日本語と英語
メアリーへ向けられた達筆な筆記体は、アメリカ人にしてはとても丁寧に書かれていて、それがルカの名前と住所を示していることは、日本人の俺でもすんなり理解できた。
渡されたハサミで慎重に端を切ると、中には五枚ほどの便箋の束が入っていた。開いてみる。確かに俺宛だった。
ルカと文通をしだして、そろそろ半年になる。
きっかけはメアリーだった。バイトを始めて半年が経った頃、ちょうど俺と同じ年頃の孫がいるから、文通相手になってくれないかと持ちかけられた。今時メールじゃなくて手紙?と訝しくも思ったけど、理由は一通目で分かった。ルカは日本語の勉強をしていて、それでわざわざエアメールを使って日本語で手紙を書きたかったようだ。
初めてルカから受け取った手紙には、小学校に入りたての子供が書いたような、歪なひらがなが大きく書かれていた。そんな文字を可愛く思い、俺はなんだか先生になった気分で読み解いていった。
《はじめまして。るかといいます。いま、にほんごをべんきょうしています。めありーからきいててがみをかきました。これからよろしくおねがいします。》
そして手紙の後半は、ブロック体で書かれた流暢な英文になっていて、そっちは一転、辞書を捲りながら読むことになった。
「筆記体で書かれていたら、メアリーに翻訳を頼むところでした」
そうメアリーに言うと、
「ブロック体だって辞書の先生に頼りきりなのに」
と笑われたのを覚えている。
メアリーのところにルカから返事が来るのは、早くても一ヶ月後。それでもアメリカと日本を繋ぐその手紙に、俺は運命みたいな深い繋がりを感じていた。
早速便箋を広げると、今回も前半は日本語で書かれていた。あんなに大きかった文字も随分と小さなサイズになり、中にはカタカナと簡単な漢字まで混ざっている。俺が英語を覚えるよりも遥かに早いスピードで日本語をマスターしていくルカには、毎回とても驚かされる。