直筆のお知らせ
「ルカは凄いですね。もうこんなに書けるようになってる」
「今じゃネットで簡単に外国の文字を見ることができるけど、機械じゃなく人の書いた生活感のある文字っていうのは、案外目にすることがないじゃない。アメリカ映画を見てれば手紙のシーンなんて沢山あるけど、日本語となると難しくてね。ルカは日本で生まれ育った貴方の字を読めることを、とても喜んでいるの。テキストと貴方の言い表し方とでは、こんなにも違うのかっていつも楽しんでるみたい」
「えぇ!だったら最初にそう言ってくださいよ。見本を見せてるつもりなんてなかったから、適当に書いちゃってました。それに俺、字なんて上手くないし」
「貴方の書く字が素敵だと思ったから、ルカの文通相手になってもらったのよ」
そう微笑みながらブラックコーヒーを飲むメアリーに、ちょっとどころではない不満が湧く。そんな目でルカから見られていたのなら、もっと丁寧に書きたかった。そりゃあルカの為に分かりやすく書いていたつもりだけど、そんなに深いところまで考えていなかった。
ルカが間違った日本語を覚えてしまったらどうしよう。今更そんな不安がこの胸に広がった。
「それで手紙には何て書いてあったの?」
「あ、はい。えっと」
《 ハル、こんにちは。元気ですか?ニューヨークはやっとあたたかくなってきました。少ししかない春に、みんなうれしそうです。この前は桜の写真をありがとう。とてもきれいでした。メアリーもきれいだったと、彼女に伝えておいてください。今日はハルに言いたいことがあります!夏休みに日本へ行きます!たのしみにしています!》
「って、え!ルカ日本に来るんですか!?」
驚きすぎて椅子から立ち上がる俺を、メアリーが面白そうに歯を見せて笑う。
「そう書いてあるなら、そうなんじゃない?」
「そんな、急に」
「急って、サマーブレイクまであと一ヶ月もあるじゃない」
「一ヶ月しかないんですよ!?」
まさか、ルカが日本に来るなんて。
「ソワソワしちゃって。そんなに焦ることかしら?」
「だって……!」
メアリーの顔を見る。こんなハリウッド女優みたいに綺麗なメアリーの孫なんだから、ルカはきっと物凄い美人に決まっている。
ただでさえ冴えない日本人なのに、ましてや女の子みたいだと言われる俺なんて見たら、ルカはショックで文通を止めてしまうんじゃないか。そもそも、だ。人見知りで社交性のない俺に、初めて会うルカを愉しませることができるとは到底思えない。
考えれば考えるほどネガティヴな感情しか出てこないことに、我ながらゾッとする。せっかくルカが遠路遥々来てくれるというのに、俺はなんて無能な奴なんだ。
「あの、ルカってどんな子ですか?」