彼女が目を背ける理由
「二人とも上手いじゃないか」
褒めてやると、満更でもない顔をした後、揃って悪巧みの顔になったので、
「駆け落ちか?」
「まだ明るいぞ」
などと言ってくる二人を無言で追い抜き、隣同士になっている屋台でイカ焼きと焼きそばを注文した。景気のいい返事とともに焼かれはじめた双方の匂いに、急激に胃が食べ物を欲しはじめる。
「榛名くんってイカ焼き好きなの?」
「食べ出があるからね」
「そうだよね、いっぱい食べるもんね」
そう言った後に、何かに気づいた高城さんの表情を見るのが辛くて、俺は急いで次の言葉を探す。
「これ、シェアでいい?唐揚げとベビーカステラも食べたいから」
「うん。じゃあ私、ベビーカステラの方を調達してくるね」
「すぐ合流するから、お店の前にいてね」
「分かった!」
元気に駆け出していく高城さんのポニーテールが跳ねて、何だかそれから目を離せなくなった。
高城さんはどうしてここに来たんだろう。
ルカに誘われて、何が楽しそうで承諾したんだろう。
高校の入学式で、真っ先にクラスが違う俺に挨拶をしてきたのは、何故だろう。
それなのに、クラスが同じになった時、席が隣になった時、体育祭で同じ係りになった時、いつも頑なに目を合わせないのは何故だろう。
そして俺が窓の外を見ている時、ぼんやりしてる時、誰かと話している時、いつも密かに俺のことを盗み見ているのは、何故なんだろう。
何故……?じゃない。
俺は気づいてる。
高城さんがサッカー好きなこと。隣町に住んでいること。ひとつ年上のお兄さんが、俺たちのライバルチームにいたこと。俺とトウマが、元アンダーの代表選手だと熟知していること。
それを分かった上で、じゃあ俺は高城さんに対してどうしろというんだろう。どう思えというんだろう。俺の気持ちに言葉をつけるほどに明確な答えなど、今は何も求めちゃいないのに。
けど、
けれど、もう逃げ続けることなんて出来る状況じゃない気がする。
自分からも、周りからも、トウマからも。
「二人でどこに行っていたんだい?」
せんべいを小脇に挟み、綿あめを振り回すトウマが俺の肩に腕を回す。反対にはいちご飴を持ったルカがお兄さんから焼きそばを受け取り、イカ焼きはまだかと様子を伺っている。
「ガクのおじさんたちが屋台の向こうで宴会してるから、ビールを届けに行ったんだ。ほら屋台の人、忙しそうだろ?」
「ガク、来てるのか?」
「来るわけないだろう。あいつがお酌でもしてたら、明日は大雪だ」
「確かに。で、雫は?」
「ベビーカステラ買ってくるって」
「そうか。じゃあ一人じゃ心配だから、ちょっと見てくるわ」
トウマが高城さんの後を追いかけていくと、ルカがやっと焼き上がったイカ焼きを貰い、「次は何を買う?」と辺りを見渡す。歩きながらタコ焼きやモダン焼きの説明をしていくと、ルカがふと、お面屋さんの前で立ち止まった。
「かっこいいな」
「お面、欲しいの?」
じっと見つめて、キツネの白い面と黒い面とで悩んでいたから、二つ買って白い方をルカの頭につけてやる。余ったひとつは、ルカが俺の腰につけた。
「うん、雰囲気でてるよ」
いかにもな夏祭りスタイルのルカに、後で写真を撮らねばなと心に決めた。メアリーに見せたら、きっと喜ぶだろう。
トウマと高城さんのところへ着くまでに、唐揚げとかき氷を買い足すと、境内の裏を通過して、御神木のすぐ近くにある小さな東屋に座った。そばにあるベンチではそれぞれカップルが座っていたが、トウマとルカがお構いなくその間を突っ切るものだから、逆にこっちが恥ずかしい思いをした。
「さぁ、食べよう!」
まずはお使いのお礼にと貰った缶ジュースを各々開けて、乾杯してから一気に飲む。
こんな風に外で食べるのは久しぶりだから、開放感と緊張で心がどうにも落ち着かない。けれど、ここからじゃ花火が見えないからか、人の出入りが穏やかなのか救いだった。それに男の下らない話しにも高城さんは終始笑っていてくれて、きっと人生で一番輝かしい高二の夏休みに、俺は予想外にいい思い出を作れていることを実感した。
きっと今日のこのシーンは、歳をとっても忘れないだろう。




