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ギャラリーランコントル  作者: 津村
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最後の晩餐



 夕方。ルカとギャラリーに帰ると、裏庭には大きなバーベキューコンロがいくつもセッティングされていて、既に大勢の人で賑わっていた。


 マスターを含めた商店街の店主たち、町内会のおじさん連中、中学のクラスメイト、それに、トウマと高城さん。どうりで駅前が静かだったはずだ。


 そんな中メアリーはテキパキと動き回り、あれやこれやと忙しそうにしている。


 太陽は少しだけ山に隠れていて、あと何時間もすれば今日も終わり。


 夢の終わりの、最後の夜だ。


 そんな光景を突っ立って見ていた俺とルカは、みんなに呼ばれて輪の中に入っていく。ルカが来る前だったら問答無用で逃げ帰っていたのに、俺も随分と変わったものだな。


 ルカの保護者という免罪符は、明日からどうするつもりだろうか。


「二人とも、今日は忙しかったんじゃないの?」


 ルカが早速バーベキューの世話をしだしたので、残された俺は大人しくトウマと高城さんのそばに行く。


「今日は総括だから。二人がいいだろ」

「なんだそれ」


 どうやら今日一日暇だったらしい二人の皿にはしっかり焼かれた肉が山ほど載っていて、匂いにつられてトウマからの取り分から一番大きなブロックを頂戴した。


 肉汁が口のなかで溢れて、その旨さに悶絶する。さすがメアリーが焼いただけある。完璧だ。


「あいつ、いい奴だよな」


 トウマがルカを見る。


「そりゃあね、メアリーの孫だし」

「最初は怪しい奴だと思ってたんだ。ぼーっとしてる田舎者のハルに、変なちょっかい出すんじゃないかって」

「人のこと、バカだと思ってるだろ」

「自暴自棄になってる奴ほどバカな奴はいないだろ」

「誰がヤケになんて……」

「なってただろ?お前にとっては、それが精一杯のことだったかもしれないけどさ」


 どこからともなく俺の分のコップが回ってきて、風の吹くままアチコチに顔を出している松下が、こそにコーラを注いでいく。肉とコーラ。ああ、まだ健康に気を使う歳じゃなくて本当に良かった……と喜びを噛みしめるも、向こうでビールと串を両手に持ってはしゃいでいる大人たちの姿が目に入り、凄まじい敗北感がこの身を包んだ。


 人はいつか必ず死ぬ。そのことを悟っている以上に強い者はいないらしい。


「俺がハルの一番の理解者だと思ってたのにな」

「トウマは俺の一番の理解者だと思ってるよ」

「でも、なにも出来なかった」

「それはきっと……」


 トウマとのお使い以来、ずっと考えていたことがある。なぜ俺たちは、サッカーという話題にこんなにも過敏になってしまったんだろう。


 それは偏に、これが原因ではなかったんじゃないだろうか。


「俺たちは話すことを避けてたんだ。本当は言葉に出さなきゃいけなかった自分の気持ちを、それは悪いことだと思って、隠して消した。それが結果的に余計苦しむ原因になったんだと思う」

「確かにな」

「これからはもっと話そう。話して、ちゃんと終わらせよう。そしたら俺も、ちゃんと前に進むから」


 黙って話を聞いてた高城さんが、目を潤ませているのが分かった。安心しきったその顔に、とある試合でのワンシーンを思い出した。



『今日ここへ来ている人たちだけが応援してる訳じゃない。応援したくても来られなかった人も沢山いる。だからその人たちの想いの分まで、全力で勝ちを取りに行きなさい』



 監督にそう言われても、顔も名前も知らず、そこに立ってもいない人のことなど、あの頃は想像も出来なかった。


 けれど今なら、監督の言葉をよく理解できる。


 ルカは山盛りになった串焼きの肉を持ち帰ってくると、ちゃんと椅子に座って上から順に食べはじめた。どうやら周りに振る舞う為に焼いていたわけじゃなく、自ら食べる分の焼き加減を調整する為にコンロの前に立っていたらしい。


 来る途中で何本か持っていかれたようだが、一人じゃ食べ切れない量は無事に確保できたようだ。


 ルカの横にトウマが座る。


「似合うよなぁ、アメリカ人と肉」

「日本人と寿司も似合うよ?」

「当然だ。日本人だからな」


 俺が皿から一本取ってもルカは何も言わない。熱そうなそれにかぶりつくと、確かに火の通りが絶妙で、信じられないくらい柔らかかった。


 ルカはろくに噛みもしないで飲み込むものだから、喉に詰まってその都度コーラで流し込む。高城さんがよく噛むように注意すると、「本当なら丸飲みしたいくらいなのに?」と真顔で返した。


 そんなことをしていると、庭を一周して戻ってきた松下が集めてきた惣菜をテーブルに置いた。唐揚げとポテトに、モツ煮まで。ルカが人参スティックは要らないと返すと、松下に強引に口へ突っ込まれた。


「ルカ、アメリカに帰ったらさ、みんなに日本はサイコーだったって言えよ?」

「もちろんだよ」

「インバウンド頼みだからな、今の日本は」


 ルカは不味そうな顔をしながら、やっとのことで人参を飲み込む。


「それと、ハルとの文通は続けてくれよな」


 松下のその言葉に、ハッとした。


「そのつもりだよ」


 何となく永遠の別れだと思ってたけど、そうだよな、手紙はこれからも続いていくんだ。


 ルカの言葉を聞いて俺は安堵した。ナイスだ、松下。


「それに日本語の勉強も忘れるなよ?本当はルカが日本語の勉強をしてるはずなのに、ハルの方が英語ペラペラになってるじゃん」


 トウマに言われ、ルカが大笑いする。


「言えてる!今日もずっと英語で話してたしな」

「今日も、じゃなくて、二人で会話してる時はずっと英語だよ?」


 高城さんも呆れて笑う。


「まぁいいさ。続きは来年だ」


 気安く言ったトウマに、ルカは首を振る。


「来年は来られない。秋から大学に通うから、きっと忙しい」

「大学!?」


 三人の声がシンクロする。


「うん。行く気なんてなかったんだけどさ、気が変わったよ。試験も大変だったし、モッタイナイからね。あ、みんなもサマースクールに来ればいいよ!」


 ルカが通う大学がどこかは知らないが、サマースクールに耐えうる語学力を持った奴なんて、この狭い街にはいないよ……と、誰しもが年下の進学に驚きながら、とうとう空には星が瞬きだした。






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