。
「ここに、隣国アルストリアの皇太子と、我が姪フレイヤの婚約が成ったことを宣言する」
王の言葉に会場にゆっくりとざわめきが伝わる。
「…姪?」
私は王の発言について行けず、ポロリと言葉をこぼす。
アルフレッドはそんな私の様子に、何か納得したように、あぁ、と言葉をこぼす。
「そうか。あなたは彼女の披露目の前に貴族界から離れたのでご存じないのですね。フレイヤ様は王姉の娘です」
「なっ……!?だって…フローレンス様は親戚の子って…!」
必死の顔で見上げる私にアルフレッドは苦笑した。
「義母上は王太后の生家の出です。王太后様は義母上にとっては叔母に当たりますね。つまり、フレイヤ様は、義母上にとっては従姪です」
「何それ!?じゃぁフローレンス様って、伯爵家にお嫁に来るなんてとんでもない身分の方なんじゃないの!?」
「えぇ。さらに、当時のジークは家督を継いだばかり。なかなか苛烈な反対を押しのけて結婚した二人ですよ。あの……歌劇のモチーフとかにもなってますが、ホントにご存じないんですか?」
「知らないわよ…!私にそんな雅な趣味があるわけないじゃない!!」
知らなかったとはいえ、私、とんでもない人たちを相手にしていたみたい。
失礼なかったわよね…。今更だが、わなわなと震える。
会場の隅でぎゃぁぎゃぁ騒いでいたから全く気付かなかった。はっと気づいた時には、目の前に本日の主役がいた。
「オリビア先生!私と友達になってくれた、セオドア様です!ぜひご紹介したくて、先生に招待状を送ったの。ご迷惑じゃなかった?」
会場の異様な雰囲気を感じ取ってだろう、心配そうな顔でフレイヤ様がこちらを覗き込む。私は慌てて首を振り、姿勢を正した。確かに、前に雑談した時に、友達を紹介したいと言っていた。そして、私は軽く応じた。
以前の私を殴りつけたい。安請け合いするんじゃないと…。
しかし、フレイヤ様を傷つけることは本意ではない。精一杯の虚勢を張ることにする。
「ご招待ありがとうございます、フレイヤ様。セオドア様初めまして、オリビアとお申します」
「あぁ。こんなに博識なフレイヤを指導している方が女性と聞いてぜひ会ってみたかったんだ」
「とんでもないです。フレイヤ様は、私の指導以前より、大変聡明な女性でしたよ。私の功績などでは…」
「いいえ、オリビア先生がいなければ、私、セオドア様と議論なんて、きっとできなかったわ」
フレイヤ様は私の手を取ってふるふると首を振る。
セオドア様は優しくフレイヤ様を見つめ、また私の方に視線を移した。
「私が将来、国を支えていくためには共に考え戦ってくれる者でなくてはならないと考えている。王族にとっての家とは、国そのもの。国を発展させていくためには、常に学び続けるフレイヤのような人はとても好ましい。たまたま遊学に来たこの国で、将来を共にしたいと思える伴侶に出会えたことは私にとってとても幸いなことだ。彼女の学びたいという気持ちを大事に育ててくれてありがとう」
「……もったいないお言葉です」
私はセオドア様に礼をする。
貴族たちが息をのんで見守る中、王が私を呼ぶ。二人に黙礼し、アルフレッドにエスコートされながら、王の前まで歩いていく。
「また会ったな」
いたずらっぽく笑う王に、丁寧に礼をする。
王は小さな声で話す。
「まだ、余には子がいない。姻戚関係による外交ができるのは、まだまだ先だと考えていたところに、フレイヤと隣国の皇太子との縁を結ぶことが出来た。今回の婚約で隣国の後ろ盾を得られることは、正直、大変ありがたい。これは、そなたの功績だ。また、借りができたな」
そして、王は声を張り上げる。
「今回の婚約成立の功労者であるそなたに、褒美を取らそう。望むものを言うがよい」
私はごくりと唾を飲んだ。
背筋を正して、王に答える。
「恐れながら申し上げます。私の微力な労を功績とお認めいただけるなら、どうかアルフレッドとの婚姻の際の後ろ楯になってはいただけないでしょうか?」
「おや?貴族位を返却したことで、アルフレッドと結ばれることは諦めたのではなかったのかい?」
王は意外そうに首を傾げた。
王の言葉に私は口ごもる。あの時はまだ、自分の思いをきちんと自覚していなかった。
王は次にアルフレッドにも視線を移した。
「そなたはどう考える?」
「私からもお願い申し上げます。ガルシア子爵家の件、褒章を頂けるというのならば、リビィとの結婚をお許しください」
王は少し困った顔をした。小声で囁く。
「…余の妹では不満か…?」
アルフレッドはきっぱりと言う。
「いいえ。他の誰でもダメなのです。…彼女でなければ」
そして、私に微笑みかける。
それを見て、王は気まずそうに自分の妹へと視線を移す。視線を受けた彼女は必死の形相でブンブンと首を振っている。どうやら、今回の婚約話、王妹もかなり乗り気だったようだ。王は困った顔をしながら、小声で妹に声をかける。
「これはそなたの分が悪いよ。もっと良い男を探してあげるから今回は諦めておくれ」
そして、私たちの方に顔を向け、全体に聞こえるように大声で話す。
「良かろう。次期隣国の王妃の教育係が平民では外聞が悪い。そなたを一代限りの男爵位に任ずる。そして、余がオーエンス伯爵家のアルフレッドとの婚姻の際の後ろ楯となろう」
思った以上の成果に口をあんぐりと開ける。
はっとして、口をを閉じて慌てて礼をする
「ありがたき事に存じます」
王は笑って言う。
「これで、以前の借りも返せよう。折角なので、フレイヤが嫁にいくまでよろしく頼む。そうだ、そなたたちの結婚の際は、王宮の聖堂を貸しだそう。日取りが決まったら言うが良い」
えええ!そこまでのことは求めてない!そんな目立つ結婚式、絶対嫌だ!
私が断ろうとしたところで、アルフレッドがにっこり笑ってお礼を言う。そして、近くまで来ていたフレイヤ様が、「結婚式にはぜひ招待してくださいね」と嬉しそうに言う。
いやいやいや、王族の出席する結婚式なんかもっと無理です!!
私の心の悲鳴は見事に押し流されて、何となくうまく纏まってしまった。
次で最後です。
更新は15時頃に出来たら良いな。
よろしくお願いします。




