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没落令嬢オリビアの日常  作者: 胡暖
恋人編

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21/65

 結局、私は腑に落ちないまま、でも、あのまま店で揉め続けるわけにもいかず、新しい服を着て外に出る。

 ううう、高い服を買って貰っておいて喧嘩売るなんて、ホント可愛くない女だなと思うわ。

 でも、だって…。

 ちょっと自己嫌悪で落ち込む私に、アルフレッドが囁く。


「勝手なことをしてすみません。でも、僕はあなたにそんな顔をさせたい訳じゃないんです」


 先に謝ってくれたアルフレッドに、観念して私も折れる。


「私も…素直になれなくてごめんなさい。服、すごく素敵」


 そう言って、ちらりと見上げると、にっこり笑ったアルフレッドから額にキスをされる。

 ちょっと、ここ外よ!?

 真っ赤になって額を押さえた私に、いたずらっぽく笑ったアルフレッドが言う。


「ねぇリビィ、お返しは?」

「…っ!調子に乗らないで!」


 そして馬車に乗り込む。


「ねぇ、次はどこへ行くの?」

「そうですね、腹ごしらえしましょうか」


 アルフレッドが連れてきてくれたのは、庶民の間で人気のちょっとお高いビストロだった。

 私は、ここでやっとアルフレッドの気遣いに気づいた。先程の呉服屋も、このビストロも、きっとアルフレッドは利用しないだろう。服はきっと、家までデザイナーがやってくるだろうし、食事は高級レストラン(グランメゾン)だろうし…。今日選んでくれたお店は、庶民には少々高根の花だが、貴族は利用しない。そして、もし貴族に見られた場合どんな顔をされるかは、夜会の経験から分かっている。昨日の今日にも関わらず、私が嫌な思いをしないように、わざわざ調べてきてくれたに違いない。私がこのデート(お出かけ)を楽しめるように…。


(…もしかしたら、これまでも、こんな風に私に気づかせないように守ってくれていたのだろうか)


 なんだか涙がこぼれそうになって俯いた。最近、涙もろくて駄目ね。

 食事の手が止まってしまった私に気が付いたのだろう、アルフレッドが声をかけてくる。


「どうしました?…お口にあいませんでしたか?」

「いいえ…すごく美味しい」


 首をかしげるアルフレッドに、微笑んで見せる。

 かちゃんと、アルフレッドのカトラリーが鳴って、アルフレッドにしては珍しいことだなと思う。


「…本当にどうしたんです?」


 口元を抑えたアルフレッドに問われたけど、こんな気恥ずかしいこと、面と向かっては聞けない。だから、唇に指を立てていたずらっぽく言う。


「内緒」


 アルフレッドがカトラリーを置き、両手で顔を覆ってため息を吐いた。


「………リビィが可愛すぎて辛い」

「え?なんて?」

「…いいえ、なんでも?」


 アルフレッドの声は小さすぎて聞こえなかった。

 問いかけてもはぐらかされる。何だろう。まぁいいか。

 料理に大満足で、店を出る。ここの会計も結局、アルフレッドが済ませてくれた。これは、私のへたっぴなハンカチだけじゃホントに割に合わないわ。何かお返ししないとよね…。また休み明けにでもルーシーに相談してみようかな…。


 次に向かったお店は、庶民的な雑貨屋だった。

 ここで義母へのプレゼントを選ぶのだ、というアルフレッドに微妙な顔をする。


「…さすがにここは失礼じゃないかしら…」


 私の言葉にアルフレッドは苦笑した。


「実はプレゼントするものには条件がありまして…。義父の機嫌が悪くなるので、服飾品は一切NG。かといって消えものは義母が悲しむんです…」

「…それは、難しいわね」

「えぇ。庶民的なものは逆に物珍しくて嬉しいようですので」


 だからこの店にしたのだと、アルフレッドは言う。

 そういう事情なら、仕方ないわよね。


「ちなみに、これまで贈ったものは?」

「養子になった最初の年にクッキーを贈ったら、義母に食べたら無くなると嘆かれたので、翌年からは順に…テディベア、オルゴールに、万華鏡(カレイドスコープ)…でしたかね」

「…ミシェルが喜びそうなものたちね」

「そうなんです。さすがにネタ切れで…」


 可愛らしいものを好むから、妖精さんなのかしら…?

 私は、難しい顔をしながら、ミシェルが好みそうなものを探す。そしてふと、窓際にキラキラ光るものを見つけた。アルフレッドの服の裾を引っ張って商品を指さす。


「ねぇ、あれはどう?」


 そこにあったのは、ステンドグラスで出来たガラスの小物入れだった。

 六角形の入れ物に、丸をくっつけて構成したようなドーム状のステンドグラスの蓋がついている。ガラスなので値は張らないが、なかなか繊細にできている。


「これに今流行りの宝石を模した飴を入れたらキラキラしてきれいじゃない?飴は食べれるし、食べた後もケースは残るし…」

「ほう、良いですね」


 アルフレッドは早速会計を済ませ、私に向かってにっこり笑う。


「恋人と選んだって伝えますね」


 なんと返事をして言いか分からず、目を泳がせた。


 今日、出掛ける前はあんなに気が重かったのに、過ぎてみればあっという間の一日だった。アルフレッドは紳士的に、暗くなる前に家まで送ってくれた。私が馬車から出る前に、少しだけ、と言ってぎゅっと抱き締められる。

 …幸せだな。

 私は、そっと目を閉じてアルフレッドの温もりに身を委ねた。

 この関係にいつか終わりが来るとしても、アルフレッドと付き合うと決断したことは間違いじゃなかったと、過去の私にも、未来の私にも伝えたい。


(アルフレッドにも、そう思ってもらえると良いな)


 そっと、アルフレッドから離れる。

 名残惜しそうに、それじゃぁまた休み明けに、と言うアルフレドの額にちゅっとキスを落とす。アルフレッドがぴしりと固まった隙に、スルリと馬車から降りた。


「…お返しよ。またね」

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