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没落令嬢オリビアの日常  作者: 胡暖
恋人編

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20/65

 翌朝も往生際悪く、もう一度全部服を出してうんうんと唸る。約束の時間は刻一刻と迫っている。私は溜め息をつき、4着の中から比較的ほころびの少ない服を手に取り、着替える。ルーシーに教わった簡単なヘアアレンジを施したところで、アルフレッドがやってきた。


「オ、オリビア…君にお客さんだよ…」


 部屋に呼びに来てくれたお父様の目がなぜか泳いでいる。

 どうしてかしら?アルフレッドは前に一回家に私を送ってきてくれたから、会ったことあるはずなのに。


「ごめんなさい、お待たせ…」


 部屋を出て玄関に向かうと、にこやかなアルフレッドから花束を差し出される。

 唖然としながら、一抱えもあるようなバラの花束を受け取る。ずっしりと重い。


「何なのよ…これ」

「初めてのデートくらい恰好つけさせてください」


 何を気障なことを…と思いながらも、花を贈られたことなど、これまでで一度もないので、少し面映ゆく思う。…職場を退職する時は毎度啖呵を切って飛び出してたしね。

 今日のアルフレッドは職場でよく見るスーツ姿ではなく私服だ。すっきりとした白いシャツの上から同じく白い刺繡を施された同系色のベストを着て、濃紺の裾の長い上着を着ている。ズボンは上着と同じ色だ。学園時代も制服があったから、そう言えばアルフレッドの私服を見るのは初めてなんだなと気付いた。シンプルだけどおしゃれで、アルフレッドのスラリとした長身を引き立てており、一目で仕立ての良いものだと分かる。もちろん()()()()なんて一つもないその姿に、落ち込む。


(隣に立つの…いやだな)


「わぁ!ねえさま、キレイ!ミシェも!!」


 ぱたぱたと軽く駆けてくる音がして足元に衝撃を感じる。

 足元に視線を移せば、初めて見るバラの花束に興奮したミシェルが、花束めがけてぴょんぴょんと跳ねる。私はその姿に苦笑してしゃがみこんだ。バラに棘がないことを確認して、すっと一本引き抜くと、ミシェルに差し出す。


「花束は重たいから、あなたでは持てないわ。ほら、これをどうぞ」

「ありがとー!」


 バラを持ってくるくると楽しそうに笑うミシェルを見て、ふとアルフレッドにお礼も言ってなかったことを思い出す。立ち上がりながら、アルフレッドにお礼を言う。


「花束ありがとう」

「……」


 なぜかアルフレッドは無言で私をじっと見つめてくる。

 何なのよ。私は首をかしげる。


「…オリビア、出かけるなら、その花束は私が預かろう。…あまりお待たせしてはいけないよ」


 お父様がそう言ってくれたので、おずおずと花束を渡す。

 そうは言っても、自分の姿とアルフレッドの姿を見比べて、出かける気力を失っていた私は、どうしようかと視線を彷徨わせる。

 アルフレッドが、すっと手を出してエスコートの姿勢をとったので、仕方なくその手を取る。誘導されるままに馬車に乗り込むと、いきなりアルフレッドにギュッと抱きしめられた。


「ちょっと、どうしたの…?」

「はぁ、大変不本意なんですが…幼子を養子にしたくなかった義父の気持ちが、少し分かりました」

「えぇぇ?」

「だって……敵わない」


 拗ねたような、アルフレッドの言葉に噴き出す。


「なぁに?ミシェルに嫉妬してるの?」


 何でだろう、先ほどまでの沈んだ気持ちが少しだけ軽くなった気がした。宥めるようにアルフレッドの広い背中に手をまわし軽くポンポンと叩く。


 目的地を知らされぬまま、馬車は走り出す。そして到着したのは、今の私には手の届かない呉服屋(ブティック)だった。


(私がデートに出掛けられるような服を持ってないことなんて、お見通しだったってわけね…)


 お針子だけではなく、デザイナーも抱えるその店は、庶民なら一度は入ってみたいと憧れる店だった。ここは、受注生産品(オーダーメイド)だけでなく、仕立てる際のデザインの参考にしてもらうための既製服(レディメイド)も置いてある。もちろん、これも買える。

 ただし、既製服であっても、一着で私の半月分の給料と同じくらいだ。

 高い…けれど、沈んだ気持ちで今日一日過ごすよりましよ。

 私は真剣に服を吟味する。その中の一つを指差し、試着させてほしい旨を伝える。アルフレッドが待ってるですって?…こんな高いもの試着も無しに買えないわ。

 愛想の良い店員が、試着室まで案内してくれる。採寸場を兼ねているそこは二階にある。広々とした空間にカーテンで仕切られた個室が4ヵ所あり、その対面の壁一面に大きな鏡が設置されていた。個室の一つに入って着替え、鏡で確認するために試着したまま外に出る。試着室から出ると、アルフレッドがにこにこしてこちらを見ていた。

 なんでいるの…。


「あぁ、素敵ですね。これ、サイズ良さそうなんでこのまま着ていけるようにしてもらえますか?」


 急に会話の主導権を握り、店員と話し出すアルフレッド。

 さらに、今私が着ているものだけではなく、店員に持たせた衣装を数着を私の顔映りを確認してから包むように指示をする。流れるようにお会計に話をもっていこうとするので、慌てて止める。


「ちょっと待って、自分で払うわ!しかも、こんなに必要ない!!」


 アルフレッドは涼しい顔をして首を振る。


「僕をプレゼント一つ贈れない甲斐性無しにしないでください。それに、僕と出掛けるのは今日で終わりじゃないでしょう?」


 アルフレッドの言葉に、う、と言葉を詰まらせながらも、反論する。


「…施しを受けるのはごめんだわ!」


 じっとアルフレッドを見ると、アルフレッドはふむ、と腕を組む。


「それなら、服と交換で僕に刺繍のハンカチをプレゼントしてください」

「金額が全然釣り合わないし、私が裁縫苦手なの知ってるでしょう!?」

「えぇ、もちろん。だからこそ、一針一針僕のことを考えて丁寧に刺して下さいね。その時間が、この服の対価です。あ、練習の品も全部受けとりますから。…勿体ないからって、妹さんのハンカチを沢山新調しないでくださいね」


 ちょっと、さらりとミシェルに張り合うのやめてくれる!?

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